精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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滝沢武久著『こころの病いと家族のこころ』………その63

滝沢武久著『こころの病いと家族のこころ』………その63

滝沢武久著『こころの病いと家族のこころ』(1993年、中央法規)

第二節 家族会運動の展開
一 精神障害者とその家族の生活実態
 近年、精神医療も進歩し、開放的処遇、薬物開発などにより早(短)期入院(治療)、早(短)期退院が増えました。この論は特に若年層の急性期患者には、というかっこ書きで当たっています。しかし私の立場からは、日本の精神障害者の圧倒的多数を占める精神分裂病圏の患者が、長期在院化してきてしまった現状から目を背けてはならないと言わざるをえません。またその早(短)期、若年層の患者群が後日これら多数者の仲間入りしない保障はないという意味で、現行の、その多数の患者の家族の生活実態や、保護、扶養能力の現状などを分析しておかなければなりません。全家連では昭和六〇年、患者を抱える会員一万弱の家族の生活実態調査を実施しました。その結果をひと口でまとめると、長期療養化の結果、気力、財力、体力が衰え、変形した核家族(老親と障害者)化現象を呈しているということになります。患者、その多くが娘、息子ですが、思春期に初発し、両親は老齢化してしまっています。
 少しくその結果をみてみましょう。日本の精神障害者の数は推計で一五〇万とも一七〇万とも言われています。そのうち三五万床の精神科病床中、精神分裂病圏が七割を占め、全入院者の長期在院化とともに、中高年化が問題になっています。昭和五八年の厚生省の実態調査からみても五年以上の在院者が六割、退院できるが三〇%の一〇万人、五七%の一八万人以上の人が受け皿があれば退院できると国の公式調査結果が出ています。そう言いながら実際に退院指導が進まない現状があり、その理由の多くを家族の責任に転嫁していますので、それをできるだけ客観化した資料で判断してみましょう。
 昭和六一年七月八日毎日新聞、七月九日朝日新聞の朝刊に「精神障害の家族調査、退院後引き取りたいは二割」「将来への見通しなく不安を募らす家族(連合会)、初の本格的全国調査」とそれぞれの見出しの記事が載りました。実はこの記事の出所は全家連が昭和六〇年一〇月から六一年三月にかけて行った、全国の精神障害者家族約一万人と患者本人(回復者)約二四〇〇人のアンケート調査をまとめたものからです。記事は次のようなものでした。
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 精神障害者と家族の生活実態や、どんな福祉施策を求めているかを探る初めての本格的な全国調査を、家族団体の「全国精神障害者家族会連合会」(傘下会員約一〇万人)が実施し、結果をまとめた。調査で特に目立っているのは、精神障害者の闘病が長期に及びがちなため家族が高齢化していることだ。精神障害者の実態調査は、プライバシー保護問題がからんで実施が難しく、最近では厚生省が昭和五八年に実施した精神衛生実態調査があるがサンプル抽出の限界や大都市部で反対運動があったため不十分。しかし、全家連会員の間では「施策を前進させるにはまず、当事者が何を望んでいるかを客観的に示す必要がある」という声が強く、結成二〇年を機に、実施に踏み切った。調査は会員家族を対象にした「家族調査」と、全国のデイケア、作業所、回復者クラブ、共同住居の利用者が対象の「患者・回復者調査」の二本立てで、昨年一〇月から今年三月にかけて実施され、家族は九五四〇人、患者・回復者は二三五五人が回答した。
 〈高齢化〉家族調査によると、患者・回復者の四七%が四〇歳以上。七三%が発病から一〇年以上たっている。精神障害者の三人に二人が入院中でそのうち「閉鎖病棟」「半閉鎖病棟」に入っている人が五六%を占め、開放病棟は三二%だった。入院と在宅の割合は六五%対三五%、家族の年齢は、五七%までが六〇代かもっと年をとっている。
 〈在宅者の生活〉「勤めに出ている人」二一%、「家事をしている人」二八%、「作業所やデイケアに通っている人」二二%、「何の役割ももっていない人」も二三%いた。精神障害者が家族にいることから生じる家族の困難としては「将来の見通しが立たない」が七一%で最も多く、次いで「病気が回復しても働く場や訓練の場所がない」五五%、「心身ともに疲れる」五三%など(複数回答)。また、冠婚葬祭や旅行などに出かけるのに支障がある家族も四〇%にのぼった。
 〈入院者の生活〉外泊は、半年に一※、※二回かそれ以上の人が五三%。面会は、六八%の家族が月一回以上出かけており、厚生省調査では四三%にとどまったのと比べ、かなり多かった。
 〈退院の条件〉そして「退院させたくない」と答えた家族は三四%、「退院させたいが現実的に困難」は三〇%、「医師の許可があれば家に引き取りたい」というのは二〇%にとどまった。入院者の家族に退院が難しい理由を聞くと、「まだ病気がよくなっていない」五七%、「病気の管理ができず再発の恐れが強い」四七%、「家に戻ると問題行動が出る」二二%など、病状に関する問題が中心。次いで「高齢、病弱で家族が世話しきれない」二〇%、「患者と家族の関係が悪い」一三%、更に「家が狭くて居場所が無い」七%、「経済的に世話するゆとりが無い」一一%(複数回答)。また両親の死後、兄弟が引き取りを渋っている例はより深刻だし、「どんな条件がそろっても引き取れない」一三%という答えの裏には、社会や自分ともに偏見という重圧に耐えられない家族の姿が浮かび上がっている。
