精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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「精神障害者家族として、民生委員に期待すること」①

「精神障害者家族として、民生委員に期待すること」①

精神障害者家族として、民生委員に期待すること

2009年5月28日(木)午前11時15分-12時15分、ラ・フランス温泉館「ホテル湯楽々」
岩手県央地区民生児童委員協議会 平成21年度研修会講演
(盛岡ハートネット事務局&岩手日報記者 黒田大介)

■私の話したいことを一言でまとめると…

 民生委員と精神障害者とのかかわりは、「福祉」的側面が中心であり、精神障害者が地域に生きる時代にあって、地域のよき理解者としてのかかわりを期待します。その上で、精神疾患・障害には「保健」「医療」的な側面もあり、精神障害者(当事者)の問題はその家族の問題でもあり、母子家庭の生活困窮、DV、自殺未遂など他の諸問題と複合して表面化することも多いため、「福祉」的側面を超えたディープなかかわりが民生委員に求められることもあり得ます。その際はとりわけ、ご自身の価値観を相手に押し付けてしまうような「上から目線のかかわり」ではなく、専門職と連携しながら、相手の立場に立った「支持的なかかわり」をしてほしいと思います。

■01■事例1…ある女性と民生委員との不幸な出会い
■02■事例2…わが家の場合
■03■なぜ不幸な出会いになってしまったのか?
■04■障害について学ぼう
■05■一つの原因に決めつけないようにしよう
■06■当事者の問題は、往々にして家族の問題でもある
■07■住民と日常的な接点を持とう
■08■世の中にはいろいろな問題があることに理解を深めよう
■09■女性問題にも理解を深めよう
■10■おわりに…ある女性のメッセージ

■01■事例1…ある女性と民生委員との不幸な出会い

 このたび、民生児童委員協議会で講演する機会を与えていただき、どうもありがとうございます。私の体験がみなさんの活動の参考になれば幸いです。
 ただ、私の体験の前に、自閉症のお子さんをお持ちの母親の体験を紹介します。本論からは外れるかもしれませんが、自閉症も精神障害も共に「見えない障害」ですし、このようなケースは、精神でも十分にあり得ると思います。加えて、私の守備範囲は精神保健医療福祉分野ですが、それだけをみなさんにご理解いただくのではなく、精神以外の障害分野にも、さらには、障害以外のいろんなことで苦しみを抱えている人にも理解を広げていただければ、という願いもあります。

 数年前、ちょうど児童虐待事件がマスコミで盛んに取り上げられ、社会問題になっていたころの出来事です。

 「暑い夏でした。あのころはまだ、私自身も、我が子が自閉症だと、はっきりと分かっていたわけではなかったんですよね。
 あのころは大変でした。子どもが叫んだり、自傷行為をしたり。自分で自分の頭を叩き、傷だらけでした。大きな絆創膏が必需品でした。
 子どもは子どもで、母親に伝えたいのに、伝わらない。私は私で、子どもとどうかかわればいいのか分からない。互いがうまくコミュニケーションできないもどかしさが、外部に向かった、つまり、自傷行為になったのだと思います。子どもが騒ぐ、抱きしめる、寝付かせる、うとうとしたら、また子どもが騒ぐ、抱きしめる…。朝昼晩、24時間、そんな毎日…。睡眠不足で私はふらふらでした。
 そんな時、民生委員が家にやってきました。初めてお会いした方でした。たぶん、近所の人が、わが家の状態を、地区担当の民生委員さんに伝えたのでしょう。暑かったから窓も開けっ放しで、子どもの泣き声は、隣近所に筒抜けでしたし。
 その民生委員さんはわが家を訪れ、私に「お母さん、これ読んで下さいね」と小さく折りたたまれた小冊子を渡し、帰っていきました。小さな紙には、印刷された文字で「お母さん、それは虐待です」と書いていました。裏にはその民生委員の名前が書いてありました。とにかく疲れて思考能力が減衰していましたから、私は書いている内容がすぐに理解できなかったくらいでした。少しして、その民生委員は、私が虐待していると思っていたんだなあと分かりました。ショックでした。「私、虐待なんかしてないのに…」。涙がとめどなく流れてきました。止まりませんでした。
 なぜいつも「お母さん」なんだろうとも思いました。子どもの自傷行為の治療で病院に行ったとき、「お母さん何かしなかった」と聞かれたこともあります。どうして、いつも母親が責められるんだろう、どうして父親ではなく、母親なんだろう…。どうして私は虐待していると決めつけられたんだろう。涙がとめどなく流れました…」

 この女性の体験から私たちが学ぶべきポイントを、私なりに挙げてみたいと思います。むろん、その民生委員を責めるのが主眼ではありません。

□原因1□民生委員に、障害(自閉症)に対する理解がなかった
□原因2□民生委員が児童虐待と決めつけていた
□原因3□子どもの苦しみは理解できても、お母さんの苦しみが理解できなかった
□背景1□母親と民生委員との間に、日常的な人間関係がなかった
□背景2□「児童虐待を防ごう」という強い社会風潮にとらわれていた
□背景3□子ども、家庭の問題は母親が担うという社会通念が今なお根強い
 
by open-to-love | 2009-05-29 11:02 | 黒田:民生委員協議会講演 | Trackback | Comments(0)