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盛岡ハートネットニュース第5号「薬を減らして、その分まごころ」

盛岡ハートネットニュース第5号

薬を減らして、その分「まごころ」

盛岡ハートネット第5回例会
講師・もりおか心のクリニック 上田均院長、高橋政代副院長
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 「セレネース、インプロメン、レボトミン、トロペロン、バルネチール、テグレトール、グラマリール、ビカモール、アーテン、酸化マグネシウム、パントシン、乙字湯、ベサコリン、ウブレチド、白虎加人参湯、リズミック、レボトミン、ベゲタミンA、ピレチア、プルゼニド、ラキソベロン」
みなさん、これが何のことか分かりますか? 答えは、ある患者が一日に飲む薬。これが、日本での従来型抗精神病薬の多剤併用・大量療法の処方例です。これを薬漬けと言わずしてなんと言う?…

 盛岡ハートネット第5回例会は6月4日、盛岡市本宮のもりおか心のクリニックで開かれ、過去最高の約70人が参加しました。超満員のデイケアルームで開かれた上田均院長の講演「これからの統合失調症薬物療法~日本の常識は世界の非常識」は、タイトル通り刺激的な内容でした。
 上田先生は各種データを基に、日本が国際的にもずば抜けて抗精神病薬の投与量が多い実態を指摘。そして、投与量が増えても、多剤併用しても、治療反応率(薬が効く率)は上がらないこと、その代わり副作用(錐体外路症状)のリスクは上がることも話しました。つまり、薬の種類と量がいくら増えても、病気に効く根拠は何もないどころか、かえって副作用がひどくなってしまいかねないのです。「例えば糖尿病の場合、日本のどこでも専門医ならスタンダードな治療が受けられる。でも、こと統合失調症にかんしては、当たりはずれが大きい。そして、患者さんのその後の人生を大きく左右してしまう」。
 なぜこんなことが起きるのか? 薬をいっぱい出せば病院がもうかるからかなと勘ぐりたくなりますが、上田先生は「決してそうではなく、むしろ人情ではないか」と推測します。ある患者さんが医師に「幻聴が取れない」と訴えると、医師は「じゃあ違う薬を追加してみよう」。患者が「ちょっと不安が強い」とこぼすと、医師は「ではこの薬を…」という感じで、医師が患者さんの症状を和らげようと頑張れば頑張るほど、薬の量はどんどん増えていく、そんな悪循環が背景にあるのかもしれません。
 ちなみに、単剤療法の問題点・技術的に困難な点について全国の精神科医を対象にした調査データによると、「多彩な症状のコントロールに限界がある」(73%)、「併用療法から単剤療法への切り替えが難しい」(36%)、「併用療法が使い慣れているので」(10%)などだそうです。
いずれ、患者にとって、薬の量は少ないにこしたことはない。最近は、リスパダール、ジプレキサ、ルーラン、エビリファイなど、副作用の少ない新規抗精神病薬が登場。上田先生は、こうした薬の単剤適正用量による薬物治療を実践。さらには、同じ志を持つ仲間とともに全国を行脚し、今回のような講演をしています。でも、上田先生のような医師はまだまだ少ないんじゃないでしょうか。
 「多剤併用・大量療法から新規抗精神病薬の単剤・適正な用量による治療への切り替えは、医者の力だけではできない。家族や地域のみなさんの協力が必要」と上田先生。
 では、患者や家族に出来ることは何でしょうか。まずは、自分の薬を知ることから始まると思います。今まで当たり前と思って飲んでいた薬。それは「日本の常識」かもしれないが、「世界の非常識」かもしれない。なぜ自分は、あるいはわが子はこの薬を飲むのか、どういう効き目や副作用があって、どのぐらいが適量なのか? 医師まかせではなく、納得して飲むこと。つまり、主体的に病気の治療へかかわること。そうした患者や家族が増えていけば、「日本の常識」も変わっていくことでしょう。そう、それがインフォームド・コンセントです。
    ◇     ◇     ◇
 さて、もりおか心のクリニックは県内初のデイケア併設型精神科クリニック。参加者の中には、初めて「もりここ」を訪れ、きれいで明るい雰囲気、いわゆる〝精神病院らしくなさ〟にびっくりされた方もいたのではないかと思われます。その「もりここ」を上田院長とともに切り盛りする、副院長で看護師の高橋政代さんにも「クリニック時代の精神看護」と題して講演していただきました。
