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社会学における「精神病」

※社会学における「精神病」について、アンソニー・ギデンス『社会学 改定新版』から紹介します。「精神病の社会学的研究は、精神科医が用いる診断の範疇の精確さについて疑問を提起し、精神病を治療するはずの措置そのものによって、精神病になることを『学習する』人たちがいることを指摘してきた。おそらくレッテル貼りが、この点で重要な役割を果たしている」と要約されています。
 まずは、目次から。

アンソニー・ギデンス著、松尾精文ら共訳『社会学 改定新版』
(1992年第1版、1993年改定新版、而立書房)

第1部 社会学序説

第2部 文化・個人・社会的相互行為
 文化と社会
 社会化とライフ・サイクル
 社会的相互行為と日常生活
 同調と逸脱
  逸脱とは何か?
  規範と賞罰
  法律、犯罪、懲罰
  逸脱をどう説明するか?
  犯罪と犯罪統計
  監獄と懲罰
  ジェンダーと犯罪
  富者と権力者の犯罪
  組織犯罪
  被害者なき犯罪
  精神病の概念→ここです!
  施設収容と脱施設化
  逸脱と社会秩序

 ジェンダーとセクシュアリティ

第3部 権力の構造

第4部 社会制度

第5部 現代世界の社会変動

第6部 社会学の方法と理論


以下、当該部分です。


■精神病の概念■

 国家が基本的に関係し、また収容施設型組織の使用もともなう、2つ目の主要な逸脱行動の領域は、精神病である。精神異常が精神の「病」であるとする観念は、すでに言及したように2世紀ほど前に始まった。それ以前の時代には、今日であれば精神に障害を負うと見なされるような人が、病人というより、「ものに取りつかれた人」とか「手に負えない人」、「ふさぎ込んでいる人」と判断されていたのである。

□精神病と神経症

 精神異常が次第に病気と見なされるようになるにつれて、その身体的原因を理解しようとする試みが始まった。現代の精神科医の大多数は、少なくとも精神病のいくつかの形態には身体的原因があると考えている。また、いろいろな種類の精神障害を特定するために、標準化された診断基準マニュアルも用いている。精神科医は、精神障害を主に2つの範疇、精神病と神経症に分類する。精神病は、現実感覚の障害を伴う、最も重い精神障害と見なされている。精神分裂病は、精神病のなかでも最も一般的に認められる形態で、精神分裂病と診断された人は、精神病院の入院患者のかなりな割合を占めているのである。精神分裂病を特徴づける症状には、一見筋の通らなかったりまとまりのなkかたちで話をするとか、幻視や幻聴がある、誇大妄想や被害妄想をいだく、周囲の状況や出来事に対する感応が遅い、といった点があげられる。
 神経症という障害は、ほとんどの場合その人が日常生活を営むのを妨げるものではない。神経症に分類される行動の主な特徴は他人にはごく些細に見えるようなことがらに対する徹底した不安である。たとえば、知らない人と初めて会う時や、バスや自動車、飛行機で旅行することを考えた時に、極度の不安を感じる人がいる。神経症の症状には、その活動をしないと気持ちがおさまらなくなる≪強迫的≫活動を伴う場合もある。たとえば、毎朝ベッドの整頓を30回も40回も繰り返してからでないと、満足してほかの家事に移れない人もいるのである。

