精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


by open-to-love
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

太りすぎの悩みに答える(後半)

太りすぎの予防法〜脳に刺激を与える〜

太りすぎからの連鎖
 メタボリックシンドロームはシンドロームXという概念で分かるように、いつかXデーが来るよという意味で、時系列があります。生活習慣のゆらぎが肥満になり、肥満からインスリン抵抗性を起こし、糖代謝異常、脂質代謝異常、高血圧を起こしてきます。それぞれの因子は互いに関連し、ドミノ倒しのように連鎖反応を起こします。そしてそのまま放置すると、心筋梗塞や脳梗塞を起こすのです。自覚症状がないうちに病態が進行することが多く、注意が必要です。知らないうちに太り、知らないうちに心筋梗塞になったではすまされないのです。
 でも知らないうちに太り、知らないうちに糖尿病になっていたという話をよく聞きます。どうして知らないうちに太るのでしょうか。私は、知らないうちというのは人間の心理が関係していると考えています。
 ここからは医学的な話ではなく、人間の感覚の不思議について考えてみたいと思います。太りすぎがどうして知らないうちに進むのかを私なりに説明してみます。

泳いでいるときは体が濡れていることに気がつかない
 これは、心理学者でマスターズスイマーであるKith Bellが言った言葉です。原文は〝You only feel wet. when you are out of the water.〟です。
 私は下手ですが、水泳をします。最近は忙しいので、一カ月に約30kmしか泳いでいませんが、数年前までは月に90kmくらい泳いでいました。ところで泳いでいるときは、水の中にいるのに体が濡れていることに気づきません。プールから出て、それも少し風でも当たれば、寒いと感じ、体が濡れていたことに初めて気づくのです。もちろんプールに限らず、風呂でもいったん浴槽に浸かれば体が濡れているなんて意識しないですよね。つまり、水に濡れる感覚は、濡れはじめか、水から出るとき、つまり異なる環境、変化の過程で気づくものです。これは〝感覚の不思議さ〟を表現していると思うのです。
 太りすぎも太りはじめは容易に気がつきますが、太りだすと感覚的に分らなくなります。その次に気づいたら肥満になっていたなんていうことになるのです。

※肥満の目安(BMI)体重(kg)÷身長(m)=22が標準、25以上が肥満

脳の活性化
 感覚の不思議、そしてそれに気づくことが、じつは太りすぎを予防するには有効であると感じています。太りすぎを予防できる人は、感覚がよい人です。感覚がよい人とは、素直で、変化に敏感で、それをコントロールできる人だと思うのです。それは脳の働き、とくに前頭前野を活性化すれば、だれでも感覚が良くなると想像されます。
 太りすぎの予防には脳を活性化することが一つの方法であると私は仮説をもっています。脳を活性化するには良い刺激を与えることです。早起きして新鮮な空気を吸い、今日も頑張ろうということだけでも脳には良い刺激になります。
 それでも太ってしまったら、有効なのは有酸素運動です。次に運動について考えてみましょう。

※前頭前野 この微妙な変化量を感覚として制御する場所として最も注目されているのは、最近の脳科学によれば前頭前野です。知らないうちに太るのは感覚の問題もあると思うのです。前頭前野の機能が大切です。

有酸素運動のすすめ

持久系のスポーツをしよう
 有酸素運動は散歩、ランニング、水泳など持久系のスポーツがいいです。私は、実は、水泳やランニングが趣味です。おかげで歳のわりには肥満にならずにすんでいます。今年の5月の連休も萩往還35kmのマラニック大会(マラソンとピクニックを合わせた言葉です)に出まして、4時間で完踏しました。この大会は山を越えて走るので、走り終わることを完走とはいわず完踏と言うのです。それからスタートの合図が、ヨーイドンではなく、みんなで「エイエイオー」を3回連呼しておもむろに出発するのです。他人との競争ではなく、楽しみながら苦しみながら、自分への挑戦です。おかげで私の今のBMIは19・6で、体脂肪率は12・5%です。
 持久系の運動は辛いことも多いですが、達成感も大きいです。みなさんも無理のない有酸素運動として、持久系のスポーツをしてみられたらと思います。そのときの本当のライバルはあくまでも自分自身です。いわゆるライバルは、あとで述べますが、実は目的を同じにする仲間であり、同士です。隣の人と競争するのではなく、助け合い競技をするのです。本当のライバルは、去年の自分の記録です。
 有酸素運動に関する書物はたくさんあるので、ポイントを2つだけ挙げておきます。一つは無理をしないこと。医学的にいえば脈を上げすぎないことです。ハーハーいうトレーニングはけっしてしないことです。もう一つは3日坊主にならないことです。毎日でなくてもいいので、最低でも週に2日、できれば週に4日くらいトレーニングをしたいものです。

