第4章「生活の場の中での精神保健」4 地域の精神保健
2011年 01月 21日
増野肇著、一番ヶ瀬康子監修『精神保健とは何か』
(介護福祉ハンドブックシリーズ、一橋出版、1997年)
第4章「生活の場の中での精神保健」
4 地域の精神保健
地域の急激な変化が地域の危機となります。このたびの阪神・淡路大震災のような災害は当然ですが、急激な都市化も地域の精神保健を悪化させ、さまざまな問題を多発させています。また、現代社会全体としても、これまでにない急速な変化が混乱を生じさせています。私たちの身近な生活環境も変化の波にさらされ、古い町の面影は次々と姿を消しています。子どもたちの遊び場は少なくなり、個々の家族の連帯も薄れつつあります。このようにして、昔の地域には見られたサポートシステム自体が危機に陥っているとも言えます。このような場合、地域の精神保健を保つにはどうしたらよいのでしょうか。
ストレスが強まるのは、休息のとれない状況、新しい環境への適応不安、依存対象の喪失、そして相互のコミュニケーションの欠落によるのだと述べてきました。そして、それらを支えるサポートシステムを作ることと、相互のコミュニケーションを増大させることによって修復されるのだということも述べてきました。
具体的には、
①地域の中のさまざまなキーパーソンが精神保健の援助ができるように育成する。
②キーパーソンが協力して働きやすいように、彼らが相互に連携できる組織を作る。
③精神障害者や心の課題を抱えている人たち、そしてその家族のためのセルフヘルプグループを組織する。
④ボランティアをはじめとするサポートグループを育成する。
これらによって、どこかで自分が認められ支えられるグループを地域の中に組織して、コミュニケーションを豊かにしていくことが、地域そのものを治療共同体(本来は病院などの共同体全体を治療的に構成するという方法)として活動させることになるのではないでしょうか。
これらの活動は、民間レベルの自発性が重要ですが、それを支えるのは、地域の精神保健福祉センター、保健所、市町村などの行政であり、そこにさまざまな機関が協力することになるでしょう。キーパーソンとしては、保健婦などの精神保健の専門職から、学校の先生などの非専門職、また民生委員や「いのちの電話」などのボランティア、そして家庭の母親のような一般の市民までさまざまな人がいますので、対象に応じた研修会やコンサルテーションシステムを作る必要があるでしょう。
これらのキーパーソンはそれぞれ孤立して苦悩している場合が多いのです。特に、タテ社会と呼ばれる日本的社会構造の中では、横のつながりを作るネットワークが必要になります。それによって、相互が顔を接して知り合うことが、協力体制を作るのに必要となります。このネットワーク作りは精神保健福祉センターや保健所などの仕事となります。
セルフヘルプグループとしては、精神障害者のソーシャルクラブ、障害者の家族の「家族会」、アルコール依存の「断酒会」「AA」、神経症の「生活の発見会」、てんかんの「波の会」、拒食・過食の「NABA」、薬物依存の「DARC」など、さらに、がん患者の会や「膠原病友の会」などの慢性身体疾患の会もあります。一方ではソーシャルワーカーや養護教員などの専門家でも、組織の中では少数で仕事をしている人たちには、職能集団がセルフヘルプ的な意味合いを持つことになります。
ボランティアは先の阪神・淡路大震災でわが国でも市民権が生じたようですが、高齢者の介護や子どもたちを対象とした学生や市民の活動は、YMCAなどの組織で行われてきました。心の問題を直接の課題としたものとしては、電話相談を行う「いのちの電話」、精神障害者や知的障害者の共同作業所などで活動する精神保健ボランティアなどがあり、これらの活動は、それぞれが自発性を持って行っているので、行政としては、これらのグループが活動しやすいような状況を作る必要があります。それらの活動が、危機にある人に伝達できないと意味がありません。危機にあった時にすぐ目にとまるような広報活動は、行政の大きな役割と言えます。精神障害に対する社会の偏見を教育によって除去していくことも求められますが、むしろ、障害者と市民とが相互の交流を深めることによって、偏見がなくなっていくことがより重要かもしれません。
さらに、これらの地域の活動を可能にするには、行政のシステムや法律の整備が必要です。精神保健の重要性に気づいた人たち、あるいはそれを必要とする人たちが、行政を変えていく運動、コンシューマー(消費者)運動をしていくことで、市民のための精神保健体制を作っていく必要があります。
(介護福祉ハンドブックシリーズ、一橋出版、1997年)
