精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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増野肇「みんな一緒に生きている 統合失調症理解のために」

増野肇「みんな一緒に生きている 統合失調症理解のために 第3版」
(やどかり出版、1994年初版、2000年改訂第2版、2004年改訂第3版)

増野肇「みんな一緒に生きている 統合失調症理解のために」_a0103650_9303926.jpg
 統合失調症(精神分裂病)についてわかりやすく説明し,周囲の人たちがさりげなく関わることの大切さを説いている.家族,友人,ボランティア等が,平易に読めて,安心して関わりを進めていくための基礎的な学習のための1冊である.ともに生きる方向性を指し示している。

目次
はじめに

 40年前に筆者が医師になったころ、精神分裂病(統合失調症)の原因についての多くの研究が行われていたが、原因らしきものが見つかってもやがて否定されることになり、おそらく今世紀には、その解明は不可能であろうと言われていた。それが、今世紀が終わろうとしている現在、とくに、ここ数年の精神医学における成果は著しいものがあり、多くのことが明らかになってきている。それは、脳の科学的な探求における進歩と関係があり、神経伝達物質や海馬や前頭葉といった部分での問題が指摘されている。一方で、社会心理的なアプローチも成果を上げ、多くのリハビリテーションにおけるシステムが整備されてきた。この両者の改革ともいえる進歩がもたらしたものは大きい。したがって、以前ほど悩むことも少なくなってきているといえるだろう。
 しかし、それらの成果が十分に反映しているとはいえない。社会は経済中心の生き方に行き詰まりを見せているとはいえ、依然として、強者の理論で進んでいる。十分な恩恵を受けるには、まだまだ先のことに思われる。精神病院には、依然として長期入院のなかに毎日を過ごしている慢性化した人たちがいるし、この病気の知らせを受けて、目の前が真っ暗になり、生きるすべを失っている人たちも多い。その人たちに、どうしたら早く、これらの成果を反映させられるのだろうか。
 そして、ここ数年の間にみられる多くの事件がなにかを呼び掛けている。いじめ、過食などが、幼児虐待や女性の幽閉、こどもや老人を対象とした殺人など、これまでの常識を超えた想像を絶する事件が多発している。その背景にあるのは社会自体の問題であり、そのなかで、精神分裂病(統合失調症)を超えて、人格障害、PTSD、依存などの病理が、多くの人たちのなかに広がっているように思える。社会そのものが、これらの人たちが示すサインに目を向けて、なにかを変えていかなければならない時代がきているように思える。
 そのようなことを考えると、多くの市民がこの問題に目を向け、自分たちの問題として考えていくことが必要である。精神保健ボランティアへの期待はここにある。精神分裂病(統合失調症)への理解を深めるということは、それを通して、人間の心に関心を持つことであり、社会を変えていくことでもある。この病気に悩む人や家族だけではできないことを、一緒になって考え、実効していく人が増えることが、現在の我々が直面している危機を乗り越える手段の一つであるといえよう。
 そのような観点から、新しい知識を多くのボランティアに活用してもらい、身の回りの世界を改革していってほしいと考えて、本書を改訂した。当事者や家族の方が、これによって新しい知見を生かし、自分たちの福祉に生かしていかれることはもちろんであるが、そこに満足せずに、更に大きな目標に向かって進む道筋を見つけていってほしいと願っている。

第1章 当事者が主役となる時代に

1.私と分裂病(統合失調症)の人たちとの出会い
 1)初声荘病院と治療共同体
 2)栃木県精神衛生センターで
 3)大学で教えるようになって
2.ボランティアをされる方に
 1)なぜボランティアなのか
 2)何が求められているか
 3)そのために何を学んだら良いのか
 4)ボランティアの方との話し合いから:座談会とまとめ

