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みやぎ知的障害者施設解体宣言

みやぎ知的障害者施設解体宣言

 宮城県内にある知的障害者の入所施設を解体して、知的障害者が地域の中で生活できるための条件を整備することを宮城県の障害者施策の方向とすることを、ここに宣言する。
 宮城県福祉事業団は、平成14年11月23日、船形コロニーを2010年までに解体し、入所者全員を地域生活に移行させるという、「施設解体みやぎ宣言」を発した。宣言を発するに至った背景としては、知的障害者本人の希望と関わりなく、施設入所を当然のこととしてきたのではないかという疑問があった。施設運営に関わる職員としては、自分たちの仕事の意義に対する、真剣な反省である。
 この疑問、反省は、船形コロニーだけにあてはまるものではない。船形コロニーは知的障害者の中でも、特に重度の障害を持つ人たちを処遇する場として特別に設置されたものであるから、地域生活への移行を言うならば、県内の入所施設の中では、順番としては一番最後になってもおかしくない位置付けである。にもかかわらず、施設解体宣言を発したということの重みを、十分に考える必要がある。
 知的障害を持った人たちの幸福を実現することこそが、障害福祉の仕事の目的であるという原点に戻って考えたい。地域の中にこそ普通の生活がある。適切な支援措置さえあれば、重度の障害を持った人たちであっても地域での生活を送ることができること、そして、それが知的障害者の生活を豊かなものにすることは、これまでの多くの実践の中で実証されている。
 船形コロニーの解体宣言から1年余経った今こそ、宮城県全体として、船形コロニー解体宣言の普遍化をなすべき時である。つまり、知的障害者の入所施設を解体し、入所者の地域生活への移行を図ることを、宮城県全体の障害福祉の方向として、明確に示す必要がある。それが、今、このような宣言を発する理由である。
 宣言の背景には、これまでの障害福祉施策への真剣な反省がある。知的障害者への各種の施策が量的にも、質的にも貧しかった頃、知的障害者施策の中心は、施設入所であった。「親亡き後」の知的障害者の生活をどうやって保証し、年老いていく親に安心感を与えるかが大きな関心事であったとも言える。施設入所は、こういった環境の下で、頼りになる施策に思えたのは、ある意味で当然である。
 入所施設での処遇に比べれば、地域生活支援施策は、歴史的にも浅いものであり、目に見えるインパクトとしても施設のように目立たない。一握りの先進的な取組みとして存在し、特に、親達から見えないし、見えたとしても頼りにならないものと認識されていた時代が長く続いている。一方において、入所施設は、多くの職員と関係者を抱える確固たる存在として、永久に存続するものとして受け止められている。「解体」という発想は、普通は出てくるものではない。
 そういった状況の中で、知的障害者本人の幸せとは何かが真剣に問われることがないままに、障害福祉の仕事は成り立っていた。「あなたは、どこに住みたいのか」、「あなたは、誰と暮らしたいのか」、「そもそも、あなたは、何をしたいのか」という問い自体が発せられないまま、入所施設に入っているのが一番幸せと、外部から決めつけられる存在としての知的障害者という図式である。障害福祉の仕事は、知的障害者の幸せを最大にすることを目的とするという見地からは、障害者に対して、まず、この問いが発せられなければならない。そして、その答を模索することが求められる。
 知的に障害を持っていることによって、特別なニーズが生じる。特別なニーズがあったとしても、知的障害者が普通の生活を送ることを断念する理由にはならない。障害福祉の仕事は、その特別なニーズにどう応えていくかということである。普通の生活は施設の中にはない。地域にしかない。であるとすれば、地域の中で、知的障害ゆえに発生する特別なニーズに応えていくことこそが、障害福祉の仕事である。グループホームがある。日常生活の援助がある。金銭管理、人権擁護、就労の確保などなど、やるべきことはたくさんある。
 宮城県での知的障害者への福祉が目指すべきは、この方向である。「施設解体」を宣言しても、解体することに目的があるのではない。あくまでも、知的障害を持った人たちが、普通の生活を送れるような条件整備をすることに主眼がある。そのような条件整備がなされれば、入所施設は不要になる、つまり解体できるということになる。宮城県の障害福祉のありようとして、こういった方向に進んでいくことを少しでも早めるように各種施策を準備するという宣言でもある。
 宮城県内の知的障害者の入所施設を、即刻解体すべしと言おうとしているのではない。時間はかかっても、目指すべきは施設解体、まずは、それが可能になるための、地域生活支援の施策の充実である。県内のそれぞれの入所施設において、このことを念頭に置いて仕事をするのと、全く考えずに日々を過ごすのとでは、大きな違いが出てくる。それぞれの施設において、解体が可能になるまでにやるべきことは何か、何が障害になるのか、障害をなくすための方策、こういったことを現場の職員を交えて真剣に討議し、行動することが求められる。
 繰り返して言う。障害福祉の目的は、障害者が普通の生活を送れるようにすることである。そのために、今、それぞれの立場で何をなすべきか。たどり着くべき島影をしっかりと視野に入れて、船の進むべき方向は間違わないように荒波を乗り越えつつ進んでいかなければならない。たとえ時間はかかっても、必ず目指す島に到達することはできると信じている。同じ船に一緒に乗り込んで欲しい。

 平成16年 2月21日 宮城県知事  浅 野  史 郎

(宮城県保健福祉部障害福祉課HP)
by open-to-love | 2007-04-30 14:23 | 地域生活 | Trackback | Comments(0)