精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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カテゴリ:ヘルパー研修講義( 1 )

「社会の風」としての精神障害者ホームヘルプ

2009年3月10日(火)午後2―3時、盛岡地域職業訓練センター
財団法人介護労働安定センター第2回介護員養成研修2級課程「高齢者・障害者(児)等の家族の理解」

(盛岡ハートネット事務局&岩手日報記者 黒田大介)

■1■自己紹介
■2■わが家の一日
■3■精神障害者の歴史とホームヘルプ
■4■統合失調症とうつ病
■5■精神障害の特徴:中途障害と根強い偏見・差別
■6■精神障害者と家族は、地域で誰に出会うのか?
■7■盛岡ハートネットのご案内
■付■添付資料紹介


■1■自己紹介

私=36歳
1972年 8月 宮城県石巻市出身。石巻高卒、盛岡大卒、岩手大大学院修了(専門は欧米文学・文学理論)
1998年 4月 岩手日報社入社(報道部、釜石支局、整理部を歴任)
1999年 3月 結婚
2003年 5月 妻、長女を出産
2006年 4月 編集局報道部県警担当
      5月 妻の統合失調症発病で20日間会社を休む
         妻は受診、通院。娘は保育園児に
      6月 編集局学芸部家庭欄担当に異動、主夫兼記者に。岩手県精神障害者家族会連合会(岩家連)入会
2007年10月 私含め精神障害者家族3人で、精神障害がある当事者・家族・関係者・市民のネットワーク「盛岡ハートネット」結成
2008年 4月 編集局学芸部文化欄担当(音楽と考古学)
      8月 自殺と多重債務対策の連携シンポジウム(ハートネット・盛岡市共催)
      9月 「明るく生きる2008 こころのシンポジウム」(一関市千厩)で、会社の休みをとってパネリストとして参加
12月 「ふれあいin八幡平」(八幡平市)で、会社公認で講演
2009年 1月 当事者の演劇集団「キラりん一座in盛岡」(ハートネット主催)
2月 「地域生活支援セミナーinにのへ」(二戸市)で講演
      3月 ヘルパー2級研修講師

妻=43歳、統合失調症。毎週デイケア、2週間に1回診察。精神保健福祉手帳1級

娘=5歳、保育園児

※こんな感じで、いろいろありました。


■2■わが家の一日

【朝】午前 7時30分 起床(妻と娘は朝ご飯、オレはコーヒー&一服)
      8時30分 娘と一緒に出発
【日中】娘は保育園、オレは会社で仕事、妻は家でのんびり
【夜】午後 6時 帰社、娘をお迎えして帰宅、晩ご飯づくり
午後 7時 家族で晩ご飯。妻は洗い物、オレは一服
午後 9時 妻と娘はお風呂、就寝
午後10時 生協で買い物、家計簿、メールチェック、ブログ更新、相談電話…
午前 0時 仕事
午前 2時 お風呂、就寝

 ※わが家はホームヘルプサービスを使っていませんが、その代わり、保育園という社会資源に大変お世話になっています。みなさんは、「うわぁ、精神障害者家庭って大変…」と思うでしょうか? いえいえ、慣れます。むしろ、あちこち見聞するに、わが家は恵まれている方です。というのは、統計はありませんが、精神障害者家庭の離婚率、崩壊率は高いという実感があります。加えて、私の場合はたまたま正社員だし、もともと料理が得意だし、職場の同僚の理解があるし、自立心旺盛な娘だし、私の両親が元気で手伝いに来てくれるから、なんとか家族のかたちを保っています。でも、もし私が派遣社員だったら、もし同僚が無理解だったら、両親が協力的じゃなかったら…わが家はいとも簡単に崩壊していたことでしょう。こうした意味で、精神障害者家庭にとって、ホームヘルプなどのサービスや社会資源はとってもありがたいのです。

