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第4章「生活の場の中での精神保健」1 家庭の中の精神保健

増野肇著、一番ヶ瀬康子監修『精神保健とは何か』
(介護福祉ハンドブックシリーズ、一橋出版、1997年)

第4章「生活の場の中での精神保健」

ポイント
◆生活の場には、家庭、学校、職場、そして地域があります。また、特別な場所として、施設、病院などがあります。
◆個人は個人の所属している集団に影響され、また影響を与えています。
◆集団の問題は基本的にはコミュニケーションの問題です。

1 家庭の中の精神保健

 家庭は、家族の各メンバーの精神保健を支える役割を持っています。家庭の精神保健が保たれていないと、家族の中でももっとも弱いものが、そのストレスに敏感に反応して、危機のサインを出すことになるのです。逆に言えば、家庭の精神保健を保つことが、さまざまな精神の不健康を防ぐことになります。この問題は、どのような年代においても生じますが、その中でももっとも重要なのが、子どもの発達、育成に関する時期であり、もうひとつはその家庭に病人や障害が生じた時でしょう。
 発達における家庭の重要さは、ライフサイクルのところで述べました。思春期までの親のキーパーソンとしての役割が保たれるには、両親としての夫婦連合の問題が重要になります。その背景に、嫁姑の問題があることもよく見られますが、それも結局は夫婦の連合がうまくいっていないからだということになります。一方において、夫婦の危機は、子どもが育っている時期はカモフラージュされていて、子どもが自立したあとに生じることもあります。離婚率の上昇は、以前に比べてより早い時期の離婚を生み出しつつもあり、それが子どもたちにおよぼす影響も大きくなっています。子どもを必要としない夫婦、夫はいらないから、人工授精で子どもだけほしいと希望する女性なども見られるようになり、家庭がいよいよもろくなってきているように思えます。アルコール依存などの依存を支える共依存の夫婦の問題、親がアルコールや仕事に依存する結果として問題を持って生きるアダルト・チルドレンなどもこれからの重要な課題となるでしょう。
 母親が家庭を守るという時代から、夫婦共稼ぎが主流になってくると、それが子育てにおよぼす影響とともに、一度病人がでた時、あるいは親の老齢化にともなう介護の必要が生じた時の問題は大きくなってきています。障害者の介護の責任が施設から家庭へと移されていく傾向が見られます。それは、多くの場合、主婦である女性にかかってきているし、さらに、高齢化社会は、介護する立場のものが、介護を必要とする高齢者になっているという、超高齢化の問題をも提起しています。障害者のノーマライゼーションが叫ばれるようになり、障害者の結婚もまたもうひとつの課題です。それは結婚生活への支援とともに、障害に対する危険性を持ったハイリスクの子どもたちの予防の問題をも含むことになります。
 現代の家庭の特徴としては、これまでの多世代にわたる大家族から、核家族が中心になってきたことと、子どもの少子化傾向でしょう。集団の人数が少ないということは、よい時にはまとまりやすく順調ですが、一度問題が生じると、各人へのストレスが強くなり壊れやすくなるということになります。どのメンバーにとっても危機の時の相談相手が少なくなるし、調停役を見いだしにくくなります。子どもにとっては、きょうだいを通して得られる支えや、競争体験、社会性などを体験する機会が少なくなるでしょう。
 家庭の精神保健を保つには、家族全員がそろって集まる機会を作り、各人が、相手を〈あなたメッセージ〉で批判評価せず、〈私メッセージ〉で、自分が何を考えているか、何をしているかなどを、週に何回か話し合う場を持つように心掛けることが必要でしょう。
by open-to-love | 2011-01-21 20:09 | 増野肇『精神保健とは何か』 | Trackback | Comments(0)