精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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滝沢武久著『こころの病いと家族のこころ』………その57

滝沢武久著『こころの病いと家族のこころ』………その57

滝沢武久著『こころの病いと家族のこころ』(1993年、中央法規)

六 自立に対応する市民社会のあり方
 まず障害者が他人との関係(市民、第三者との関係)で、自己主張することで周囲(他者、関係者)からの支援を獲得する力も自立という考え方の醸成が必要です。自らの力量を越える問題状況に直面したとき、素直に、へつらわず、かといって声高に権利を主張せず(しても構わないが)勇気をもって他人に援助や協力を求めうる人こそ自立的人間です。すなわち、見ず知らずの他者からの支援を獲得する力を身につけることも自立です。見ず知らずの他者に精神障害(心の病の結果の障害をも含めて)を理解させることも自立へのあかしであるわけなのです。
 「他人の世話」と自立とのかかわりでは、「身体がどこも悪くないのに他人の世話になるのは心の重荷になって仕方がない」という考えを克服しなければなりません。確かに「人に迷惑をかけるな、世話になるな」という考え方を多くの人は疑ったことがありませんでした。多くの親は、自分の子どもに最低の望みとして「他人様の世話にならず、別な表現で言えば迷惑をかけずにやっていけるように」と言います。人に迷惑を、世話をかけないというのはいわば最小限の良識として、今の社会ではあまり疑われていないことかもしれません。しかし、一般市民だって、大なり小なり相互に支援し合っているのに、とりわけ障害(病)者にそれを強要するのは、障害者に対する強力な呪縛以外の何ものでもありません。一般に精神障害者は、いつも窮々とし、無理をして気持ちにゆとりをなくし、ますます自分の内に閉じこもりがちとなります。だから心身障害者たちの人権が地域で守られるのなら、〝心病む〟精神障害者だって多少は手間、暇かけても安心して地域社会に住めるようにしなければならないというのも、当然必要な考え方です。
 障害者を生活主体者と位置づける地域社会とは、障害者を一般の市民と同様の人間として社会的諸要求をもつ生活および権利の主体として受け入れられる地域社会であり、そういう地域社会づくりが必要であるという考え方も重要です。これは人権確立の主張であり、具体的な生活の諸要求の積み重ねこそ、人権確立につながります。
 また障害者の自立生活運動が提起するもののうち精神障害者にとっても大きな課題は、親、兄弟姉妹からの独立、力の形成ということです。我が国の伝統的な社会的、精神的風土の中では、病気や障害の発生を親の個人的責任ととらえる意識の問題や、親の生存中は親が扶養介護の全責任をもつべきだという、家族責任主義的な考え方(保護義務者制度など)がいまだ思想としても制度としても残っています。親側にも過大な責任感や思い込みが生まれ、管理的保護が行われる結果、障害者の独立した人格形成が阻害されたり、成人に達しても(社会的外聞や体裁、見栄のため)社会参加の機会が厳しく制約されるといった問題が生じています。そこで、自立形成を求める運動の一つのステップとして、地域作業所、憩の家やサークル、グループ活動とともに共同住居などが求められるのです。すなわち、一般に非障害者は成人すれば早晩親から独立し、親も扶養・介護責任から解放されるのが常識(通念)です。障害者の親も、本人が望めば扶養・介護の基本的責任から解放され、社会的な扶養・介護により障害者が地域で自立しうることを当然とする社会的常識をもつ地域社会づくりや国、地方自治体の社会復帰、福祉システムづくりが必要なのです。精神病(障害)の発症、再発などの経過を振り返ると、むしろ、この親との関係などが対人関係障害の再燃に大きな影響を与える場合が多く、この点を配慮する必要があることに気づくべきです。
 そして精神障害者の結婚と言うと、ことさら目くじらをたてて、遺伝、子育て、経済的自立等々の難点を声高に言う風潮があります。しかし、異性との出会いを通じて恋愛から結婚し、子どもが生まれ、育てることも、人としての自立生活のごく自然なプロセスの一つです。親、家族から離れた独居生活をし、自らの伴侶を選び、家庭生活づくりをしていく過程では、さまざまな経験をします。現実にはいまだ服薬したり、就労までに至らぬ場合、多くの困難が伴います。しかし全面介助の全身性障害者が異性との出会いを通して恋愛し結婚し、介助を前提にしつつ子どもを育てることが自然と考えられる地域社会が出来つつある中で当然、ごく自然に精神障害回復者の出会いもあります。現に回復者クラブなどを通じて結婚、家族形成を実現している多くの精神障害者がいる現実を見て、私たちは認識を改める必要があります。
 こうして考えてくると、自立の諸条件というものは一般市民のだれもがこうした諸点を大なり小なり体験してきていることなのです。
by open-to-love | 2009-12-29 10:41 | 滝沢武久 | Trackback | Comments(0)