精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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開かれた活動であるために…第3・4章

■開かれた活動であるために■

第3章 キララとハートネット、似ているところと似てないところ

 こんな風に盛岡で活動しているハートネットと、一関で活動しているキララ。その特徴について、箇条書きにしてみます。

【キララ】
形態:当事者主導、家族、関係機関、市民巻き込み型
活動=シンポジウム、演劇(キラりん一座)
成立条件:当事者のニーズ+豊かな社会資源(病院の理解+関係機関の理解+地域の理解)

【ハートネット】
形態:家族主導、当事者、関係機関、市民巻き込み型
活動=誰が来てもいい例会
成立条件:埋もれたニーズ+いろいろある社会資源

 当事者活動と家族会活動という出発点の違い。さらには、市町村や県立南光病院や地域生活支援センター一関や作業所といった社会資源の豊かな素地と連携、市民ボランティアはじめ地域の温かい理解を土台にしているキララ。一方、むしろ連携が乏しいからネットワークという枠組みをつくることで連携を密にしよう!というのが結成動機のハートネット。このように、お互い、形態や成立条件は異なります。でも、双方の共通項は、キララの活動の柱であるシンポジウムと演劇、ハートネットの活動の柱である例会が、ともに「開かれた活動」である点です。
 それぞれの活動は、仲間うちで終始せず、2つの方向へ開かれています。1つは、まだつながれていない当事者や家族にとって、開かれた活動になっています。もう1つは、社会に向かって。キララの場合は、定期的な集まりでのメンバーの思いが、年1回のシンポジウム、あるいはキラりん一座の演劇発表によって、社会へ開かれます。ハートネットの場合は、そもそも例会はじめプロセス全体をオープンにしています。

【キララの場合…演劇=オープン・ロールプレイ】
 私思うに、演劇とは、最高のロールプレイなんじゃないかと思うのです。
 ロールプレイとは、当事者がさまざまな役割を演じることで、自らの新たな可能性を発見したり他者の気持ちに思いを馳せたりしながらエンパワーメントしていくための、精神保健福祉分野の一技法。でも、キララの場合は、それがオープンなロールプレイ=演劇であることがすごい。単に個々人のエンパワーメントを越えて、社会との接点、すなわち、自分たちの思いを社会に表明するまたとない晴れ舞台となっているところに独創性があります。
 さらに、脚本の素晴らしさについても一言。審美的に一定のレベルを保持しています。脚本を担当された保健師の北川明子さんは、何でも「その昔、演劇部だった」とのこと。なるほど、確かに演劇のツボを押さえた脚本ですね。でも、この脚本、決してある特定の個人の創作ではないと感じます。個人の創作というより、いろんな人の声が響いている、文学的に言えばポリフォニック(多声的)な作品です。みんなの体験、思い、メッセージの集約として脚本が書かれているのです。よって、脚本の素晴らしさは、決して北川さん個人だけじゃなく、キララだけでもない。キララ&北川さんのコラボレーションが、この脚本を生み出したのだと察します。
 さて、メンバーがその脚本を練習し、発表に至るという過程は、ロールプレイによるエンパワーメントであり、社会へ向かう一歩一歩。さらに、メンバーの思いを盛り込んだ脚本が、メンバー自身によって、舞台上で観客へ向かって「声」として発せられるまでの過程でもあります。
 そして、いよいよ発表。まだつながれていない当事者、家族が、キラりん一座の舞台を見たら…その驚き、感動はいかばかりでしょうか。「自分と同じ病気を抱えた人たちが、人前で堂々と発表するなんて!」。客席から、仲間を得ることの大切さや喜びを実感し、社会へ目を開くきっかけになることと思います。さらに、精神障害について知らなかった一般市民にとって、キラりん一座公演は、精神障害を理解するための、共生社会を樹立するための、またとないチャンスになろうかと思います。
 なお、実は私、まだ演劇の本番を観たことがない。その代わり、ビデオで「トンネル抜けたら!」を観賞することができました。そして、思いました。「盛岡でキラりん一座を観たい!」。ぜひ、ハートネットの例会として、「キラりん一座盛岡公演」を実現したいと思います。みなさん、よろしくお願いします。