第4章「生活の場の中での精神保健」
4 地域の精神保健
地域の急激な変化が地域の危機となります。このたびの阪神・淡路大震災のような災害は当然ですが、急激な都市化も地域の精神保健を悪化させ、さまざまな問題を多発させています。また、現代社会全体としても、これまでにない急速な変化が混乱を生じさせています。私たちの身近な生活環境も変化の波にさらされ、古い町の面影は次々と姿を消しています。子どもたちの遊び場は少なくなり、個々の家族の連帯も薄れつつあります。このようにして、昔の地域には見られたサポートシステム自体が危機に陥っているとも言えます。このような場合、地域の精神保健を保つにはどうしたらよいのでしょうか。
ストレスが強まるのは、休息のとれない状況、新しい環境への適応不安、依存対象の喪失、そして相互のコミュニケーションの欠落によるのだと述べてきました。そして、それらを支えるサポートシステムを作ることと、相互のコミュニケーションを増大させることによって修復されるのだということも述べてきました。
具体的には、
①地域の中のさまざまなキーパーソンが精神保健の援助ができるように育成する。
②キーパーソンが協力して働きやすいように、彼らが相互に連携できる組織を作る。
③精神障害者や心の課題を抱えている人たち、そしてその家族のためのセルフヘルプグループを組織する。
④ボランティアをはじめとするサポートグループを育成する。
これらによって、どこかで自分が認められ支えられるグループを地域の中に組織して、コミュニケーションを豊かにしていくことが、地域そのものを治療共同体(本来は病院などの共同体全体を治療的に構成するという方法)として活動させることになるのではないでしょうか。
これらの活動は、民間レベルの自発性が重要ですが、それを支えるのは、地域の精神保健福祉センター、保健所、市町村などの行政であり、そこにさまざまな機関が協力することになるでしょう。キーパーソンとしては、保健婦などの精神保健の専門職から、学校の先生などの非専門職、また民生委員や「いのちの電話」などのボランティア、そして家庭の母親のような一般の市民までさまざまな人がいますので、対象に応じた研修会やコンサルテーションシステムを作る必要があるでしょう。
これらのキーパーソンはそれぞれ孤立して苦悩している場合が多いのです。特に、タテ社会と呼ばれる日本的社会構造の中では、横のつながりを作るネットワークが必要になります。それによって、相互が顔を接して知り合うことが、協力体制を作るのに必要となります。このネットワーク作りは精神保健福祉センターや保健所などの仕事となります。
セルフヘルプグループとしては、精神障害者のソーシャルクラブ、障害者の家族の「家族会」、アルコール依存の「断酒会」「AA」、神経症の「生活の発見会」、てんかんの「波の会」、拒食・過食の「NABA」、薬物依存の「DARC」など、さらに、がん患者の会や「膠原病友の会」などの慢性身体疾患の会もあります。一方ではソーシャルワーカーや養護教員などの専門家でも、組織の中では少数で仕事をしている人たちには、職能集団がセルフヘルプ的な意味合いを持つことになります。
ボランティアは先の阪神・淡路大震災でわが国でも市民権が生じたようですが、高齢者の介護や子どもたちを対象とした学生や市民の活動は、YMCAなどの組織で行われてきました。心の問題を直接の課題としたものとしては、電話相談を行う「いのちの電話」、精神障害者や知的障害者の共同作業所などで活動する精神保健ボランティアなどがあり、これらの活動は、それぞれが自発性を持って行っているので、行政としては、これらのグループが活動しやすいような状況を作る必要があります。それらの活動が、危機にある人に伝達できないと意味がありません。危機にあった時にすぐ目にとまるような広報活動は、行政の大きな役割と言えます。精神障害に対する社会の偏見を教育によって除去していくことも求められますが、むしろ、障害者と市民とが相互の交流を深めることによって、偏見がなくなっていくことがより重要かもしれません。
さらに、これらの地域の活動を可能にするには、行政のシステムや法律の整備が必要です。精神保健の重要性に気づいた人たち、あるいはそれを必要とする人たちが、行政を変えていく運動、コンシューマー(消費者)運動をしていくことで、市民のための精神保健体制を作っていく必要があります。
by open-to-love
| 2011-01-21 20:13
| 増野肇『精神保健とは何か』
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