第2章 統合失調症はどんな病気か

1.この病気に悩む人たち
2.分裂病(統合失調症)はどのような病気か
 1)過去の分裂病(統合失調症)観
 2)ストレス脆弱説
 3)脳の働きと遺伝
 4)新しい考え方
 5)その他の病気との関係
3.統合失調症を危機理論から考える
 1)危機とは
 2)症状は危機の助けを求めるサインである
 3)どのような危機が問題となるのか
本節のまとめ
4.統合失調症の経過
 1)前駆期
 2)急性期の状態
 3)休息期
 4)回復期
 5)再発の危機と慢性化の恐れ
 6)統合失調症の予後
本節のまとめ

第3章 どのように援助するか

1.前兆期の援助
2.急性期の援助
 1)急性期の心理状態
 2)安心を贈る
 3)同じ世界に立つ、傾聴する
 4)情報の提供
 5)薬の利用
 6)入院の必要性について
 7)コンサルテーションの勧め
3.休息期の援助
4.回復期の援助
 1)安心できる場を作る
 2)就労の問題
 3)結婚の問題
 4)段階的に世界を広げる
 5)社会の偏見
 6)ボランティアの役割
 7)前兆期、急性期、休息期、回復期のまとめ
5.再発と慢性化の防止
 1)再発を起こすもの
 2)再発は学習の機会だから恐れない
 3)健康な部分への働き掛け
 4)再発についてのまとめ
6.家族への援助
 1)なぜ家族が重要なのか
 2)家族会
7.自死(自殺)を防ぐ
8.自分たちの援助

第4章 地域社会のサポートシステムを考える

1.現在の地域サポートシステム
 1)医療および相談の施設
 2)地域での生活を支援する施設
 3)経済的援助
 4)精神保健・精神医療のなかで働く人たち
 5)法律と行政

第5章 地域活動の実際

1.セルフヘルプグループ
 1)セルフヘルプグループの意味
 2)さまざまなセルフヘルプグループ
 3)家族会と全家連
 4)その他の病気のセルフヘルプグループ
 5)外国のセルフヘルプグループ
 6)ボランティアにもセルフヘルプグループを
2.セルフヘルプグループが育つために
 1)構造的な部分-立ち上げるためには
 2)安心できるグループを育てる
 3)協議をするグループ
 4)さまざまなグループ
 5)ピアカウンセリング

第6章 歴史のなかで

1.ギリシャ・ローマ時代
2.中世の魔女狩りの時代
3.啓蒙主義の時代とピネル
4.自然科学と産業革命
5.セルフヘルプとグループの時代
6.新しい社会を

参考文献

1.統合失調症の理解に役立つ本
2.援助に役立つ本
3.体験談など

精神保健関連施設一覧

あとがき

著者略歴
増野肇(ましのはじめ)
1933年4月1日、東京に生まれる。1955年、千葉大学英米文学部卒業。1959年、東京慈恵医大卒業。慈恵医大精神科及び初声荘病院で、精神科医として森田療法、サイコドラマ、集団精神療法を学ぶ。1975年、栃木県精神衛生センター所長に就任。1984年、今市保健所長も兼ねる。1986年、宇都宮大教育学部教授。1991年、日本女子大人間社会学部社会福祉学科教授。2001年、ルーテル学院大研究科教授。
主な研究領域:集団精神療法(サイコドラマ、森田療法等)。地域精神衛生活動に関すること(危機援助とコミュニティオーガニゼーション、セルフヘルプグループ活動)。家族コンサルテーション
その他の役職:日本集団精神療法学会常任理事、芸術療法学会理事、森田療法学会理事、日本精神衛生学会理事、日本臨床心理劇学会会長、「精神療法」編集委員、「ぜんかれん」編集委員
著書:「サイコドラマのすすめ方」(金剛出版)、「森田式カウンセリングの実際」(白楊社)、「これからの精神医療・精神保健」(共著、やどかり出版)、「精神保健とはなにか」(一橋出版)、「森田療法と心の自然治癒力」(白楊社)
by open-to-love | 2008-12-12 09:30 | 増野肇 | Trackback | Comments(0)