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精リハ学会いわて大会:大会シンポジウム「震災からのリカバリー」趣旨

日本精神障害者リハビリテーション学会第22回いわて大会:大会シンポジウム「震災からのリカバリー」趣旨

タイトル:「震災からのリカバリー…阪神、中越、東日本から描く未来図」

日時:2014年11月1日(土)13:30〜15:30

会場:盛岡市・アイーナ7階 アイーナホール

シンポジスト:
◎ 佐々木亮平さん(岩手医大いわて東北メディカル・メガバンク機構地域住民コホート分野特命助教、保健師、陸前高田市地域包括ケアアドバイザー)
◎ 岩渕恵子さん(大船渡保健所主査保健師)
◎ 斎藤孟さん(岩手日報社陸前高田支局長)
助言者:
◎ 阪神大震災被災地=藤田昌子さん(兵庫県精神保健福祉センター所長補佐)
◎ 中越地震被災地=後藤雅博さん(新潟県・恵生会南浜病院長、精神科医)
◎ 東日本大震災津波被災地(岩手)=大塚耕太郎さん(岩手医科大学医学部災害・地域精神医学講座特命教授)

コーディネーター:
◎ 智田文徳さん(日本精神障害者リハビリテーション学会第22回いわて大会長、社団医療法人智徳会・未来の風せいわ病院理事長)

大会シンポジウムの趣旨:

 東日本大震災から3年半。被災地では、復興が遅々として進まない中、限られたマンパワーで、深い悲嘆を抱えるご遺族のケアなど心の復興支援が中長期的な課題となっています。また、復興まちづくりの推進と連動して、精神障害者リハビリテーション体制をどう再構築していくかも中長期的な課題です。
 精神疾患に対する根強い偏見、高い自殺率といった震災前からの課題に加え、震災後の新たな心の課題にどう対応していくか? 既存の精神障害者リハビリテーションの取り組みをどう心のケア活動に生かすか? 心のケア活動をどう精神障害者リハビリテーションの充実につなげるか? 被災地それぞれの特徴を生かした、中長期的な体制構築が求められています。
 本シンポでスポットを当てるのは、岩手県内で最も被災規模が大きかった陸前高田市、そして大船渡市、住田町を含む気仙地区です。陸前高田市・気仙地区の特徴は、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチが連関した取り組みにあり、被災地の中長期的な心のケア活動の在り方を考える上でも、精神障害者リハビリテーションの未来を展望する上でも、モデルになるのではないかと思います。
 死者・不明者1800人超、市街地壊滅、県立高田病院全壊、市保健師9人中6人死亡…津波で地域保健医療システムが崩壊の危機に瀕した陸前高田市。発災直後から、全国の保健師ら延べ1万人以上の保健医療関係者が支援に入り、大船渡保健所など地元関係機関と連携しながら、不眠不休で住民の心と体の健康を支えました。
 その一端を示すのが「平成23.3.21現在 陸前高田市保健医療にかかる体制図」=図1=です。全体調整・統括が大船渡保健所上席保健師の花崎洋子さん(現・保健課長)で、その花崎さんを支え体制図を作成したのが、元同保健所保健師の佐々木亮平さんでした。

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図1=「陸前高田保健医療にかかる体制図」(2011年3月30日現在)

 震災からわずか10日後という混乱の渦中にあって、なぜこれだけ精緻でシステマティックな体制を組むことができたのか? それは、2人をはじめとする関係者の情熱の賜物であり、そして、その情熱は、今なお、気仙地区におけるポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチそれぞれの取り組みに継承されています。
 佐々木さんを中心に震災後から始まったのが、毎月1回の陸前高田市保健医療福祉未来図会議(旧称・包括ケア会議)でした。集団全体に働きかける、つまり、住民同士が支え合う復興のまちづくりを目指すポピュレーションアプローチの場として、行政やNPOなどの幅広い関係者が一堂に会し、保健医療福祉の現状と課題を共有し、直近の対策から未来像までを意見交換する場となっています。
 未来図会議での議論から、同市では、住民同士のつながりと語らいによる心のケア活動「はまってけらいん、かだってけらいん運動」(気仙地方の方言で「加わり一緒になって、お話をしよう」)が始まりました。さらに、保健医療福祉体制の再構築に向け、アイデア満載の「みんなの居場所・健康づくり未来図」=図2=の作成を皮切りに、「子ども」や「高齢者」などライフステージ別の「未来図」づくりも進めています。

