精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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滝沢武久著『こころの病いと家族のこころ』………その60

滝沢武久著『こころの病いと家族のこころ』………その60

滝沢武久著『こころの病いと家族のこころ』(1993年、中央法規)

二 全精神病院で病棟懇談会や家族教室、家族会を!
 初期・若年患者の家族の場合、今までの日本の精神医療が歩んだ結果のしわ寄せがいくつもありますが、現段階でもできることとして、せめて患者の家族には意図的に病気の性質、服薬や継続的治療、家族のかかわる役割の大きさなどの重要性を伝達すること(指導啓発)が必要です。しかしこの際、あまりストレートに従来の教科書にあるような、悲観的な長期療養患者像ばかり強調するのでなく、どうしたら一日も早く社会復帰できるかということを具体的に表現(説明)しなければなりません。ところが今の精神病院の長期入院患者を看るだけの経験しかないスタッフでは社会復帰の見返しを伝える根拠がありません。医師、看護婦も、むしろ外来に通って来る、働いている患者の、その生活実態などの良い面を見て、家族を励まし続けていってほしいのです。その意味で精神病院が病棟ごとの懇談会、家族教室、家族会などで次の点を留意して働きかけてほしいのです。
 例えば、患者が若ければ両親も若いだけに、初めて「精神病」とか「精神病院」の名を聞いた家族は、初期にはそれを否定し、疑い、現実から逃げようと激しくもがきます。そうした親たちの心を受け止め、励ましながら、やがて現実を直視しようとする家族には、事実関係に基づく客観的な判断をし、必要な適切な助言をしてほしいものです。精神科医療、看護とはそうした「気配り」の働きかけではないかと思うがいかがなものでしょうか。
 ある程度若い患者の家族は、いまだ父親は現役で仕事に忙しく、ほかにも子どもがいるなどして一人患者だけのことに大きな時間が割けないこともあります。医療者側からみれば、自分の子どものことだから仕事を休んでくるのは当然、という考え方もありますが、一、二度はともかく、数日もしくは五、六回、あるいはそれ以上などになると、働き盛りの父親も仕事との関係で悲鳴をあげるか、あるいは病院から足が遠のきます。医療機関なんだから良くしてくれるはず! 任せてもよい! という気持ちになるのです。また母親の場合、仕事をしていないときなどは、内心いつも患者のことが心配になるし、親として自分たちのしつけや育て方がいけなかったのかと自責・自罪感をもちがちです。あるいは患者との接触時間が多いだけに患者の状態に一喜一憂するのです。ときには、患者以上に情緒不安定を呈することがありますので、こうした点をよく観察しつつ温かく落ち着いた助言(指導)してくれると、効果が出て、安心し患者の問題に協同して役割分担を行うことができるようになるのです。
 私の兄の場合もそうでしたが、昭和二〇年代、三〇年代に発病して、繰り返して療養等入院をせざるをえない患者の家族は、そのほとんどが両親は高齢化し、あるいは死別し、兄弟姉妹は離反(別居、独立など)します。家族員の中には一種のあきらめに似た思いがあります。それは何回、何年もの期待外れの結果、自分たちの心の中の思いを抑制しなければやっていけない心境になるからです。親は年をとればとるほど「自分たちが死んだらこの子(といっても中・壮年だが)はどうなる」、いっそのこと「この子と一緒に死にたい」ということになるのです。兄弟姉妹たちは「両親が一生懸命にやってもどうにもならないし、自分の人生もあり、結婚、仕事、子育てなど他人同様のこともたいへんである」のです。
 全家連の会員は、むしろこちらの層の人たちが多いのです。しかし、それでもなおかつ高齢の両親が患者の治療的役割に大いに役立つのです。それは若いとき、目にみえない心理、精神的な動きで直接的に治療的役割を演じて、多くの体験を積んだ(それが必ず成功というより失敗が多いが)ことから、今度は一人(個人)ではなく家族会のようなグループ(集団)により、個人でできないことを同じ病人をもった家族同士で互いに支え合うことができるのです。あるいは最近は地域社会で、欧米ですでに実施されているリハビリテーション活動の一種、シェルタードワークショップ(保護的工場)やデイケア活動が日本で行われていて、退院後の患者の地域作業所運営場面に親の職業体験が役立つという形になってきたのです。
by open-to-love | 2009-12-29 10:45 | 滝沢武久 | Trackback | Comments(0)