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 更に続けて先の新聞記事以上に詳しく述べると、調査回答者の六四%が患者の父母、その七五%は六〇歳以上で無職が四二%、年金収入が主たる人が三七%、世帯年収は二〇〇万未満のものが四一%を占めています。回答者の健康状態では「非常に具合が悪い」プラス「少し具合が悪い」が三九%に達しています。
 また入院患者をもつ家族の調査結果のうち、家族が「患者への治療や生活ぶりをよく知っている」が二七%、「少し知っている」が四六%ですが、面会に出かけるのに「遠方で時間的に負担が大きい」が二一%と、「生活に追われてゆとりがない」という人が一八%もいました。家族がめんどうをみられなくなったときの準備については、「将来の生活の場としては入院継続を予想する」三四%が一番多く「何かしなくてはと思いつつ何もできない」三四%、「福祉制度をあてにしている」三一%が高く、次いで「施設」も二五%、退院については入院患者をもつ家族の、実に六四%は患者の受け入れが難しいと答えています。これに対して家族の受け入れの可能性がある回答者別にみると、配偶者のいる兄弟またはその配偶者の「退院が難しい(受け入れ困難)」は七七%と父母の五九%より高く答えました。
 一方、在宅患者の家族では、患者の日常生活活動の自立について清潔や身だしなみに気をつける、金銭管理ができる、決められたとおりの通院服薬など基本的なものの八〇%ができているが将来の生活設計、生活のはりを見つける、友達づくりなど生活の中身を豊かにする活動ができているのは二〇~三〇%の人でしかありません。在宅患者は勤め以外の就労(作業所を含む)では四二%が収入を伴う仕事をしていますが、就労上の困難は多く、「作業能力低く肩身が狭い」二六%、「職場の人間関係がうまくいかない」二二%と出ました。勤めに出ていない在宅患者は「働きたい」が四五%で、どのような職場であればよいかの問いに、「雇主が理解ある人」四二%、「相談援助担当者のいる職場」三六%が多い回答でした。在宅患者家族は、「通院服薬するよう働きかける」八九%、「清潔な身だしなみ、規則的な生活を送るよう配慮する」八五%、他方「友人を作れるよう配慮する」四六%、「生活のはりを見つけるよう配慮する」四七%、「将来のためにお金や資産を貯える」五〇%が、それぞれの努力の中身でした。やはり世話をするのは母親が多く、次いで父、兄弟姉妹ですが、二五%の人は母だけという回答でした。また医療費等経済的負担、結婚問題、服薬継続の苦労、病気の変化、一家団らんの機会、親戚付き合い、などに多くの気苦労が多いと答えています。一方、「家族の外出に支障あり」の家族が四〇%となっていて、これは心身障害児(者)実態調査では三一%であるのに比べ高くなっています。特に患者が家庭内で無役割の場合五三%に達しています。在宅患者の将来の自立や社会復帰の可能性について、「世話してくれる人と同居していれば何とか暮らしていける」が三二%挙げられました。また「資産を残す」が二九%と出ました。将来の生活の場として「家族とともに」が四四%と最も多く、二〇%の人が「病院以外の適当な施設」と答え、なお家族がめんどうを見られなくなったとき、「年金などに加入する」二八%でした。また全体として兄弟がめんどうを見る見込みとしては、「世話をする約束をしている」プラス「たぶん見てくれるが」四二%で、「絶対にめんどうを見ない」プラス「見てくれないだろう」は二六%と兄弟に期待している親が多くみられます。
 まとめとしては次の四点に要約されます。
一 長い病気と患者・家族の高齢化-慢性の経過をたどる精神分裂病を中心とした精神障害者の病歴は長く、それを反映して患者・家族の高齢化が進んでいます。
二 患者・家族の自助努力-老齢化が進んでいるにもかかわらず、家族は患者のために熱心な働きかけをしています。
三 家族の扶養能力の低下と障害者を抱える家族の生活困難の増大-家族の自助努力にも限界があり、扶養能力の低下が認められ、そして特に入院患者の場合、患者を家族が引き取るのは非常に困難になっています。
四 制度的対応の立ち遅れ-以上のような現状に対して、制度的対応は著しく立ち遅れていて、家族は地域の中で孤立し、なすすべを知らない現状にあり、この高齢の家族の余生を考えるとき、一刻も早い、福祉法をはじめとする精神障害者・家族に対する生活援護の施策の確立が望まれるわけです。
 このように家族は退院できる患者の引き取りを、はたして「拒否」しているのでしょうか。私の立場から言わせてもらえば、多くの家族は引き取りたくても引き取ってやっていけない(自信と裏付けがない)のです。決して「拒否」しているのではないのです。なぜこれほど言葉にこだわるのかとご指摘を受けるかもしれませんが、永年精神科医師たちに「治してください」「生活できるようにしてください」と言い続けた私の母も含めて、非力な明治・大正生まれの、昭和の戦後復興や高度経済成長のため、それなりに精いっぱいがんばった勤勉な患者の親である家族が、長い間精神障害者家族として名もなく、貧しく、恥ずかしく人生を生き、高齢化し気力も財力も体力も衰えた現在、なおかつ家族会活動を積極的にやっている熱心な家族でさえこの生活の現状であることを、どうか察していただきたいからなのです。
 もとより家族によっては、家、屋敷など財産をもち、預けっぱなしでろくすっぽ面会にも来ない家族がいるという病院職員の声も承知しています。しかしそうした家族が本当に数多くいるでしようか。あるいはなぜそうなったのでしょうか。この結果についていろいろな評価をすることができますが、その多くの問題点をもちつつも家族がなんらかの活動をする例として、やはり現状では家族会活動が一番大きな具体的な効果をもつ活動なのでしょう。
by open-to-love | 2009-12-29 10:48 | 滝沢武久 | Trackback | Comments(0)