精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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日本での断種、不妊手術はどのように?

問16 障害や疾病をもつ人たちに対して行われた断種や不妊手術は、日本ではどのように行われたのですか?

 優生手術(優生目的の不妊手術)の件数は、国民優生法の時期より、優生保護法成立後の方が圧倒的に多くなっています。1955年をピークに96年までに約16500人が強制的な優生手術をされています。
 しかし、これらもあくまで統計に現れた数字で、実際にはさらに多くの人びとが犠牲になっています。しかもそのやり方はかなりひどいもので、「優生保護法の施行について」という厚生省事務次官通知(1953年6月12日)においてもはっきりと示されています。つまり「本人の意見に反してもかまわない、だましてもかまわない、身体を拘束したり麻酔薬を使っても許される場合がある」ということで都道府県に通知したのです。
 ハンセン病の人びとに対しては、戦前から収容施設で強制不妊手術が行われていました。東京の全生病院(現、多摩全生園)で男性患者への断種実施(1915年)以来、法的根拠もないまま全国すべての療養所で多くの人に実施されました。優生保護法制定以後は、主に女性がターゲットとなり、女性1200人以上、男性300人以上にものぼっています。断種手術を始めた光田健輔医師は、「わが国では、ライ療養所だけでも二千人以上の断種をしている」ことを『愛生』(岡山・長島愛生園誌、1951年2月号)に発表しています。また、優生保護法14条1項3号によりハンセン病を理由に人口妊娠中絶をさせられた公表数は7689件(1949〜96年)にものぼっています。
 このように、方の名のもとに自分の意思に反して強制的に手術をさせられた人びとや支援者が「強制不妊手術に対する謝罪を求める会」を結成し、政府に謝罪を求めて立ち上がりました。しかし、日本政府は「当時としては法律で認められていたのだから」として実態調査すら拒んでいます。ナチス時代の迫害に対する国家としての謝罪、被害の実態調査、保障制度を確立していったドイツとは大きな違いです。
 また、「月経時には精神が不安定になる」「月経時の介助がたいへん」との理由で女性障害者の子宮を摘出したり、卵巣に放射線照射をすることが、特に収容施設では「治療」の名目で「公然の秘密」として行われてきました。施設を体験した女性障害者たちは、「生理の度に職員に嫌な顔をされる」「どうせ子どもを産むわけじゃないし、(子宮を)取ったらと言われた」等々、施設の管理・処遇のあり方について告白しています。中には、生理の度に嫌な思いをさせられるのがたまらなくて、「自ら申し出て子宮摘出手術を行った」という人もいますが、そういう状況に追いつめられていったといえるでしょう。
 1980年代にも、全国の身体障害者療護施設の施設職員・関係者で行っている研究協議大会で、「処遇困難な事例と対策、情緒不安定者の処遇困難性」と題してショッキングな報告がされました。それは、岡山の施設に入所しているA子さん(当時23歳)に対して、「月経の量が多く貧血状態となる」「生理が近づくと情緒不安定になる」との理由から、子宮を摘出したというものでした。施設としては、「結果としておとなしくなった事実を伝え、ほかの施設にも参考になればと思った」ことから、研究協議大会で報告することになったというのです。そもそも「子宮摘出が情緒の安定をもたらした」というのはあくまで管理する側の論理であって、障害者本人にとっては、こんなひどい拷問のような仕打ちに恐ろしくなって表現することをあきらめたのかもしれないのです。
 この件はたまたま事実が表面化しっましたが、ほとんどの場合「医療行為」として処理されるため問題にされることすらありません。この事件を発端として、障害者団体などが行政や施設、医療機関などに抗議をしましたが、見直しはされていません。その後も国立大学附属病院の教授らが知的障害者の健康な子宮を摘出していたことが明かになりました。教授らはその事実を認めたうえで、「重度の障害者に子どもを産む権利はない」「倫理委員会で問題になるのは倫理観をもつ人の話だ」と公然と正当性を主張しました。両親でさえ「手術をしておとなしくなってよかった。ほかの親にもこんな方法があることを教えてあげたい」とマスコミに答えています。ここには障害者を一人の人間として認め向き合う姿勢などまったく見られません。
 何故このように、管理しやすくするため、おとなしくさせるために子宮を取ってしまうという人権侵害が施設内で横行するのか、Aさんについて報告されたレポートに端的に表れています。「字が読めるため、事務室・医務室・寮母室の黒板に異常な関心を示し、他人の外泊・外出でも情緒不安定になる」「小遣い(コーヒー代)として本人が持っているお金が少なくなると気になる」「入所者、職員に対する好き嫌いが激しく特定の人を信頼する傾向にある」など、たくさんのことが書かれています。A子さんの置かれている環境は自由を奪われた収容施設であり、職員たちのことが気になるのは当り前のことです。お金が少なくなってまったく気にならない人はいないでしょう。だれか特定の人を信頼するのも人間として当り前のことです。しかし、収容されている側、管理される側の障害者がこういった行動を起こすと「異常行動」となってしまうのです。そして、差別に満ちた、人権感覚がまったく欠落した障害者観によって、女性障害者は子宮摘出という回復できない被害を被らされるのです。
 たしかに優生保護法の改訂によって、障害や疾病を理由にした不妊手術は公然とはできなくなりました。しかし、これまでもそうだったように、障害者を「やっかいだ」「介護の手間がかかる」というふうに、あくまで介護する対象、保護する対象と見る限り、こうした事態は解決できません。コミュニケーションが難しくても、何を訴えようとしているのか、何が不満なのか、しっかりと向き合った中からつかみ取る、新たな人と人の関係を築くこと、そして同時に、介護体制の充実をはじめ、必要な生活支援の体制を整えることが大切なのです。

優生思想を問うネットワーク編『 知っていますか?出生前診断一問一答』
(解放出版社、2003年2月)

パターナリズム=施設処遇=子宮摘出の相関関係、がポイントです。(黒)
by open-to-love | 2008-05-03 09:50 | 優生思想 | Trackback | Comments(0)