 精神科医療が地域で行われる時代。高橋さんの「クリニックは、最初の入り口としての役割が期待されている。患者、家族としては、病院よりクリニックの方が、仰々しくなくて行きやすい」という言葉に、うーん、納得。
 クリニックのメリットに▽来院に当たって敷居が低い▽同じ医師が継続して対応できる▽なじみの関係になり相談しやすい。デメリットとしては▽ベットがなく入院できない▽医師が一人のところが多く相性が合わないことも▽医療スタッフの数が少ない…などを挙げ「クリニックにはマンパワー的にも設備的にも限界があるが、きめ細やかな関係づくりができるメリットは大きい」と述べました。
 ベットがないため「入院が必要な患者さんをどのようにして入院につなげるか四苦八苦している」とのこと。でも、それは当事者にとってはメリットでもある。「以前の入院によるトラウマで、入院施設がないのがホッとする患者さんもいる」からです。
 さて、「精神科医療の入り口」であるクリニックは、患者も家族も医療者も一番大変な急性期の救急対応を担っています。さらに、地域と、ベッドのある病院をつなぐ役割も。そこで大切なのは「他施設・他職種・関係機関との連携とネットワーク作り」。その意味で、クリニックの看護師はものすごく大変な仕事であるともいえましょう。
 クリニックの現場から見える現実は、過酷です。「生命の危険、自殺未遂や自傷他害だけが救急ではない。患者が感じる救急と医療者が考える救急はズレがある。『自分は死んだ方がいい』『消えたい』といった自殺企図でさえも、『できれば生きたいけど消えたほうがましなくらい辛い』という生命への執着が本当は強い人も多い。だからこそ介入し、治療につなげ、また前向きに生きる気持ちに戻ることが大切」と高橋さん。心掛けているのは、声掛けやタッチング。そして何よりも大切なのは「まごころ」。童話『北風と太陽』を引き「患者さんにとって私たちが『SOS発信できる相手』であることが限りなく大事。太陽のようなあったかい関わり、あなたがこの苦しみから楽になれますようにとのメッセージを送ることが安心感を与え、早期の回復へと導くと考えている」と語りました。
 「クリニックが休診の時、夜間救急に通い点滴を打ってもらているような大変な人が、ある日突然何かに納得し、ふっきれたようにさわやかになることがある。止まない雨はないんです」という優しいメッセージが、参加者の間に静かな感動を広げました。
   ◇     ◇     ◇
 薬にせよ看護にせよ、患者へのきめ細かなかかわり実践されているお二人。質疑応答では、当事者から「親とのより良い関わり方」について質問がありました。上田院長は「自分は親に心配をかけてきたつもりはないが、親は『風邪ひいてないか』とか、いつも心配するんですよね。それが親子」としみじみ。高橋さんは「私の親は、五十を過ぎた私に『ちゃんと働いてるか、先生を粗末にしてないか、先生にさからっちゃだめだよ』といつも言うんです。最近は、ありがたいなって思えるようになってきた。今は親の一言一言がうるさいって思っても、もう少し歳を取れば、親の気持ちが分かりますよ」。
 この二人の回答に、なるほどと思いました。こういう質問に対し、大抵は「適度な距離を保とう」とか、一般的な答えが返ってくるものです。しかし、二人は違う。まずは自分の体験を語り、上から目線で「こうしなさい」と答えを押し付けず、あくまで目線は対等。この姿勢が、まさにクリニックにおける医療者と当事者の関係なのではないか。
 こんなクリニックがあちこちにできて、みんなが精神科に行きやすくなり、社会の風通しがもっともっとよくなればいいですね。

   ◇◇◇ お知らせ ◇◇◇
 盛岡ハートネットのリーフレット完成=A43つ折り、カラーとモノクロの2パターンあります。表紙のイラスト、いい感じ。活動内容、よくある質問、ブログなどを分かりやすく紹介しています。ご入り用の方は、事務局まで気軽に申し付け下さい。
 シンポジウム「こころとお金の悩み解決」(第6回盛岡ハートネット例会、盛岡市と共催)=8月26日午後1時から4時30分、プラザおでって3階おでってホール。
 精神科医の智田文徳さんが「うつ病治療と自殺防止」、盛岡市消費生活センターの吉田直美さんが「多重債務解決と自殺防止」をテーマに講演。それから会場のみなさんを交え「うつ病治療と多重債務解決で自殺を防ごう」をテーマに語り合います。みなさん奮ってご参加下さいね。    (文責・黒田)
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by open-to-love | 2008-07-24 09:33 | 盛岡ハートネットニュース | Trackback | Comments(0)