精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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急性期のこころのケアについて

急性期のこころのケアについて

 被害に遭われた全ての皆様に心よりのお見舞い、お悔やみを申し上げます。
 このような災害に接したとき、誰しも被害者の役に立ち、その不安や苦しみを少しでも和らげたいという願いを持ちます。そのような意味で、こころのケアということは、誰でも自然に行っていることといえます。親身になって支援をしていったり、励まし合う中で、体験を話したり、強い感情が出てきてしまうことは、ごく自然なことです。そのときに大切なことは、そうした話が出来るような信頼関係、支え合うネットワークが作られているということです。
 これに対して、専門的なこころのケアのために、体験の話をしたり、感情を出してもらったりするという方法があります。実際に慢性のPTSDの治療のためには、こういう方法が用いられており、効果を上げています。しかし被害にあった直後の方に、緊急の援助としてこの方法を用いることは、今では国際的にも認められていません。
 被害の直後に感じている不安や苦しみは人間として自然な感情であることが多く、ほとんどの人はその状態から数ヶ月かけて自力で立ち直ることが知られています。その間のつらいお気持ちは基本的には「治す」ものではなく、「支え合う」べきものと考えられています。
 またこうした方法は、必ずしも気持ちを和らげるわけではなく、かえってPTSDを誘発することがあります。長く治療関係を続けることが出来る人ならばともかく、外部から来て数日間しか滞在しない人が行うべきではありません。慢性のPTSDの治療としてこの方法を用いる場合でも、症状が悪化する場合について万全の備えをし、日常生活が十分に安定しているなどの条件を満たした上で、3ヶ月ほどの時間をかけて慎重に実施しております。
 以前には、こうした方法(デブリーフィング)を36時間以内に行うことで将来のPTSDが予防できるという主張がありましたが、その後、国際的に否定されており、それを主張していた米国のエバリー教授は2005年のトラウマティックストレス学会で自分の説が誤りであったことを認めています。また米国心理学会は、911テロの後で、被害の直後にこの方法を行うことへの警告の声明を出しています。
 被害にあったことへの心のささえ、ケアということは、人間であれば誰しも行うことです。しかしそのことと、PTSDのような疾病の一次予防、二次予防とは別のことです。専門家であれば、意図的に話をさせたり感情を出させたりすることには、思いがけない副作用としての状態の悪化もあることを認識する必要があります。
 各国のガイドラインでも、早期のうちは温かく見守り、支え合うことが大切であって、治療や介入を急ぐべきではないとされています。急性期には様々な現実の問題や不安が多くありますので、それらを含めた幅広いケアを提供する必要があります。被害を受けて間もない時期には、生活や復旧に関する現実の心配が数多くあります。そうした問題の相談に乗りながら、ご本人の手の届くところにいて気持ちをくみ取って差し上げるような関係作りこそが、急性期のこころのケアには求められております。

文責 国立精神神経医療研究センター 部長 金吉晴

(国立精神神経医療研究センターHPより)
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by open-to-love | 2011-03-25 09:37 | 東日本大震災トピック | Trackback | Comments(0)