【ハートネットの場合…誰が来てもいいですよ】
 演劇を軸にしたキララの活動に比べると、ハートネットはそんなにすごくありません。まだスタートラインに立ったばかりではありますが、少なくとも、まだつながれていない当事者や家族、そして社会とつながるため、可能な限りその活動をオープンにして、みんなが参加しやすいよう間口を広げています。また、リーフレットとブログとニュースで情報発信。例会は、当事者や家族のエンパワーメントの場でありながら、一般の人も参加することで、社会に実情を知ってもらう場にもなっています。
 例会のテーマについては、参加者のアンケートや直接寄せられるニーズに基づき、設定しています。例えば第6回例会として開いたシンポジウム「こころとお金の悩み解決」は、当事者や家族の思い(「多重債務でうつ病になって自殺する人、けっこう多いんじゃない?」「国の自殺防止施策ってうつ病治療ばっかりだけど、根本的な格差問題を何とかしないと自殺って減らないんじゃない?」「精神障害者って障害年金だけでカツカツだから、つい借金しちゃったりパチンコにお金つぎ込んだり…金銭問題、いっぱいあるんだよね」「金があればオレは幸せ」といった声)を生かし、精神疾患治療と多重債務対策の連携の必要性を社会に問題提起する試みの一つでした。
 例会のもよう、収支報告、アンケート結果などは、プライバシーに差し支えない限り、そっくりそのままニュースやブログで公開してます。逆に言えば、ハートネットは一人ひとりが主役ですから、事務局3人が自分たちに都合よく情報操作して、ネットワークを私物化することは許されません。みんなのネットワーク、みんなの思いをくみ取った活動であり続けるためには、その思い=アンケート結果から、それに基づいた例会の企画立案と当日のもようまで、すべてオープンにするのが一番。逆に言えば、オープンにしておけば、事務局がみんなの思いとは異なる運営をしようとしたら、すぐバレます。人はなかなか自分のことを客観的には見詰められず、自分に都合良く解釈してしまうものです。私だってそうです。自分ではみなさんのニーズをくみ取った活動をやってるつもりでも、他の人から見ればそうじゃないのかもしれない。だから、初めからすべてオープンにしておいて、みなさんに「黒田ってさあ、最近ちょっとアレなんじゃないの」「態度デカイよね」とか、好き勝手を言ってもらった方が、早いとこ反省できるという意味で、安心なんです。


