精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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宇田川健さんインタビュー

宇田川健さんインタビュー

 「リカバリー」、直訳すれば「回復」。でも、それだけじゃない。それは、自分の人生を決めるのは、専門家でも家族でもなく、自分自身であることに、自分自身が気づいたとき、でもあります。
 この意味深な「リカバリー」をキーワードに、世界のあちこちを訪れ現地の当事者と交流、活発に発言を続けているのが、躁うつ病の当事者の宇田川健さん(36)=埼玉県=です。日米当事者交流事業代表、それから「こころの元気+」を出している埼玉県の地域精神保健福祉機構(コンボ)共同代表を務めています。その宇田川さんが十六日、県精神障害者家族会連合会主催の秋季当事者支援研修会の基調講演で八幡平市の安比高原を訪れたので、世界の当事者事情や本県の当事者へのメッセージを聞いてみました。
 ―「リカバリー」という言葉に込めた思いは?
 「当事者が自分で自分の人生の責任を取り、前に進むこと。米国では「リ(後ろへ戻る)カバリー」ではなく「プロ(前へ進む)カバリー」という造語も使われ始めている。専門家も家族もリカバリーを提供することはできない。当事者が動きださなければならない」
 「私は一九九〇年にそううつ病を発病し、入退院を繰り返した。さげすまれ差別された経験もあった。当時は専門家に『あなたが考える必要はない。私があなたの人生を決めてあげる』というメッセージばかり示され続けた気がする。だが、九七年にロサンゼルスに赴き現地の当事者と交流したことが転機となった」
 ―当事者がリカバリーのためできることはなんでしょうか?
 「リカバリーした人の体験を聞こう。自分たちでグループをつくり、自分のことを深く話し、聞き合おう。仲間が三人いれば前に進める」
 ―日本やアジアの現状をどう見てますか?
 「八月開かれた世界精神保健連盟(WFMH)香港大会に参加し、アジアではいかに当事者が下に見られているかを痛感した。世界中の専門家が集まるこの大会には、当事者も世界中から参加し決議を提出している。香港では、当事者が決議文を話し合う部屋も設けられず、壇上で読み上げることもできなかった」
 「世界の精神保健システムを見渡せば、日本は中の上。貧しい国では向精神薬すら買えない。だが、先進国の中で日本は下の方。入院患者も薬の量も異様に多い」
 「だが、日本の精神障害者が世界で中の上かといえば、そうではない。そもそも私たちをランク付けすることはできない。精神障害者は全世界的に等しく価値がある。それは、私たちには語るべきストーリーがあるということだ。私たちの過去の経験は、何事にも替えられない価値がある」
 ―日本は当事者会より家族会の活動が中心ですよね。家族が当事者を抱え込み自立を阻害したり、当事者が家族に依存的になってしまうこともあります。
 「欧米では、障害があろうとなかろうと、十八歳になれば一人暮らしが当たり前。そういう文化がない日本を含めアジアは、家族を巻き込んでのリカバリーが必要だ」
 ―家族に望むことはどんなことですか?
 「私の両親は旅行好き。具合の悪いとき、両親だけで箱根に行ってしまったこともあった。心細かったが、そんなとき彼女ができた(笑)。結婚したいと親に言ったら最初は反対したが、認めてくれた。突き放してくれたことに感謝している」
 ―家族も自らの人生を楽しむことが、本人のためにもなるということですね。最後に、本県の当事者にメッセージをお願いします。
 「岩手の地で語るべきは私ではない。ぜひ岩手の人が、自らのストーリーを語り始めてほしい」

 ちなみに、地域精神保健福祉機構(コンボ)は、精神障害者が主体的に生きることができる社会の仕組みづくりのため、2月に創設されました。宇田川さん、日本社会事業大学の大島巌教授、国立精神・神経センターの伊藤順一郎社会復帰相談部長が共同代表です。当事者が表紙を飾るメンタルヘルスマガジン「こころの元気+」を毎月発行してます。表紙モデルも募集中…ではありますが、希望者が相次いでおり、数年間分は予約で満杯なんだそうです。事務所は千葉県市川市新田5の9の19、グリーンサイドビル2F(047・322・1360)です。
 宇田川さんの講演は、アメリカの「リカバリー」事情を描いたDVDの上映付きで、とても分かりやすく、熱いメッセージを私たちに届けてくれました。講演後は、大分お疲れの様子でした。雪のない安比高原まで、はるばるご苦労様でした。(黒)
Commented by こんにちは宇田川です。 at 2008-12-08 03:51 x
盛岡では本当にお世話になりました。とても楽しい経験でした。
これからも、当事者のため、家族のため、そして悩める専門なのための当事者活動を続けていきます。とても力のある当事者を岩手でもいると思います。あと、家族会のあったかさが人のあったかさがすごくよかったです。私はこれから埼玉に力を入れていきます。それから、もうリカバリーということばはやめて、単純に回復という言葉と置き換えて生きたいと思っています。回復の言葉にこめられた意味はこれまでリカバリーという言葉にこめられていた意味と同じですが、アメリカ人やオーストラリア人がリカバリーということを言っているとき、回復という意味以上の言葉は入っていないと気がついたからです。本当に岩手ではお世話になりした。また行く機会があったら、今度は岩手の当事者のお話を聞きたいです。
by open-to-love | 2007-11-20 15:13 | リカバリー | Trackback | Comments(1)