□身体治療

 過去1世紀の間に、精神病に対し多種多様の身体治療が試みられてきた。主要な精神障害(特に精神分裂病)の生理学的基盤が発見されたという主張も、繰り返しなされてきた。しかし、精神病の身体治療にしても、精神病には特定可能な生物学的基盤があるという主張にしても、ともに問題があることが明らかにされてきた。精神分裂病に用いられる身体療法には、後に電気けいれん療法(ECT)に代わったインシュリン・ショック療法と、前頭部頭葉白質切断術(脳の特定部分間を結ぶ神経線維の外科的切断)がある。インシュリンショック療法では、患者は、短時間ではあるが強烈なけいれんを起こし、その後記憶喪失状態が数週間から数カ月間続く。それが終われば理論上は常態が回復される。多くの人が、この処置法を野蛮な懲罰形式とほとんど変わらないと考えるようになってきたとはいえ、この処置法は-今日では分裂病よりもうつ病に適用されるのが一般的であるが-いまだに用いられている。
 白質切断術は、1935年に、ポルトガルの神経科医アントーニオ・イガス・モニスが導入し、一時期多くの国で幅広く利用されてきた。この方法の有効性を支持する主張は数多くみられたが、多くの患者が顕著な知能的能力の低下を示し、無感動なパーソナリティを発達させることが明らかになった。そのため、この方法は1950年までに-ひとつには、精神安定作用をもつ新しい薬の発見もあって-ほとんど使われなくなったのである。これらの薬は、今日精神分裂病等の精神障害に非常に広く用いられている。そうした薬は-たとえ、なぜ効くのかは誰にも明確にはわからないとしても-患者がより広い社会のなかでうまく生きていくのを困難にする症状を鎮静させるという意味で、ある程度「効く」ことは疑いない。しかしまた、この限定された点に関しても、これらの薬がどの程度有効かをめぐって論争が続いているのである(Scull,1984)。

□精神病の診断

 かりに薬が精神病にはっきりした効果を生むとしたら、それは驚くべきことであろう。なぜなら、精神医学で用いられる診断の範疇は、まったく信頼できないからである。その点に関する最も説得力のある指摘のひとつを。、D・L・ローゼンハンがおこなった精神病院への入院許可に関する研究に見出すことができる(Rosenhan,1973)。この調査では、精神的に健康な人間8名が、米国の東海岸と西海岸にあるそれぞれ別の精神病院の入院受付窓口を訪れた。8人とも自分の職業上の経歴を偽り、自分達が心理学の専門訓練を受けていたことを隠した。しかし、その他の点では個人的履歴を変えたりはしなかった。8人は何か声が聞こえると言い張った。
 全員が精神分裂病と診断され、入院した。8人は、入院するとすぐに正常な行動に戻った。入院患者たちは、この人たちが偽の患者であることにちゃんと気づいたが、この8人の研究の協力者たちは、全員自分の体験を常時かつ公然と書き記していたが、病院職員はこの筆記行動を病理的行動のたんなる様相と見なした。8人の入院期間は7日から52日に及んだが、結局それぞれ精神分裂病が「寛解した」という診断を受けて退院した。ローゼンハンが指摘するように、「寛解した」という言い回しは、偽患者の正常性が認められたという意味ではなかった。なぜなら、8人の入院の正当性について疑問が出されたことは一度もなかったからである。
 この研究には批判があり、またこの研究結果は時として主張されてきたほど劇的なものであったかどうかは明確ではない。研究協力者たちに関する看護報告は、この人たちが「異常な徴候を少しも示していない」と指摘していた(Rosenhan,1973)。入院期間は、おそらくほとんど何も示唆していない。なぜなら、当時米国の精神病院では、すぐに退院することは困難でぁあったからである。
 精神科医が精神分裂病の診断に用いる諸特徴は、たしかに明確に見られるものである。たとえば、少数の人々は、人がいないのに絶えず声を聞いたり、幻覚を経験したり、一見まったくちぐはぐで筋のとおらない振る舞いをしたりする。これに対して、ローゼンハンの実験が実証したのは、精神医学的診断のあいまいな性格、および(この章ですでに述べた)レッテル貼りの及ぼす影響力である。かりに偽患者が、調査研究の協力者ではなく、何か別の理由で精神病院に自分が入院していることに気づいたとしたなら、「精神分裂病の寛解」という診断のレッテルにほぼ疑いなく囚われてしまったであろう。

※精神医学、あるいは精神保健福祉とは、随分立脚点が異なることに、みなさんお気づきかと思います。もう15年も前の本ですし、一言で言って、中身は古いわけですが、社会学という観点と、私たちが実感としている立脚点の開きそのものは、当時も今もさほど変わらないんじゃないかなあと思います。いろんなジャンルにおける「精神病」の見方についても、その見方が妥当かどうかはとりあえず置いといて、随時収録していきたいと思います。(黒)
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by open-to-love | 2008-08-02 12:29 | 差別 偏見 スティグマ | Trackback | Comments(0)