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カテゴリ:抗うつ薬( 1 )

Q:副作用に関する報道で不安になりました

 私は、44歳の男性です。4カ月前にうつ病と診断されました。クリニックでは、抗うつ薬のパキシルと睡眠薬を処方されています。
 最初のうちは、そのほかに胃薬も処方されていました。胃薬は、パキシルの副作用で、吐き気などが出る場合があるけれど、その副作用止めのために処方するという説明を受けました。
 ただし、この吐き気なども2週間程度たって出ないようであれば、胃薬も必要ありません、ということで、今は胃薬はのんでいません。
 薬を飲み始めて4カ月になりますが、症状はかなりよくなりました。私にとって、パキシルと睡眠薬はとても必要な薬です。
 ところが最近、パキシルの副作用によって、自殺が増加しているという趣旨の新聞記事を読みました。
 それを読んで、パキシルをのんでいることに不安をおぼえ、先日の診察のときに、主治医に相談しました。
 主治医は「あなたの場合は、この薬をのみはじめて4カ月がたっているので、自殺の問題はありません。安心してのんでください」
 と言われましたが、どうしても不安を感じてしまいます。
 このことについて、薬についてくわしい先生のお話を聞きたいと思いますので、よろしくお願いします。

A:正確な情報を知りましょう
(回答者:樋口輝彦 国立精神・神経センター総長)

 私もその記事を読みました。新聞の記事には、抗うつ薬「パキシル」の副作用が疑われる、ということが内容のほとんどを占めていました。そのため、この記事を読むと、パキシルが自殺を増加させるような薬ではないかという不安をもって当然だと思いますが、これは非常に不正確な記事であると思います。
 結論から申しますと、24歳以下の人で、最初の2週間程度は不安や衝動的な気持ちになることがあります。そのため注意が必要です。自殺関連行動(焦燥、衝動、自殺念慮)を増すこともわかっています。
 したがって、この年齢の方が服用する場合には充分な注意が必要です。しかし、禁忌(使用してはならない薬)ではありません。
 しかし、それ以外の方であれば、薬がうつ病による自殺を防ぐ方向に作用することはあっても、自殺を増やす方向に作用することはないのです。
 うつ病は自殺をしたくなる気持ちがおこりやすい病気です。しかし、抗うつ薬そのものが、自殺を誘発させたり、増加させたりというように受け止められると、うつ病の治療そのものがなりたたなくなってしまいます。
 そのことについて、正確な情報を知ることで、ご安心いただけることと思います。

処方の内容について
 まず、自殺に関する副作用のことを説明する前に、ご相談の方の処方の内容についてみてみましょう。
 最初は胃薬が出されていて、今はパキシルと睡眠薬だけとのことですね。
 重症の方であれば、薬を処方するためのガイドラインでは、第一選択薬としてSSRI、SNRIという、新しいタイプの抗うつ薬(以下=新規抗うつ薬と表記します)を推奨しています。
 ただし、新規抗うつ薬では、最初の1週間程度、吐き気などの消化器症状が出る場合があります。そのため、最初の1〜2週間は胃薬を一緒に飲むことが一般的なのです。
 パキシルは、SSRIの一種です。ですから、この方の処方も、ガイドラインに照らし合わせてみても、きわめて一般的な処方です。

パキシルに関する経緯
 さて、新聞記事に戻りますが、もし、ある薬が自殺そのものをかなり増やしてしまう性質のものであるとしたら、その薬は国の機関が使ってはいけないと決めるはずです。これを禁忌といいます。
 一時期パキシルは、最初の段階では、イギリスで18歳以下の人には禁忌となっていました。それを受けて、日本でもパキシルについては18歳以下には禁忌となっていました。
 その後、抗うつ薬による自殺や、自殺と関連する行動について、アメリカの食品医薬品局(FDA)が調査を行いました。FDAというのは、医薬品などの許可や違反品の取り締まりなどを行う国の機関です。
 FDAは、コロンビア大学に依頼をして、これまでの抗うつ薬による自殺や、自殺の関連行動を調べました。
 関連行動というのは、自殺には至らないが、非常に衝動的になるとか、あるいは自殺したいという気持ち(自殺念慮)がわいてくるなどのことをいいます。
 そうしたことをそれまでの報告や論文などによって、すべて調査したわけです。
 その結果、24歳以下の若年のうつ病の方が、抗うつ薬を使う場合(パキシルに限らず、すべての抗うつ薬)には、その投与初期において、自殺関連行動が増加するkとおが認められました。
 しかし、自殺数そのものが、それによって優位に増加したということではない、という結果が出ました。
 自殺関連行動というのは、場合によっては自殺に至る可能性があるわけですから、リスクであることは間違いはありません。その調査の報告によって、アメリカでは、すべての抗うつ薬の添付文書のなかに、最も重大な警告という形で、調査でわかった内容を盛り込みましたが、禁忌にはしませんでした。
 その経緯を受けた形で、イギリスはパキシルを禁忌からはずしました。また、日本もこの調査報告を受けて、禁忌をはずして、警告という形で添付文書に書かれるようになりました。
 ですから、報告によれば、25歳以上のうつ病の方に対して抗うつ薬を用いることで自殺が増加するということはあり得ないということになります。
 むしろ、うつ病によって、自殺を考えるケースを減らしていく方向にあっても増やすことはないはずです。
 以上のような経緯がパキシルにはありました。

