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精神病と離婚原因(『新・離婚をめぐる相談100問100答』)

第一東京弁護士会人権擁護委員会編『新・離婚をめぐる相談100問100答』(2006年、ぎょうせい)

第2章 離婚手続、離婚原因

Q10 精神病と離婚原因

 妻は結婚生活10年後頃から精神分裂病にかかり、これまで7年間、入・退院を繰り返しています。私は一生懸命妻を介護してきましたが、仕事もできず疲れています。妻と離婚したいのですが、離婚の請求は認められるでしょうか。また、離婚の手続を説明してください。

A 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき、その配偶者の療養・監護について具体的方途があるときは、離婚は認められると思われます。また、回復の見込みのない強度の精神病に該当しないとされる場合でも、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するときには、離婚が認められる場合があります。

1 精神病の意義及び程度(離婚認容の条件その1)

 民法は、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」は、離婚の請求が認められるとしています(民法770条1項4号)。
 ここでいう「精神病」とは、統合失調症、そううつ病、偏執病、初老期精神病などの高度の精神病といわれており、健康状態と高度精神病の中間にあるアルコール中毒、麻薬中毒、ヒステリー、神経衰弱症(ノイローゼ)などは該当しません。後者の症状を理由として離婚を請求する場合は、本条項4号ではなく、同条項5号の離婚原因に該当するか否かを検討することとなります。(Q11参照)。
 また、「強度の」精神病というのは、婚姻の本質である夫婦の協力義務(民法752条)が十分に果たし得ない程度に精神障害がある場合を意味しています。事理弁識能力を欠き、成年後見開始の審判を受けているような場合のみを意味するのではありません。
 さらに、精神病が「回復の見込みがない」こと、すなわち不治であることを要します。この点、判例は、精神病の程度が一時より軽快しており近い将来一応退院できるとしても、通常の社会人として復帰し、一家の主婦としての任務に耐えられる見込みがない場合につき、本条項4号により離婚を容認しています(注1)。他方で、精神病で入院歴があるだけでは足りず、度々入院していてもその都度日常生活に支障がない程度に回復している場合は、不治の精神病にはあたらないと思われます(注2)。不治の精神病にあたらないとされたときも、民法770条1項5号の問題となります(Q11参照)。

2 療養・監護の具体的方途(離婚認容の条件その2)

 回復の見込みのない強度の精神病に該当し、民法770条1項4号の離婚原因があるとしても、裁判所がなお婚姻を継続すべきと認めるときは、裁量により離婚請求を棄却することができます(民法77条2項)。
 この点、判例は、「民法は単に夫婦の一方が不治の精神病にかかった一事をもって直ちに離婚の訴訟を理由ありとするものと解すべきでなく、たとえかかる場合においても、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を構じ、ある程度において、前途に、その方途の見込みのついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない法意である」と判示し(注3)、離婚後精神病者の療養・監護について十分な補償がない場合には、離婚の請求を認めないとしてきました。しかし、この判例は、裁判所の裁量により離婚を棄却するものだとか、離婚請求者に経済的余裕がない場合は不可能を強いられることになるとかして、学者から強い批判がなされていました。
 その後も判例は、基本的には同じ理論に立っていますが、精神病者の生活の保障の要件をやや緩和して、離婚の請求を許す傾向にあるといえ、精神病者の実家に療養費の負担をするだけの資力があるうえ、離婚請求者が過去において配偶者に入院費等を支払い、将来の療養費についても自己の資力で可能な限り支払う意思を表明している事案について、離婚を認めました(注1)。下級審の裁判例においても、①親族等による精神病者の引受態勢ができている場合(注4)、②離婚請求者が離婚後の扶養・看護に全力を尽くす旨誓っている場合(注5)、③離婚請求者に離婚と同時に財産分与を命ずることによって、療養費や生活費の相当額が負担される場合(注6)、④生活扶助・医療扶助等国の保護による療養が可能である場合(注7)、などの事案で離婚が認められました。

3 強度の精神病で意思能力がない場合の離婚手続

 配偶者の一方が回復の見込みのない強度の精神病にかかった場合、その配偶者と離婚するには、当該配偶者に離婚するについての意思能力(離婚の意味と効果が理解できること)が必要とされます。この点、精神病の症状によっては、離婚するについて意思能力がある場合があります。この場合は、協議離婚あるいは調停離婚手続によって離婚することが可能です。裁判離婚に際しても、成年後見人等の同意を得る必要はなく、単独で訴訟を追行することができます(もっとも、受訴裁判所の裁判長が申立て又は職権で弁護士を訴訟代理人に選任することがあります。人訴13条22項、同条3項)。
 しかし、通常は、回復の見込みのない強度の精神病にかかっているような場合には離婚についての意思能力がない場合が多いと思われます。この場合は、離婚を求める配偶者は、精神病にかかっている他方配偶者について、家庭裁判所に後見開始の審判を受けた場合は、家庭裁判所で選任された青年後見人(人訴14条1項、民法843条)又は成年後見監督人(離婚を請求する配偶者が成年後見人の場合。人訴14条1項但書、同条2項、民法849条の2)を被告として、家庭裁判所に離婚の訴えを提起することとなります(注3の判例に同旨)。

4 民法改正

 なお、Q1の4(3)で述べた通り、現在議論されている改正民法案では、現行民法770条1
項4号の規定が削除されており、強度の精神病は明示の離婚原因とされていません。しかし、これは、同条項4号の趣旨は既に同条項5号の中に含まれているからであり、強度の精神病が離婚原因にならないとする趣旨ではないと理解されています。

(注)
1 最判昭45.11.24判時616号67頁
2 東京高判昭47.1.28判タ276号318頁
3 最判昭33.7.25判時156号8頁
4 大阪地判昭33.12.18下民9巻12号2505頁
5 横浜地判昭38.4.12判時341号36頁
6 札幌地判昭44.7.14判時578号74頁
7 東京高判昭58.1.18判タ497号170頁
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by open-to-love | 2009-06-26 13:07 | 恋愛・結婚・離婚 | Trackback | Comments(0)