精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


by open-to-love
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

DPI世界会議韓国大会・「障害女性」分科会から

DPI世界会議韓国大会・「障害女性」分科会から

障害者欠格条項をなくす会・DPI女性障害者ネットワーク
臼井久実子、瀬山紀子

 2007年9月6〜7日、障害女性について、①性的虐待、②生殖の権利、③ディセントワーク(社会的保護のある労働)、④世界的なネットワークの、4つの分科会が開催された。その内容を、出席してとったメモをもとにお伝えしたい。スピーカーおよび参加者は、アジア・アフリカの人が多く、韓国、日本、モンゴル、マレーシア、カンボジア、バングラディシュ、パキスタン、ナイジュリア、マラウィなどから来ていた。オーストラリアやドイツからも参加していた。韓国語、英語、ベンガル語、日本語の相互通訳など、どの分科会でも言葉を伝えるのに時間を要していた。参加者の障害は多様で、5年前の札幌大会と比べても、世界規模で障害女性の情報と経験の共有が進んできている。

第1分科会
「性的虐待・搾取」・・
権利条約第16条「搾取・暴力及び虐待からの自由」
 スピーカーは、韓国のチャン・ミョンスクさん(精神障害)、パキスタンのサディア・ザナンさん(車いす使用)、ドイツのマルティナ・プシュケさん(義足使用)。司会は「あらゆる障害女性にかかわる問題。被害が起こる構造をよく考えよう。自分はどういう行動をとりたいか、今後どんな声をあげたいか、権利条約をどう使えるかを柱に、議論していこう」と提起した。
 チャンさん「韓国では障害をもつ女性は様々な差別を経験する。性的暴力はその1つで、当事者が国の支援で7つのホットラインをつくり、これまで隠されていたことが明かになってきた。ホットラインだけではだめで、障害女性へのサポート、エンパワメント、法的手続きが必要」
 サディアさん「あらゆる年代の女性の中に、障害女性がいて、セクシュアリティも様々だが、疎外を受けている。パキスタンでは障害女性は、よい母、よい妻になれない人とも言われる。コミュニティに障害女性が参画することが必要。教育やトレーニング、エンパワメントの機会が必要。セルフヘルプグループを育成しながら、政府、社会にこうした問題がとりあげられるよう働きかけている」
 マルティナさん「レズビアンとして障害女性の運動にかかわりCILで働いてきた。欧州規模の障害女性のネットワークができ、今は提言づくりの段階。障害女性の過半数が性的被害を受けており、シェルターやセラピストが必要。しかしアクセシブルなシェルターは全体の1割しかない。また、シェルターやホットラインセンターには、知的障害、学習障害、精神障害の人をサポートできる人がおらず、手話通訳者もいない。シェルターで障害女性が専門家として働く必要がある! 医療関係者や、警察や法曹、人権委員会などの専門職も、障害女性のニーズを反映してサポートできるようになるために、トレーニングをうける必要がある」

第2分科会
「生殖の権利と障害のある女性」・・
権利条約23条「家庭及び家族の尊重」・25条「健康」
 スピーカーはマラウィのレイチェル・カチャジェさん、日本の米津知子さん(ポリオ)、韓国のチョン・インオクさん(視覚障害)、ドイツのブリジッティ・フェバーさん。スピーカー、参加者をまじえて次のような議論がされた。「宗教的文化的な違いをこえて中絶を罰することに反対を。避妊するための条件や、人が人を選ばずに産み育てることができる条件を。基本的な問題は、社会の障害者に対するメガティブな態度。s町害がある子どもも生きる権利をもっている。権利条約批准の準備ができている国はまだ少なく、私たち自身、性と生殖と健康の権利から疎外されてきた。もっとこの問題をとりあげ政府が条約を批准するように働きかけよう」など。
 レイチェルさん「南アフリカ障害者連合で、初めての女性の議長。障害女性が、正確な情報を得て、HIVや感染症など病気の不安がない状態で、さまざまなサービスを受け手自己決定できることが、性と生殖の権利。現状は、存在を脅かされている。誤った情報のもとで性関係を強要され、病気に罹患することや、不法中絶を強制されることがある。HIVの障害女性への影響を調査中。アフリカ全土を調査してまとめるために、国際的な支援を必要としている。障害がある女性・少女は、社会に包含されていず、経済的なエンパワメントも必要だ」
 米津さん「女性の団体に所属して、リプロダクティブ・ライツを実現するために活動してきた。政府の人口政策によって、女性の性と生殖が左右されることが根本的な問題。それに対して女性の自己決定権が重要。子どもに障害があっても、障害がない子どもとおなじように祝福して育てることができるようにするというのが、権利のめざすところ。日本では中絶を禁止する法律と中絶を許可する法律が併存している。旧・優生保護法のもとで障害者に行われた強制不妊手術について、日本政府はいまだに謝罪していない。権利条約が言っていることを実現するためには、障害がある人と女性の相互理解と連携がさらに必要になっている」
 チョンさん「この分科会について、資料の点字が提供されていない。視覚障害者がまともに参加し発言できるためには、点字、朗読テープなどの情報提供が不可欠。障害女性も結婚して母親になる権利があるが、障害によっては遺伝の不安を本人ももっている。そうした面についても教育を充実させて、障害女性も、性と生殖の権利を享受できるようにする必要がある」
 ブリジッティさん「ドイツの女性委員。障害女性の団体で働き、レズビアンとしても活動。医師やヘルスワーカーは、障害者を規範外の人、治療の対象、劣った者とみなしがち。視聴覚などに障害がある人に情報が与えられていず、高い水準の医療があるのに、障害女性に対するノウハウがない。障害女性は、貧困のために治療代を払えないことや、通院の移動手段、たとえば自動車などを持っていないことも多い。障害者権利条約25条はとくに大切なツールで、女性団体や、医療機関にも伝えていかなければならない」