■3■精神障害者の歴史とホームヘルプ

 ずっと昔…座敷牢
 一昔前は…精神病院に一生入院
 ここ最近…地域に住んで通院

 精神障害者は、ずっと昔(100年前)、私宅監置、要するに馬小屋みたいな座敷牢に入れられ、家族が一生面倒をみることが義務付けられていました。戦前、その悲惨な実態を全国調査し告発した高名な東大教授呉秀三は、「精神病者には、この病気にかかった不幸とともに、この国に生まれた不幸という二重の不幸がある」と嘆き、病院設置の必要性を訴えましたが、さっぱり設置は進みませんでした。日本では「お国のため」に役立たない精神障害者に回す金はなかったようです。ちなみに、欧米では優生思想に基づく断種法で不妊手術され、ナチスドイツではガス室送りでした。
 戦後日本では、ようやく病院が作られるようになりましたが、今度は、病気になった人は一生病院に入りっぱなし。「危ないやつは病院に入れとけ」みたいな社会防衛の側面が強かったからです。1950年代に抗精神病薬が開発され、症状が抑えられるようになって、欧米では地域移行(入院から通院へ)が進みました。でも、日本では回復してもいつまでたっても鉄格子のある精神病院に入れっぱなし。これを「社会的入院」といいます。
 でも、1960年代にWHOからクラーク博士が調査に来て実態調査し、「日本の精神病院には非常に多くの分裂病者が入院しており、長期収容による無欲状態に陥っている。厚生省はこの状態を改善するために作業療法などのリハビリテーションの推進を図るべきである」と勧告されました(クラーク勧告)。にもかかわらず現状はさっぱり変わらなかったのですが、1980年代、宇都宮病院事件(入院患者が看護者のリンチを受け殺害された事件)などを契機に、日本の人権無視の精神障害者処遇は世界的な批判を受け、ようやく変わってきました。小規模作業所など家族の自助努力で担われてきた精神障害者社会復帰への取り組みを、公が担うようになってきました。
 1993年の障害者基本法で、精神障害者は念願の「福祉」の対象として位置付けられ、2002年からは高齢者、身体・知的障害者ではすでに始まっていたホームヘルプサービスが精神障害分野でも始まりました。それは、かつて「座敷牢」、それから「精神病院」に閉じ込められていて、最近こそ地域に住んでいるが通院以外では閉じこもりがちな精神障害者にとって、「社会」との接点が生まれていたという意味でも、実に意義深いのです。
 ただ、精神障害者は福祉の仲間入りをしたのがごく最近だけに、地域で生きるためのいろんなサービスがまだまだ乏しい。例えば、このヘルパー2級講座のテキスト『ホームヘルパー2級課程テキスト8』の中で、精神障害に特化した記述は、わずかに下記の通りのようです=17ページ参照。

「障害者(児)の心理」~障害者(児)の生活・行動と心理
Ⅱ.障害による生活・行動上の制限と生じやすい心理的傾向の概要
  6.精神障害
(1)生活・行動上の制限
    ①自身の思いと現実が遊離
    ②現実感が希薄で内的な思いに終始しやすい
  (2)生じやすい心理的傾向
    ①すべてに繊細で感じやすく、独自な感情や思考が生まれやすい
    ②幻覚、幻聴、妄想(被害、関係、誇大)と現実とを混同する
    ③おびえや攻撃性が顕著にあらわれることがある

 ※これしか記述がないこと自体が、障害福祉サービスにおける精神障害の現状を端的に表していますね。ともあれ、上記のような精神障害者の一般的傾向があるとしても、それ以上に一人一人の個性や性格はさまざまであること、その意味では、非=精神障害者と大差ないこと、服薬して症状の再燃を抑えていれば地域で日常生活を営める人が大半であり、「精神障害者は危ないから病院に入れとけ」なんてとんでもない誤りであることは、みなさんが実際にホームヘルプに入って当事者と会っておしゃべりすれば、実感するでしょう。

