精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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早期治療を目指す

早期治療を目指す

[特別企画]岡崎祐士、水野雅文編

オーストラリア帝国主義(Australian Imperialism)と英国の精神科医は、自嘲気味に呼ぶそうである。メルボルンのマクゴーリらが始めたearly intervention(早期相談・支援・医療)がブレア政権によって国の重要医療政策に取り入れられ、英国精神科医は否応なくそれに巻き込まれたからである。この新しく開かれた精神科医療の分野は、今日ではよく知られているように、英国のクロウらのノースウイック・パーク病院の報告に始まった。本国よりも早くオーストラリアで実践に移されたことも、自嘲的言い方に含意されているのであろう。
 いずれにしても、統合失調症発症から治療期間までの期間(精神病未治療期間)が短いほど転帰(数年後)がよいことをクロウらは発見した(1986年)。以後、日本をはじめ多数の国で確認された。1990年代前半には早くも、オーストラリアのビクトリア州で、病気や前駆症を広く社会に啓発し、早期受診を促した結果、精神病未治療期間が短くなり、統合失調症の入院は減り、州の医療費はむしろ減少した。
 その後短期間に、対象は統合失調症の初回エピソードから精神病初回エピソード(前駆症と重なる)へと発展し、現在、それに先行し、一回り広く存在する精神病様体験(psychotic like experiences:PLEs)に関心が集まっている。さらに、気分障害(うつ病、双極性障害)、摂食障害、PTSD、精神作用物質性障害等へと広がった。
 この取り組みの特徴は、多職種チームで進められ、医療従事者が元気で明るいことである。それは、そもそも悩みや困難をもっている人々のニーズに、社会的・心理的・医学的・精神医学的に総合的に取り組むという医療本来の姿に近いからではないかと思われる。
 わが国には保健所(保健師の地区担当制や精神保健福祉相談)、学校精神保健、職場精神保健、多数の精神科病院やクリニックがある。これらの豊かな資源を生かすならば、欧米よりはるかに優れた早期相談・支援・治療のシステムが開発できると思われる。
(『こころの科学』133 2007年5月号 特別企画「早期治療を目指す」巻頭言)
by open-to-love | 2008-01-14 16:04 | 救急・急性期 | Trackback | Comments(0)