精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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「どうする、どうしたい我が国の精神保健福祉」

みんなねっと長崎大会基調講演

「どうする、どうしたい我が国の精神保健福祉」

早稲田大教授 田中英樹

 今日は、世界の精神保健福祉のなかで、日本はどのあたりを歩んでいるか、また、どんな新しい試みがあるか、家族、当事者に勇気を与える話をしたいと思います。

◇世界はいま、どのあたりか

●脱施設化の現状

 まず、脱施設化の現状をお話します。精神病床は世界全体では約165万床、日本は約35万床、世界の20パーセントです。しかし、日本の人口は世界の2パーセントです。非常に病床が多いのです。平均在院日数もやっと300日を切りましたが、外国で短いところでは10日から2週間、平均1カ月です。多くの国では、普段の日常生活を中断せずに治療を受けられます。日本では多くの方は職場を失い、友を失い、伴侶を失い、いろいろなことを犠牲にして入院しています。すぐに社会復帰すれば失ったものを取り戻せるかもしれませんが、5年、10年と入院して、自分の人生の何を取り戻せるでしょう。このように、諸外国にくらべ日本は、20年、30年の遅れがあります。厚生労働省は社会的入院者7万人を10年間で退院させる目標をたてています。

●地域生活支援の3つのモデル

 次に、精神障がい者の地域生活支援について3つのモデルを見ていきたいと思います。
 1つ目は場のサービスです。
 日本のデイケアや地域活動支援センター、自立支援法のさまざまな事業にあたります。拠点をもってさまざまなサービスを提供します。海外では、イタリアのトリエステ方式があります。トリエステ市では、精神科の病院を廃止して、すべての精神障がい者は地域で暮らしています。市内に5つの精神保健センターがあり、グループホームも整備されています。また、アメリカを中心に世界に広がったクラブハウスがあります。日本にも6、7カ所あり、世界には約500カ所あります。
 2つ目のサービスは届けるサービス、ホームヘルプのようなサービスです。イタリアのアレッツオ方式では、精神医学の知識をもったヘルパーがたくさん活躍しています。カナダでは、看護師と警察官が協力して、24時間市内をまわり、救急のときにかけつける体制ができています。また、ACT(アクト)というサービスが世界に普及しています。
 3つ目のサービスは仲間によるサポート、ピアサポートです。日本で最もピアサポートが進んでいるのが北海道のすみれ会、浦河べてるの家、沖縄のふれあいセンターなどです。ふれあいセンターは、社長・社員みんながメンバーです。当事者が当事者のあめに運営管理するサービスを広げてきています。

●リカバリーとストレングスモデルの進展

 精神障がい者支援の新しい理念としてリカバリーについて話します。回復と訳すことが多いです。回復というと、病気がよくなるという意味にとらえられがちですが、自分の生活や人生そのものを再建する、というふうにとらえます。
 そして、リカバリーを実現するために、エンパワメントという考え方が重要です。障がい者自らが課題を解決していけるよう、専門家はよりそって本人の希望を大事にし、必要な知識や技術を駆使します。
 また、ストレングスモデルにより、見方を変え、その人の弱い部分を見るのでなく、その人が持つ可能性や成長している部分を見ることが重要です。例えば、高齢で、脳梗塞で倒れ右半身麻痺した方がいます。でも、死ななかった、助かったと考えることができます。左半身は障がいがありません。このようにとらえると可能性、支援の方向性が見えてきます。

◇わが国でも先進的な取り組みが始まっています

 わが国でも先進的な取り組みが始まっており、知的障がい者の分野では、コロニーとよばれる、街から離れた入所施設を次々縮小、閉鎖の方向で脱施設化する動きがあります。
 2つ目に、地域を基盤とした拠点活動として、例えば、静岡県の地域活動支援センターだんだんがあります。多くの障がい者が農作業に精を出しています。かつては全国に数えるほどでしたが、各地にすばらしい取り組みが広がっています。
 3つ目は、就労支援です。障がい者の権利の全面的な回復のためにも、重視すべき取り組みです。世界の動向を見ると、IPSという、個別の職場においてサポートするしくみが広がってきました。
 4つ目はACTです。千葉県でパイロット事業として始まり、やがて、京都で診療所中心に訪問看護ステーションと手を組んで始められました。さらには、岡山、愛媛、いろいろなところで取り組まれています。
 ACTが成功すれば、壁のない病院といわれるように、精神科の病床数に大きな影響を与えることは間違いありません。また医療経済的にみても効率が高いと世界で実証されています。

◇近未来の展望

 求められる思想と戦略ですが、個人の尊厳を基本とし、社会的な不平等や偏見と差別をなくしていく取り組みが大事です。それには、科学的な根拠のある実践、患者・家族の価値観を重視した実践が必要です。
 そのうえで、基本は“ひと”にあります。基準は世界、基盤は地域、基本は“ひと”だと思います。これからの地域生活支援には、地域にシフトした最新の良質な医療、進んだモデルを取り入れたリハビリテーションが必要です。そのためには、市町村を中心とした地域生活支援体制をどこまできめ細かく整備していくかにかかっています。政策的には法定雇用率を、精神障がい者雇用も正式にカウントさせること、また、障がい者に関する差別禁止について実効ある法整備を実現することが必要です。
 今、当事者本位、当事者参加を基本にした地域生活支援をする時期に入ってきていると思います。ピアカウンセラーをしている人が増えてきました。また、大阪から始まったピアヘルパーも、広がりつつあります。自治体によっては、ピアサポート事業への支援も行われています。
 家族の位置も変化してきました。1990年以前の家族は当事者をケアすることが家族の義務であるとされていましたが、90年代は、家族も援助の対象であり、家族を支援し、負担を軽減することの必要性が確認されてきました。2000年代の家族は、退院促進、脱施設化の中で、新しい形で当事者と向かい合う状況にきています。
 未来型家族といいましょうか、脱施設化の次にくるのが、脱家族同居ではないでしょうか。障がい者が新しい家族を作ることも含め、脱家族同居が次の私たちの目標です。そして、もし自分が障がい者の家族でなかったらどんな人生を歩んでいただろうと、もう一度これからの人生を考えていく、それが大事だと思います。
(全福連「みんなねっと」2010年1月号、特集「みんなねっと長崎大会」)
Tracked from 脳ドック・金内メディカル.. at 2010-04-08 15:00
タイトル : 脳ドック・金内メディカルクリニック徹底解析サイト!脳ドッ..
初めまして、いつも楽しく拝見させていただいてます!^^実はこの度、『脳ドック・金内メディカルクリニック徹底解析サイト!脳ドックの金内メディカルクリニックをあらゆる角度から分析。必見です!I』というサイトを立ち上げましたのでトラックバックをさせて頂きました。m(_ _)m 手前味噌で大変恐縮ですが非常に有益な情報をご提供できると思っておりますのでぜひ訪問いただければと思います。万が一不要な場合はお手数ですが削除ください。これからも応援させていただきます!^^大変失礼致しました。m(_ _)m... more
by open-to-love | 2010-03-30 22:30 | 全福連(みんなねっと) | Trackback(1) | Comments(0)