精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


by open-to-love
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

自立求めて DV被害女性の軌跡④

自立求めて DV被害女性の軌跡④

なぜ逃げられないのか?

 DV被害女性が本県の知人宅から向かった先は、関東に住む娘の元だった。だが、ここも安住の地ではない。娘を巻き添えにはしたくない。新たな避難先を探さなければならなかった。だが「何かをしようという意欲がわかなかった。疲れていた。でも、眠れない」
 2人のDV夫から計20年以上も暴力を受けた彼女は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症していた。
 彼女は、現在も心療内科に通院し、服薬治療を続けている。
   ◇   ◇
 DV被害者のメンタルヘルスについて、2002年の厚生労働科学研究は▽DV被害は身体的、精神的、性的暴力が複合的に生じ、長期にわたる▽高頻度でPTSDやうつ病がみられる▽子どもへの影響が大きく、児童虐待と併存する可能性が高い―などと指摘。00年から01年にかけて横浜市で実施された世界保健機関(WHO)の「DVと女性の健康国際調査」日本調査によると、暴力を受けた女性の自殺念慮・企図率は、暴力を受けていない女性と比べ格段に高い。
 なぜDV被害女性は、暴力から逃げられず、精神疾患を発症するまで、さらには自殺にまで追い込まれるのか? 経済力の低さから、逃げたくても逃げられない現実がある。05年の内閣府調査では、配偶者から暴力を受けた女性が相手と別れなかった理由で、経済的不安が最多の27・7%に上った。
 子どもがいれば、なおさらだ。「この子のため両親がいた方がいい」と暴力に耐え続ける女性=母親。本県のある精神科医によると、自分がDVを受けているのに相談せず耐え続け、DVの影響が子どもの情緒不安定といった形で現れて初めて、相談機関に訪れるケースも多いという。
 夫婦間に早期に第三者が介入したことで、家庭が崩壊せずに済んだケースもある。だが「家」という密室の闇は深い。
 その医師はかつて「逃げるなんて想像できないくらいに洗脳されていた」女性を診察した。
 女性は首都圏から本県に嫁いできたが、外出を禁じられ、一緒に食卓を囲ませてもらえない。夫、しゅうとめらにばかにされ、食事させてもらえず、食べようとすれば暴力を受け、水しか飲めず衰弱。
 たまたま女性が外出を許された日、知人に身の上話をしたことでDVが発覚。女性は支援機関を通じ医師の元を訪れた。
 診察室で医師と一対一で向き合っている間も、夫の声や視線を感じると訴える女性。「首切ろうかな、首つろうかなと思っていた」と涙ながらに語ったという。
 医師は言う。「人間って簡単に壊れるんだな」。女性は現在、精神科病院に入院している。
   ◇   ◇
 壊れる女性。一方、壊れなかった本県出身女性。世間体が悪い、妻として夫を支えなければならない、将来の経済的見通しが立たないなど、女性を踏みとどまらせる数々のハードルを乗り越え、家から脱出した。その決断力、行動力は、彼女の強さにほかならない。DV被害女性=弱者ではない。だが、その彼女でさえも、PTSDを発症するほど心の傷は深かった。
 転機は、たまたま立ち寄った図書館に置いてあったDV被害相談パンフレット。彼女はそれに記されていた都内の配偶者暴力相談支援センターに電話。DVのメカニズムや離婚手続きなどを学ぶ講座や、自助グループの集まりに参加した。
 一人一人、被害体験を語る女性たち。彼女も自らを語った。暴力、脱出、追跡、逃避行…。語り終えた彼女に、みんなが声を掛けた。
 「あなたは悪くない」
 その言葉に、彼女は救われた気がした。

 【心的外傷後ストレス障害(PTSD)】 災害、暴力、事故、虐待など心的外傷体験を原因として生じる特徴的なストレス症候群。不快で苦痛な記憶が突然よみがえる(フラッシュバック)、出来事にかんして考えたり話したりすることを極力避けようとする、睡眠障害、孤立感、いらいら感、集中困難、過剰な警戒心などの症状がある。
by open-to-love | 2008-03-01 20:39 | DV(IPV) | Trackback | Comments(0)