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図2=「陸前高田保健医療福祉未来図」

 一方、ハイリスクアプローチの中核は、気仙地域精神保健福祉等担当者連絡会です。震災前から毎月1回、大船渡保健所の花崎さんや県立大船渡病院の道又利・第1精神科長らを中心に、気仙地区の精神保健医療福祉関係者が集い、情報交換してきました。この場で築かれた精神保健福祉医療関係者の顔の見える連携が、震災に際して大きな力を発揮しました。そして、震災後の2011年4月21日、県精神保健福祉センターの調整で、全国の心のケアチームなども参加して再開。現在は同保健所保健師の岩渕恵子さんがコーディネート役を担い、心のケアの推進や精神障害者リハビリテーションの再構築を進める場になっています。
 こうして、気仙地区では、ポピュレーションアプローチ(未来図会議)とハイリスクアプローチ(連絡会)という両輪が、密接に連携しながら、住民の心と体の健康づくりを進めています。

 本シンポに際し、未来図会議と連絡会から「未来図」を発表していただけることになりました。未来図会議は「ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり」をキーワードに議論を重ねた成果として、ポピュレーションアプローチの観点からの「陸前高田市の障害者の居場所未来図」。一方、連絡会は、ハイリスクアプローチの観点からの「気仙地区の精神障害者リハビリテーション未来図」です。

 なぜ、この気仙地区の取り組みが、日本の精神障害者リハビリテーションの未来を考える上でもモデルになるのか? 皆さんご存知の通り、日本は先進諸国に比べ、今なお精神障害者の地域移行が進まず、施設処遇が中心という大きな課題を抱えています。その理由の一つに、精神障害者リハビリテーションを進めようとする際、ハイリスクアプローチの比重があまりに大きく、ポピュレーションアプローチの視点を忘れがちということもあるのではないかと思います。
 精神障害者リハビリテーションの要諦は「当事者が地域でその人らしく生きる」というリカバリー志向の未来を開くことにあります。「地域で共に生きる」ために、「地域づくり」の取り組み、つまり、ポピュレーションアプローチは必須です。「地域」にアプローチできなければ、地域移行もなかなか進まないわけです。
 その意味で、ポピュレーションアプローチを基盤に、ハイリスクアプローチとも連関して精神障害者リハビリテーションを進めようとしている気仙地区の実践は、被災地の未来を考えるのみならず、日本の精神障害者リハビリテーションの未来を描く上でもモデルになるのではないかと思います。

 本シンポではさらに、地元紙「岩手日報」が継続的に取り組んでいる震災遺族のアンケート調査結果や、取材を通じて感じた遺族の悲嘆などを紹介。岩手こころのケアセンターが取り組む被災地の心のケア活動の現状と課題、中長期的な展望についても報告していただきます。
 また、先進事例として、阪神大震災と中越地震被災地における取り組みも発表。既存の精神障害者リハビリテーションの取り組みをどう心のケア活動に生かしたか、震災後の心のケア活動をどう精神障害者リハビリテーションの充実につなげたのか、それぞれの経験は、東日本大震災被災地における中長期的な取り組みに、大いに参考になることでしょう。
 阪神、中越、東日本の現場で、精神保健をめぐるさまざまな諸課題に向き合い続ける6人のクロストーク。被災地の精神保健医療福祉関係者にとっては、自らの地域の「未来図」を描くヒントに。被災地外の関係者にとっては、被災地を継続的に支援していくヒントに、来るべき災害への備えに。そして、すべての参加者にとって、日本の精神障害者リハビリテーションの未来と、その未来に向かって自らが担う役割を考えるヒントになれば幸いです。

※日本精神障害者リハビリテーション学会第22回いわて大会は、初の岩手県開催であり、東日本大震災被災地で初の大会となりました。盛岡ハートネットが実行委員として参加しました。これは、大会抄録集に掲載された、大会シンポジウムの趣旨です。
by open-to-love | 2014-11-05 10:23 | 精リハ学会いわて大会 | Trackback | Comments(0)