■4■統合失調症とうつ病

 精神疾患にはさまざまな病気があり、これまで述べてきたのは主に統合失調症(精神分裂病)です。一方、近年注目を集めているのはうつ病。自殺が社会問題化している日本ですが、自殺者の多くがうつ病など心の病を抱えていたことから、その早期発見・治療が叫ばれています。統合失調症は洋の東西を問わず、昔も今もなぜか100人に1人がかかる病気ですが、うつ病患者は急増し「うつ病の時代」とまで言われています。それは、派遣業務原則自由化など雇用流動化政策や「聖域なき構造改革」の社会保障費縮減に伴う、ストレス社会=格差社会の進行と無縁ではないことでしょう。そして、日本の精神障害者の生活実態と処遇の歴史を踏まえれば、この国は実はずっと昔から格差社会であり、ようやく最近マスコミなどで問題視されるようになっただけではないかとも思います。昨今の失業者増加とうつ病患者増加について、深い悲しみと危機感を抱かずにはいられません。
 ともあれ、「心の病」の代表格である統合失調症とうつ病について説明します。ホームヘルプの対象は、主として統合失調症です。
 ※統合失調症=脳神経系のトラブル(ドーパミン系のニューロンの過活動)で脳が異常に興奮した状態となるため、幻覚や妄想などが出現すると考えられている病気です。おおよそ100人に1人、思春期から30歳代ごろまでに多く発症します。幻視や幻聴などの「幻覚」、「妄想」、「焦燥感」、「精神運動興奮」(激しい興奮)、「奇異な行動」、「支離滅裂な思考や返答」などのほかに、「自閉」、「意欲の低下」、「情動の平板化」、「感情鈍麻」、「思考の貧困」、「緘黙」(話をしなくなること)、「意欲と発動性の欠如」、「注意力障害」(集中力低下)などの症状があります。抗精神病薬により症状が安定しますが、脳の不調で人とのかかわりや会話、柔軟な対応が苦手になるなど生活上の障害、社会の偏見から閉じこもってしまうなどの障害が生じることが少なくありません。
 ※うつ病=日常的なストレスからくる悲しみや、不安・ゆううつな気分などのこころの状態がいつまでも回復せず、日常生活に支障をきたしてしまう病気です。「憂うつで、喜びも悲しみも感じられない」「 意欲がわかず悪いことばかり考える」「ぐるぐる思考に陥り、発想の転換ができない」などの症状があります。一生のうちに約12~15人に1人がうつ病になるとされるくらい誰にでも起こる可能性のある病気です。休養(何もしないこと)、薬物療法(抗うつ薬・抗不安薬・睡眠薬など)が治療の基本。一進一退を繰り返しながら快方に向かうため、自己判断で治療をやめないことが大切です。
(盛岡ハートネット第8回例会「キラりん一座in盛岡」パンフレットより引用)

■5■精神障害の特徴:中途障害と根強い偏見・差別

 精神障害は中途障害という特徴があります。統合失調症の場合、20歳前後で発症することが多い。すると、その時親は50歳前後。一説には、当事者も家族も病気を受容するのに10年かかるといいます。すると、もう60歳ですから、体力も気力も衰えつつある。例えば「高校卒業までは元気にすくすく育っていた子どもが、首都圏の大学に合格し、親元を離れて一人暮らしを始めた。元気にやってると思ってた。でも、あんまり連絡がないんで不審に思い、様子を見に上京した。すると、わが子が部屋にうずくまり、カーテンを閉め、なにやら怯え、意味不明なことを口走っている。おかしい。とりあえず実家に連れ戻したが、あいかわらず様子が変だ。嫌がる本人を無理矢理精神病院に連れて行ったら、統合失調症と診断され入院…」となってしまった家族の苦しみ。「あれほど可愛かったわが子が…」。そして、わが家の場合を先に述べたように、当事者のみならず、家族の生活もガラガラと変わります。しかも、先に「精神障害者の歴史」で述べたように、精神障害に対しては、長い歴史に根差した偏見と差別があります。だから、隣近所にも、親しい友人にも病気のことを言えない。隠してしまう(隠さない方が楽なんですけどね…)。これまでの人間関係から親子が切り離され、孤立し、苦しみを抱えてしまう。こうした事情も病気(障害)の受容を困難にし、かつ、受容に時間がかかっているうちに症状がますます悪化し、手をこまねいているうちに、親子の決定的断絶あるいは共依存関係、DV、自殺未遂、一家離散などを引き起こすケースが少なくありません。

■6■精神障害者と家族は、地域で誰に出会うのか?

