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精神障害、メディア、文化システムをめぐる一考察…③

精神障害、メディア、文化システムをめぐる一考察…③

3.附属池田小事件とITメディア

 まず、そうした偏見がどんなものか。それが、いわゆるメディア(新聞、テレビ)より明瞭に見てとれるのが、「革命」的に広がるITメディアです。
 下記のやりとりは、ネットで見つけた「教えて!goo」という質問コーナー(サイト)で、誰かが「質問」すると、それにいろんな方が「回答」を寄せる、ネット座談会みたいなものです。「質問」に対し、9人の方が「回答」していました。ここには、精神障害者に対する一般的認識、「精神障害者は危険か」をめぐる典型的な認識がまとまって載っています。

 「教えて!goo」精神障害者について-その他(社会問題)

質問者:先日、大阪池田小で非常にショッキングな事件が起こってしまいました。報道によれば、実は精神障害者ではないという考えが強いとのことです。この場合では、事件は精神障害者によって起こされたものではありませんでしたが、このような事件が二度と起こらないとは決して言いきれません。精神障害者による事件を防ぐためにはどうしたらいいと思いますか?(精神障害者による犯罪率は一般の犯罪に比べて非常に低いものです。しかし、たまたま、ごく一部の精神障害者によって起こされた事件だけが多くとりあげられてしまいがちで、これではメディアは読者や、視聴者に対して精神障害者は非常に恐ろしい存在であるという、誤った考えを与えてしまうのではないでしょうか)(質問投稿日時:2001年6月15日)

回答者①=確かに、精神障害者の犯罪発生率そのものは低いかも知れません。しかし、逆にどんなひどい犯罪を起こしても責任能力がないなどとして罪に問われないのは、誰でも釈然としないと思います。今回の事件も、そこらを悪用しようとした節もあるようです。…人権、人権と言っている人だって、自分の子供が今回のような事件で犠牲になったら、同じように精神障害者を擁護する発言ができますか。それらしい人がいるような公園で自分の子供を遊ばせられますか。(回答日時:6月15日)

回答者②=私もあの事件には心を痛めています。小泉首相の発言によって、何らかの対策が講じられると思いますが、私は非常に危惧しております。と言うのは、精神病患者を隔離する方向に向かうのではないか、と言う不安です。…どんなキャラクターの子供も彼のキャラクターに合わせて健やかに育てる、そんな教育体制が、家庭と学校と社会にあれば良いのですが。…そんな社会を人類はまだ知りません。本当にどうしたら良いんでしょうね。(6月15日)

回答者③=この質問は、「精神障害者は非常に恐ろしい存在であるという、誤った考えを与えてしまうのではないでしょうか」と言いつつすでにそう言う意識を持っていることの現れではないでしょうか。…わざわざ精神障害のある人を取り上げなくても、精神的健常者の犯罪者の方がずっと残酷な犯罪を犯しています。エイズの薬事審議会の審議員なんか、悪いと判っていて薬メーカーのためにああいう結果を出したのでしょう。そして皆で口を拭って逃げています。本当に恐ろしい人は誰でしょうね。経済事犯にしてもそうでしょう。自殺者が出ると判っていて、法の抜け道を探しながら、金儲けに走っている人も居ます。(6月16日)

回答者④=精神障害者による事件を防ぐには、然るべき施設に十把一からげに閉じ込めてしまうのが確実でしょう。もっともこの国ではそんな乱暴なことは許されないことになっていますので、家族と医師の緊密な連携のもとでケアという名の監視のもとにおくことになりましょう。しかし、本人はいたって正常であると思っておるのであるし、医師だって一挙一動足にまで付き合いきれんというのが本音でしょうから、結局家族が頭を抱えることになります。そうやって本人も周りも人生メチャクチャになってしまうくらいなら、遺伝子技術などであらかじめ危険の芽を摘み取ってしまっても、なお正義にかなうし、法的にも問題ないと思います。(6月16日)

回答者⑤=精神障害はあたりまえの事だと認識することです。私も貴方も、誰でも精神障害者予備軍なのです。精神障害者というと(表現の為あえて書きます)「気が触れた」「気違い」という認識が未だ根強いと思います。実際、精神的な障害で事故、事件を起こす人は極々普通の人がほとんどです。…ストレスや心身の障害は「病気」であると判断して治療に取り組むべきです。メンタルなクリニックはごく当たり前の事と思い早期に治療を行えるような状態にする事です。四肢が不自由な方には手を差し伸べます。目の見えない方にも手を差し伸べます。耳の聞こえない方にも手を差し伸べます。どうして精神を病んだ人にだけ手を差し伸べないのでしょうか。(6月16日)

回答者⑥=精神疾患の方は、思考単純な方が多く適正な治療を受けていれば、まず犯罪には関係しません。と言うのは、適正な治療を受けていれば、医師の管理下にあり医師の適正な心理療法技術があれば、医師のおもうがままの行動を取るように条件付けが可能だからです。…大阪の例を見ていますと、…下手な医者、専門的技術をほとんど持たない関係施設の利用が原因だと思います。(6月16日)

回答者⑦=今回の池田小の事件の容疑者は今になって「安定剤は飲んでいない。精神障害を装った」と証言しているそうですね。これを「精神障害者」と呼ぶのでしょうか? ○ステーションでは「触法精神障害者」という言葉を使っています。「触法精神障害者」と「一般精神障害者」とを区別しています。…私も精神科に通院し投薬を受けています。私も立派な(?)「精神障害者」なのでしょうか?…池田小の事件後、福岡で「知的障害者」が小3の女の子に暴行を加え重傷を負わせたという事件がありました。池田小の事件に隠れたのか、「知的障害者」への人権問題なのかほとんど報道されず、名前も公表されませんでした。…最近の報道はあまりにも矛盾が多く、本当に「こころの病気」でやんでいる人へのフォローがなおざりになっていると思い発言させていただきました。といって今回の容疑者は罪に問うべきだと思います。「精神障害者」を装い計算した上での犯行。許されることではないと思います。(6月16日)