第4章 開かれた活動であるために

 ハートネットが「開かれた活動」であるというのは、単にオープンな人にとって開かれた集まりですよ、そこに来れない人は知りません、というわけではない。オープン/セミクローズ/クローズ、すべての人にとって「開かれた活動」でなければなりません。
 というのは、精神の分野はいまだ偏見や差別が根強いため、多くの当事者や家族はクローズにしています。私自身はオープンにしていますし、ゆくゆくはみんながオープンにしていかないと、なかなか社会の理解は深まらないという認識は持っています。かといって、その思いをみなさんに押し付ける気はない。個々人の事情はさまざまですから、オープンにするかクローズのままでいるか。それは、あくまで本人次第です。
 すると、「開かれた活動」には、2つの意味があり、ハートネット事務局の役割も2つあるといえましょう。1つには、これまで述べてきたように、「開かれた活動」としてのハートネットを運営するという役割。と同時にもう1つ、ハートネットというオープンな場に来る勇気がない人のためにプライバシー厳守でディープな相談に乗ったりするという、クローズな人たちにとっての「開かれた活動」であるための、裏方さんとしての役割です。
 オープンな人(例会に来れる人)、クローズな人(例会に来れず、ニュースだけほしい人、ブログだけ見ている人)、セミクローズな人(例会に来たいけど恥ずかしいし…と思い悩んでいる人)、こうしたすべての人に開かれた集まりをハートネットは目指しています。おそらくはキララだって、さまざまなメンバーがいる。オープンな人(演劇に出演する勇気がある人)だけの集まりではなく、クローズな人(人前で演じるなんて恥ずかしいという人)、セミクローズな人(出ようかな、でも恥ずかしいし、どうしようと逡巡している人)、すべてを含んだ集まりであることでしょう。
 さて、裏方さんとしてのハートネット事務局は、どんなことをしているか。例えば「例会に参加したい、わが家の問題について講師先生に質問してみたい…でも、大勢の人前に出る勇気がない」という人から連絡があったら、まずは事務局が窓口になります。例えば、喫茶店かどこかで待ち合わせし、その方と個別にお会いし、悩みを聞いたり、専門の相談機関を紹介したり、そこまで同行したりする。その上で、ちょっとだけ参加を勧めてみます。直接人と会う勇気がない、名乗りたくない、匿名で電話だけの関係がいいという人とは、電話でおしゃべりします。ニュースの郵送だけを希望される方、メールだけの関係を希望される人もいます。それぞれ、望み通りに対応します。
 こうした、今はクローズだけど今後ハートネットに来るかもしれない人は、私が関係しているだけで数十人います。私としては、そんな人たちに無理矢理「ハートネットに来なさい」と追い立てるつもりはなく、そんな関係を数カ月なり半年なり続けているうちに、その人にだんだん勇気が出てきて、自然と「例会に行ってみようかな」という気になればいいな。それまで、じっくり待とうかなと思っています。
 待つ。言うはやすし、行うは難し。でも、ハートネットが活動を始めて以来、多くの当事者や家族から問い合わせや相談電話があり、例会を開けば開くほど、窓口を広げれば広げるほど、それは増えていき、そして、ちょっとずつではありますが、最初はクローズだった人が、だんだん心を開き、例会ごとに1人や2人、新しい顔が増えていく。こんな風に、今はまだつながれていない人でも、まずは電話なりメールなりで事務局とつながって、その人がゆくゆくは例会に来ていろんな人とつながって、楽しくおしゃべりして…という具合に、つながりが広がっていけばいいな、と思っています。
 盛岡の地で、ハートネットの活動を始めてたかだか1年弱ですが、裏方としての役割の重さ、大変さをそれなりに実感しています。そして、その重さを実感するにつけ、キララを支え続けてきた裏方さんはすごいな、と思うのです。そして、だからこそ、その喜びは私たちよりもっともっと大きいんじゃないのかなあ、と想像するのです。
キララの裏方とは誰か。そう、自称「おっちょこちょい」の北川明子さんです。
キララもすごいが、北川さんもすごい。一関地方の多様な社会資源と当事者活動をいいあんばいにコーディネートした上に、ロールプレイの技法を援用して当事者の思いと社会を結ぶ「演劇やろう!」というアイデア。さらに、その完成度の高さ。私たちは、キララと北川さんのコラボレーションに多くを学んでいます。
 長らく一関保健所大東支所を拠点にして活動し、本年度から、ここ「酒のくら交流館」に活動の舞台を変えたキララ。関係機関の緊密な連携と、何より千厩にお住まいのみなさんの温かい理解の下で、その「開かれた活動」をますます広げ、ますます多くの当事者とつながっていくことを、盛岡の地から願ってやみません。
 お互い、頑張りすぎず、頑張りましょうね。
(盛岡ハートネット事務局 黒田大介)

※というわけで、9月27日、千厩で、盛岡ハートネットについて、盛岡ハートネットから見たキララについて、話します。盛岡からはちょっと遠いですが、みなさま、当日、会場でお会いしましょう。(黒)
by open-to-love | 2008-09-20 18:05 | 黒田:キララシンポ発表 | Trackback | Comments(0)