第3分科会
「障害女性とディセントワーク」・・
権利条約27条「労働及び雇用」
 スピーカーは、韓国のホ・ヘスクさん、マレーシアのシア・シュ・チェンさん。司会は「障害女性が、障害とジェンダーという二重の差別を受けないようにしていくことが課題。障害をもつ女性一人一人を個人として見ることがとても大切」と整理した。
 ホさん「ディセントワークと韓国の障害女性の現実とは隔たっているが、人間の尊厳を保障できる働きかた、労働をめざしたい。韓国の障害女性の就業率は1割程度で、指定賃金も支払われていない。障害があることと、できないことは、別のことだと、政府や人々に伝えている。個々人に対する教育などの支援と、政策全体のコーディネートが必要となっている」
 シアさん「民間でも公的セクターでも、雇用されている女性はきわめて少ない。男性上位の社会で、女性の教育の水準はもともと低く、単身や寡婦になったときに、仕事につけない。そうした人々が仕事につき生計をたてられるようトレーニングを提供し支援している。都市と農村の格差、交通アクセスなども障壁になっている。活動は教会などの支援を受けている。今後は、企業が障害者を雇用し支援するための政策も、更に必要と考えている」

第4分科会
「障害女性の世界的なネットワーク」
 スピーカーは、タイのサラワク・ソンカイさん(車いす使用)、韓国のカン・ミンフィさん、日本の堤愛子さん(脳性まひ、車いす使用)。司会は「地域的・全国的・国際的な障害女性のネットワークが必要で、それは始まっており、今後さらに大きな連携にできる」とまとめた。
 サワラクさん「タイでは障害女性は最も低い地位にいる。障害児を産んだ女性も価値を下げられる。障害男性は地元の作業所で働いたりしているが、障害女性は遠隔地の収容施設に送られたりしている。教育を受けられず、情報から隔てられ、貧困の中にいる。障害女性の雇用を進めるためには、女性運動のなかに障害女性問題をいれていく必要がある。障害者運動にも、障害女性は参加できてこなかった。今後、障害女性が国際的・地域的な活動をすることで、ネットワークができていくだろう」
 カンさん「韓国健康社会保障委員会で働いている。当事者の経験の交流とセルフヘルプ、セルフアドボカシーによって障害女性コミュニティができてきた。そして社会的な視点で障害を再定義してアイデンティティをもち、人権のために他の人々と共同するようになった。障害女性も、ジェンダーの問題やセクシュアリティを認識し、母親になることもできるという認識をもってきた」
 堤さん「日本では1979年ごろ女性障害者独自の活動が始まった。そこでは、恋愛、結婚や子育て、施設での異性介助などが話された。親や施設職員の勧めで子宮摘出手術を受けていた人たちが体験を話し始めた。1986年には女性障害者ネットワークができ、障害女性たちの運動と国際的な支援を背景に、1996年には、長年問題となっていた優生保護法の、遺伝的疾患をもつ人を強制不妊手術できるという優生条項が削除されて、母体保護法となった。この課題で、非障害女性との共同を進めることができた。ちょうど1986年には日本最初の自立生活センターもできた。ピアカウンセラーの多くは障害女性である。今、韓国、台湾、フィリピン、タイ、パキスタンなどの、自立生活運動と連携が進む中で、日本でも経験してきた障害女性への差別偏見を、改めて味わっている。さらにネットワークを広げていきたい」

 各分科会で「障害がある女性の視点から、女性、障害者、コミュニティ、社会の問題や課題をみていくことの重要性」が話された。障害がある女性の立場と経験は、歴史、文化、宗教、言葉、国や地域の違いをこえて、共通していた。世界のどこにいても、貧困、家の中だけで暮らしている人、家から出られない人が数多くいること、教育や就業からの排除、低い社会的地位は共通している。情報が本人に届いていず、コミュニケーションからの疎外がある。しかし、こうした障害女性の状況は、各国の統計や調査でもあまり把握されていない。

「DPI女性障害者ネットワーク」は1986年に発足し、優生保護法が優生条項を削除し母体保護法となった後、2000年頃からいったん活動が休止状態となっていましたが、DPI世界会議韓国大会で、障害女性がクローズアップされ、その連帯が求められるという世界的な後押しもあり、活動を再開させようと、今年6月から動き出しました。
 DPI世界会議韓国大会への参加や報告会の開催に加え、ネットワークの立ち上げと活動を持続・継続するために、日本カトリック司教協議会カリタスジャパン様より多大なご支援をいただきました。
 今後、皆様のご期待に沿えるよう、積極的に活動を展開していきたいと思います。
 ありがとうございました。

DPI(Disabled People's International)日本会議「われら自身の声」/vol.23(2007年10月28日発行)特集「DPI世界会議韓国大会報告 障害者の権利条約日本政府署名!」
by open-to-love | 2008-03-16 08:11 | DPI日本会議 | Trackback | Comments(0)