回答者⑧=殺人や暴力などは一般的に『正常』な精神状態で行えないと私は思います。正常な状態であれば『自制』できるはずですし、そうした行為を起こすとどのような結果がもたらされるか判断できるのではないでしょうか。…人は誰でも『精神障害予備軍』であるというご意見に賛同いたします。精神障害者が起こす犯罪ということではなく、犯罪は何らかの原因で一時的にでも精神障害に陥った人間が起こす『とても不幸な出来事』なのではないでしょうか。不幸にも精神に障害をもたれてしまった人に対し、犯罪を起こさないよう考えるのではなく、全ての人々が犯罪を起こさない様々な環境を作り上げることを考えるのが重要ではないかと思います。「いま起こりつつあるかも知れない悲惨な事件の防止策はどうするんだ。悠長な絵空事を言ってる場合じゃない」といわれる人もいるかもしれません。そうなんです。そこがこうした問題の非常に困難なところです。たくさんの方々の意見を伺って最善の策を考えなければいけないと思います。ただ、『精神障害者』と一般に診断されてしまっている人たちを、ただ闇雲に『危険視』するのはいかがなものかとおもうんですよね。(6月16日)

回答者⑨=防ぐ方法は、ないと思います。それは、健常者犯罪と同様に。ただし、精神障害者として、治療され、保護されているわけではないでしょうから、そういう人に関してはどうなのでしょうか?わかりません。…精神障害者すべてを隔離してしまえばいいなんて乱暴な意見は実現不能ですし、建設的でないし、治療にもならないし、解決方法とは言い難い。(6月24日)

 ここには、精神障害者に対する本音、危険な精神障害者をどうすべきかの処法箋が示されています。質問が、犯人は精神障害者でなかったにもかかわらず、精神障害者による事件を防ぐためにどうすればいいのかを問うていること自体、「精神障害者は危険」という大方の本音を代弁しているのでしょうが…。まずは処法箋。

①然るべき施設に十把一絡げに閉じ込める
②家族と医師が監視する、医師の管理下に置く
③遺伝子技術で危険の芽を摘み取る

 対して、建設的な意見もあります。

①早期の治療が行えるようにする
②全ての人々が犯罪を起こさない環境を作る
③たくさんの方々の意見を伺って最善の策を考える

 さらにここには、ITメディアならではの特徴も指摘できます。

①匿名性=全員が実名ではなく、ハンドルネーム
②責任の不在=実名を明かしていませんから、まあ、何を書こうが責任の所在は不明です。
③基本的な事実関係の誤り=例えば「適正な治療と適正な心理療法技術があれば医師のおもうがままの行動を取るように条件付けが可能」なわけがありません。「遺伝子技術などであらかじめ危険の芽を摘み取ってしまっても、なお正義にかなうし、法的にも問題ない」も然り。「家族が頭を抱えて人生メチャクチャ」だそうですが、わが家はそんなことないですけどね。
④基本的な事実関係の誤りのチェック機構の不在=上記のような根拠のないことがそのまま載っています。
⑤論証のプロセスの不在=上記に関連しますが、ここでは発言の根拠も出典も示されない。逆に言えば、ITメディアとは、根拠を示さなくても発言できるメディアということです。
⑥対話の不在(モノローグ)=1人の質問に対し9人が回答した。では、9人の回答を踏まえ質問者はどう思ったのか、反論に対する再反論、といった対話、フィードバックがない。

 例えば、新聞の「読者投稿コーナー」に、「精神障害者は然るべき施設に十把一絡げに閉じ込めろ」などという乱暴な意見はまず掲載されません。よしんばその種の意見を持っている方であっても、それなりの理論武装をして、説得力がある論理として提示しないと話になりません。ネットの場合、そうした理論武装がなくても、簡単に載ってしまう。逆に言えば、ある意味、ネットは既存のメディアよりはるかに、大方の本音が読み取れるメディアとも言えましょう。
 例えば、精神障害者は危険と思っている方が、自分の友人がうつ病になって精神科クリニックを受診したら、その友人に面と向かって「お前は危険だから施設に入って二度と社会に出てくるな」と言えるでしょうか? あるいは、精神障害者の犯罪をテーマに、新聞で、ネットと同じメンバーで、匿名座談会をしたとします。その際、みなさんここまで言いたい放題でしょうか? そうはならないと思います。対面関係で言いたいことを言うのは、それなりの勇気がいります。
 ですから、ITメディアにおけるコミュニケーションは、対面コミュニケーションよりも、さらに新聞などの既存のメディアのコミュニケーションよりも、人と人との距離は遠いです。新聞などのメディアのコミュニケーションは、それが無記名であっても、直接コミュニケーションを前提として成立しますから。一方、ITメディアの場合は、質問する、回答するといっても、おそらくは、全員が自宅なりのパソコンに独りで向かっているのですから、そこには対話はおろか、人間的な関係すら希薄ではないでしょうか?
 なお、そんな中でも、「たくさんの方々の意見を募って最善の策を考える」といった建設的な意見も載っていることは救いです。また、注目すべき点として、当事者が発言している(「私も精神科に通院し…」)ことが挙げられます。これについては、後述します。
(④に続く)
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by open-to-love | 2010-12-07 22:30 | メディア文化論 | Trackback | Comments(0)