有酸素運動を続けるコツ
 ウオーキングにしろ、ランニングにしろ、水泳にしろ、有酸素運動を続けるのはなかなか難しいです。太りすぎ予防で運動をすることはいいのですが、運動は肥満予防のためだけにすると長続きしません。なぜなら単調でつらいからです。つらいことが楽しくできるのは、達成感があるからです。なんでもいいからできたら自分を誉めてください。そういえばマラソンの有森選手がメダルを取ったとき、「自分を誉めてあげたい」と言っていましたね。それが運動を続けるコツです。目標は身近なものがいいです。身近な目標を積み重ねることが大切です。アテネオリンピックのマラソンで金メダルをとった野口みづき選手は「距離は嘘をつかない」と言っています。練習した距離は正直で、必ずいい結果がついてくるのです。

動悸を見つけよう
 身近な目標を作り、それをこなしていけば、みなさんも立派なアスリートです。続けることの原点は、モチベーション(動機づけ)です。アスリートは勝ちたいという強力なモチベーションを武器に、困難を乗り越えるのです。困難を乗り越えたときが、輝やけるときです。モチベーションは勝ちたいという意志ですが、結果は勝ち負けではなく、スポーツを通しての自己実現です。自己実現を目指してスポーツをしてみませんか。

疲れに気づく「こころの鏡」
 ただし一つ注意点を挙げておきます。スポーツにのめり込むと、休むことを忘れます。休養も必要であるということです。がむしゃらに運動をすることはかえってマイナスです。我々の脳はやればやっただけ結果が出る、と錯覚します。世の中そう簡単ではありません。モチベーションを保ちつつ、休養を入れる必要があります。
 毎日運動していると、疲れが分らないことがあります。慢性疲労です。それは泳いでいるときに体が濡れていることに気づかないことと同じです。その予防には、ときに、自分を客観化することが必要なのです。スポーツの世界では、技術の向上のために自分のフォームを客観化してみる方法としてビデオを撮って見ることがよく行われます。ですからときには、自分のこころの状態もビデオを撮って見ることができるといいと思いますが、心を写すカメラなんてないですよね。
 こころの状態を外から見るには、「こころの鏡」を使うとよいと思います。スポーツ心理学では、「ミラー(鏡)の法則」というのがあります。相手選手の失敗を望んでいたり、相手の欠点を見つけて安心すると、いつのまにか自分もそうなるというものです。逆に相手の良いところを見つけたら、それは自分の良いところを見つけたことと同じなのです。自分が発する言葉は、相手に向けられると同時に、「こころの鏡」で自分自身にも向けられているのです。ほめ殺しはいけません。本当に相手の立場に立ち、良いところを見つけると、知らないうちに自分も成長するのです。
 こころは自分のうちにあるけれど、鏡を通して見ることが出来るのです。鏡の役割は仲間であり、家族であり、ライバルがしてくれるのです。人の良いところを見つけるのは、実は、自分にないものを感じとる感覚です。
 イチロー選手は「才能とは共通点の中ではなく、相違点に存在する」と言っています。イチロー選手は偉大な記録を次々とうちたて、ヒーローです。一見クールに見えるイチロー選手ですが、自分と違う相手の良いところを常に観察し、ライバルと切磋琢磨しているのでしょう。実は私とイチロー選手は一つだけ共通点があります。それは誕生日が同じなのです。これは才能には全く関係ありませんが。
 切磋琢磨とは、ミラーの法則でいえば、ライバル同士が互いに鏡となり、良いところを見つけあい、互いを向上させることといえます。相手の良いところを見つける、誉める、というのは、社会技能訓練(SST=Social Skills Training)でも言われている技法ですね。SSTもスポーツもできたら誉めることが大切で、これはつまりは成功体験への強化で、こころへのご褒美です。

おわりに
 抗精神病薬と肥満の話をしました。肥満に関する書物は多くありますので、スポーツの効用について書いてみました。痩せることが究極の目的ではありません。太りすぎを解消するのは単なる手段に過ぎません。何のための手段かといえば、自己実現をするためです。みなさんが抗精神病薬を飲むことも、肥満解消のために運動することも、自己実現するための手段です。
 偉そうに見える人が偉いのではありません。本当に偉い人は、過去の栄光にはこだわりません。「何ができたか」ではないのです。「何ができるか」が大切なのです。人生は捨てたものではありません。「何ができるか」は自分の考え方や努力次第だからです。
 もしあなたが医師から太りすぎといわれたら、がっかりする必要はありません。ひょっとしたらスポーツを始めるチャンスかもしれないからです。私はあなたが「何ができるか」行動を起こすことを楽しみにしています。そして応援しています。

※実存 何ができるか考えるときに、大切なのは今を生きることを考えることです。これこそ実存の考え方です。実存とは英語でexistといいますが、exは外、istは立つを意味します。つまり外に立つことです。自分の外に立ち、自分を眺めること、ビデオで自分を撮影することです。自分のこころを見るにはミラーの法則を利用するのもいいでしょう。

※参考になる本 「精神看護」2005年9月号(vol.9)長嶺敬彦「特集 はじめての抗精神病薬『副作用』マニュアル(中編)」15〜42ページ(医学書院)
(月刊「ぜんかれん」2006年6月号 特集「太りすぎの悩みに答える」)
by open-to-love | 2007-07-07 18:18 | 地域生活 | Trackback | Comments(0)