□保健師
□相談支援専門員
□ワーカー(精神保健福祉士=PSW等)
□訪問看護の看護師
☆ヘルパーさん
○親戚のおじさんおばさん
○友人
○ご近所の人
○その辺の普通の人

 □=専門家、○=専門家じゃない人、と大きく二分されます。□と○のちょうど真ん中に☆、つまり、みなさんが目指しているヘルパーを位置付けました。
 保健師も相談支援専門員もワーカーさんも訪問看護の看護師さんも、いずれも専門の学校で学び、経験を積み、資格を取得した、地域で働く専門家です。一方、親戚の人も友人もご近所の人もその辺の普通の人も、いわゆる専門家ではありません。精神障害者の最初の人間関係は、病院にいる精神科医を含め専門家集団。ですが、退院して地域に住んで毎週通院しながらも、いつまでも専門家とだけの関係に留まっているのなら、それは、地域に住んでいながら、精神病院に隔離されてるのと大差ない。ひとたび精神疾患にかかると、偏見や差別から、誰にも言えず、社会との接点が途切れてしまうケースも多い。そこで、専門家と、専門家じゃない人の、ちょうど真ん中にいる☆ヘルパーさん☆の出番なのです。
 ヘルパーとはどんな存在か? とってもいい言葉を紹介します。

「保健師さんは医療を背負ってくる。ワーカーさんは福祉を背負ってくる。でも、ヘルパーさんはね、社会の風を運んできてくれるからありがたいです」(三田優子、平直子、岡伊織編著『心にとどくホームヘルプ』2004年、全国精神障害者家族会連合会発行)

 こうして講座を受講されているみなさんが、精神疾患、精神保健福祉のサービスや制度、精神障害者や家族の置かれた現状に理解を深め、専門性を磨くことが大事なのは、言うまでもありません。でも、精神障害者はなかなか「普通の人」に出会う機会がない。そして、精神障害者が専門性のある支援者だけに囲まれて生きるのではなく、普通の人と普通におしゃべりし、近所付き合いしてこそ、本当の意味で「地域で生きる」ことではないでしょうか。そして、ヘルパーとは、精神障害者にとって、最初の「普通の人」、社会への窓口でもあります。みなさんが、専門性を磨きつつも、あんまり難しく考えすぎず、あくまで「普通の人」の感覚を大切に、気楽に、自然な笑顔で、精神障害者家庭のドアを開け、ついでにカーテンも窓も開け、いい感じの「風」を吹き込んでくれることを願ってやみません。

■7■盛岡ハートネットのご案内

 ヘルパーの仕事の中でも、とりわけ精神障害者ホームヘルプに関心を持っている方、あるいは、この機にもっと精神障害に理解を深めたいと感じた方。私たちは、精神障害者と家族と関係者と市民のネットワーク「盛岡ハートネット」という集まりをやっています。2カ月に1回のペースで、盛岡市内各地を会場に、保健師、精神科医、PSWらを講師に勉強会や、おしゃべり交流会をしています。誰が参加してもOKです。次回(第9回)例会は3月25日午後1時半から、プラザおでって第1・2会議室を会場に「カウンセリング」をテーマに開催します。よかったら、気軽に顔出してくださいね。例えば、当事者にとってどんなホームヘルプが望ましいのか、いろんな人から話が聞けると思いますよ。

■付■添付資料紹介

「盛岡ハートネット」リーフレット

※最後のページには私の携帯番号が書いてます。質問等あれば、気軽に電話ください。

連載「共生社会へ」
 ①「相談支援専門員」(家庭欄、2007年4月)
 ⑤「ホームヘルプ」(同、2007年8月)
 ⑥「当事者が主役」(同、2007年9月)
 ⑪「家庭訪問」(同、2008年2月)
「ホームヘルプ浸透急務」(岩手日報社会面、2002年5月)

※精神障害者とその家族にとって、最も身近で便りになる相談相手は保健師です。また、自立支援法によって相談支援専門員も制度化されました。こうした専門家と連携することは極めて重要。その参考となる新聞記事を添付しました。ヘルパー独りで解決困難な当事者や家族の悩みを抱え込んでしまってはいけません。その悩みにきちんと対応してくれる専門家を、必ず見付け、連携して解決に向かってください。

というわけで、10日、同じくハートネット事務局の阿部稲子さんと一緒に、ヘルパー研修でしゃべってきます。(黒)
by open-to-love | 2009-03-08 21:02 | ヘルパー研修講義 | Trackback | Comments(1)