アクチベーションについて
 問題は24歳以下の若い人です。投与初期の段階で衝動性を増したり、自殺したい気持ちや焦燥感が強まったり、という状態が現れる場合があります。これをアクチベーションといいます。
 ただし、実をいうと、アクチベーションは、SSRIとかSNRIという新規抗うつ薬だけのことではなくて、昔からある三環系の抗うつ薬を含めて、すべての抗うつ薬で起こりうることがわかっています。
 そのことについて、簡単に述べておきましょう。
 抗うつ薬には、大きく分けて三環系抗うつ薬という従来のタイプの薬と、SSRIや、SNRIという、新しいタイプの抗うつ薬があります。

SSRI:パキシル、デプロメール、ルボックス
SNRI:トレドミン
→特徴:鎮静作用はなく、気持ちを高める作用がある。吐き気や下痢などの消化器症状の副作用が初期にある場合がある。副作用は三環系より少ない。

三環系抗うつ薬:トリプタノール、ラントロン、アモキサン、イミドール、トフラニール、アナフラニール、プロチアデン、スルモンチール、ノリトレン、アンプリット
→特徴:鎮静作用と気持ちを高める作用がある。口が渇く、便秘、排尿困難などの副作用がある。

 三環系抗うつ薬には、気分を上向きにする作用と、気持ちを鎮静させる作用とがあります。鎮静作用によって、非常に眠くなったり、頭がぼーっとしたりします。
 この鎮静作用によって、先にのべたアクチベーションがおさえられているわけです。そのため、三環系抗うつ薬ではアクチベーションは問題にならなかったのです。
 一方で、新規抗うつ薬は、気持ちを鎮静させる作用(副作用)がなくて、気持ちを高める作用が主な作用であることが特徴です。また、三環系の抗うつ薬よりは副作用も少ないことが特徴です。
 新規抗うつ薬では、鎮静作用がないために、初期にアクチベーションが起こりうるわけです。

のみはじめの時期に注意
 抗うつ薬の効果があらわれるまでには、2週間以上かかりますが、不安感や焦燥感、あるいは、吐き気という副作用の方は、のみはじめて、わりと早く現れます。つまり、薬のよい効果よりも、副作用の方が先に出てしまうのです。
 しかし、アクチベーションが起こりやすい時期というのは、投与してからせいぜい2週間以内ぐらいです。ですから24歳以下の方で、SSRIやSNRIを服用する場合は、最初の2週間は慎重に様子を見ることが必要です。場合によっては、この時期のみ安定剤(抗不安薬)を併用するのもよいでしょう。
 具体的には、焦燥感・不安感・衝動性などが出ないか、ということに気をつけてください。もしそういう状態になったら、まず主治医に連絡をしてください。
 主治医は、まず薬をやめてください、というかもしれませんが、その後どのようにするのか、ということは主治医とともに考えましょう。

結論
 ご相談いただいた方の場合は、年齢も40代ですし、薬をのみはじめて4カ月がたっています。そして、その薬が自分にあっていると感じていらっしゃるとのことです。
 したがって、薬を変える必要はありません。安心してこのまま薬をのんでいただいてよいでしょう。
 そして、病気そのものがよくなって、将来的に薬をのまなくてもよくなる日もくることと思います。

(「こころの元気+」2007年8月号 質問コーナー おこまりですか?では他の人に聞いてみましょう!Vol.6

※当該の新聞記事は、2007年の毎日新聞記事「『パキシル』服用 抗うつ剤で自殺急増 副作用の疑い 05年度11件、06年度15件」と思われます。記事の前文は、以下の通りです。

 抗うつ剤「パキシル」(一般名・塩酸パロキセチン水和物)の副作用が疑われる自殺者が05、06年度と2年連続で2ケタに増えたことが厚生労働省などの調べで分かった。パキシルはうつ病やパニック障害などに有効だが、若い人を中心に自殺行動を高めるケースがあり、添付文書にはすでに警告や注意が明記されている。厚労省は医療関係者に「患者の状態の変化をよく観察し、薬の減量など適切な処置を」と呼び掛けている。…(以下略)

「すべて投与、問題」という見出しの、田島治・杏林大教授(精神保健学)の話も載っています。

 「パキシルはうつ病に有効で、自殺関連の副作用が表れるのもごく一部とみられる。軽いうつ状態にまで、すべて薬を投与するのは問題だ。」
by open-to-love | 2007-08-30 19:43 | 抗うつ薬 | Trackback | Comments(0)