精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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カテゴリ:DV(IPV)( 14 )

東京自治研究センターDV研究会編『笑顔を取り戻した女たち—マイノリティー女性たちのDV被害-在日外国人・部落・障害』(パド・ウィメンズ・オフィス、2007年6月)

第2章 DV調査の方法と課題

■DV調査の方法

■DV被害の実態と求められる支援、課題について

■マイノリティー女性に関する研究基礎調査と分析(参考資料)

■提言

 最後に、今後求められる支援のあり方、課題とはどのようなものかを考察し、提言としたい。
1 マイノリティー女性の生活実態や特性などに合わせたDV関連情報の周知のあり方の具体的検討と実施
2 マイノリティー女性の歴史的背景や文化などに敏感であり、また当事者とともに行動、権利擁護を行う等のソーシャルワーク的視点、力量をもつDV当事者支援、専門家養成
3 マイノリティーDV当事者対応のあり方について研修の実施
  外国籍女性への暴力に関しての厚生労働省の取り組み状況は、移住労働者と連帯する全国ネットワーク(移住連)による省庁交渉での回答を参照されたい。

4 国および基礎的自治体レベルでのマイノリティー女性も含めたDV被害実態調査の実施
5 国および基礎的自治体レベルでのDV施策の整備拡充・男女平等施策実施計画において、「当事者参画」を制度化すること
6 安心して自分の暴力被害や自身の考え、気持ちを語り、必要な情報を共有できる場の創出およびそれに対する行政の財政支援策の確立・拡充
7 差別体験をもつDV当事者女性、性暴力被害女性支援への精神的ケアの支援のあり方の再検討、調査実施。その結果の施策への反映。(注:石井朝子主任研究者『家庭内暴力被害者の自立とその支援に関する研究』平成16年度厚生労働研究(子ども家庭総合研究事業)報告書 2005年3月、宮地尚子『トラウマの医療人類学』みすず書房、2005年に詳しい)
8 マイノリティー社会に対する差別状況、格差是正のための取り組みの整備・推進
9 マイノリティー社会内部におけるDVを容認するDV認識を問い直し、克服するための継続的な取り組みの実施
10 行政と多様な当事者支援に精通した民間団体、専門家との情報交換や連携による事例の蓄積および検討、支援方法についての知識の蓄積と共有化体制の整備
11 国レベル、基礎的自治体レベルでのDV施策実施状況を継続的にチェックし、当事者の実態に即した施策改善を求める取り組みの実施

その他の課題として
・「緊急一時保護につながらないマイノリティーの当事者の実態把握」、「緊急一時保護以降の当事者の状況」についての事例検討の積み重ね、調査の実施および施策への反映
・DV被害当事者がたらいまわしにされることを防ぐための行政におけるDV当事者支援の対応窓口の一元化の整備・促進
・地域格差の是正に向けての具体的な取り組みの重要性
 DV防止法後も依然として地域によっってDV当事者支援の内容と質に関するばらつきが存在する。そしてDV当事者支援の取り組みには、その地域ごとの「特殊性」「地域性」が大きな影響を及ぼしている。例えばDV当事者支援には区、市、県などを越えた「広域制度利用、広域支援態勢」が不可欠である。それが特に沖縄地域など離党地域であれば、緊急避難、広域利用等についてはさらに困難性が高まることが容易に推察される。大都市以外の地域での実効性のあるDV当事者支援のあり方についての検討も急務である。
・全国各地の先駆的なDV支援施策を実施自治体の取り組み内容の検証と情報の共有化の推進
・一時保護後に利用できる中間施設の増設を含む、生活再建のための具体的施策の拡充
by open-to-love | 2008-11-24 21:43 | DV(IPV) | Trackback | Comments(0)
平成20年度岩手県男女共同参画センター主催
「DV被害者支援シンポジウム−外国人・障がい者支援について」

DV防止法は国籍、障がいの有無を問わず被害者の人権を尊重し、安全確保に配慮することを謳っています。岩手県の現状、課題を話し合う初のシンポジウムに是非ご参加ください。

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日 時  2008年11月25日(火)10:30〜15:30(開場10:00) 
会 場  いわて県民情報交流センター(アイーナ)8階804会議室
報告・シンポジウム(詳細日程裏面)
対 象  ・国際交流活動、外国人支援活動をされている方
・障がい福祉活動、障がい者支援をされている方
・男女共同参画に関する行政担当者
・催しに関心のある県民一般 
定 員  100名
参加費  無料 
資料代  300円  
託児費  500円(別途昼食代250円)対象は1歳程度から就学前の幼児 
主 催   岩手県男女共同参画センター 
共 催   財団法人岩手県国際交流協会、社会福祉法人岩手県社会福祉協議会  
                               
申込方法 10月20日(月)10時より電話、メール、FAXで先着順受け付けます。 
       名前 性別 年代 住所電話番号所属・勤務先をお知らせください。
       託児申込み締切日 11月18日(火)

申込み・問い合わせ先   
岩手県男女共同参画センター 〒020-0045 岩手県盛岡市盛岡駅前西通1丁目7−10
いわて県民情報交流センター(アイーナ)6階 
電話(019)606-1761 FAX(019)606-1765 E-mail: danjo@aiina.jp   
開館時間(月・水・木 9:00〜19:30 火・金20:00 土・日17:30まで)

チラシpdf有り http://www.aiina.jp/danjo/index.html
by open-to-love | 2008-10-31 08:21 | DV(IPV) | Trackback | Comments(0)

障害をもつ女性のDV被害

東京自治研究センターDV研究会編『笑顔を取り戻した女たち—マイノリティー女性たちのDV被害-在日外国人・部落・障害』(パド・ウィメンズ・オフィス、2007年6月)

第1章 インタビューからみえる「必要とされる支援」

3 障害をもつ女性

中村優子さん(仮名)
(40歳代。視覚障害。呼吸器障害。難病認定を受け医療費の補助を受けている。結婚から10年後、障害をもっていない夫と離婚。両親と独身の弟が1人いる。8歳の子どもは元夫のところにいる。現在は在宅で仕事をしながら両親と同居している)

もう結婚にしばられないで、
個人の幸せのほうに導いてほしい。
私は、離婚してほんと元気になった。

難病の症状

 20代後半で発症。主な障害部位は呼吸器だが、日常生活に支障はない。ただし、障害は症状が安定しない事が多く、また、視覚に症状がでてくることもある。優子さんの場合は発症以来、目の網膜炎は慢性状態とのこと。放っておくと、緑内障から最悪失明という状態になる。今の視力は、眼鏡だと1・0ぐらい出ているが、視野の状態が薄暗いところや、逆に明るすぎると辛くなり、光の加減、環境によっては非常に悪くなるときがある。視力はまだあるが、視界にもやがかかり、色盲の症状が出てきて見えずらくなってきている。明暗が分かりづらいため、夜の行動が非常に怖い。肺の方は、特にどこが悪い状態ではないが、この病気がある限り全体的にかなり気をつけて管理しなければならない。炎症が慢性状態になっていれば、呼吸器や肺、心臓に影響がでないとも限らない。成人病から悪化することもある。表面上、すごく元気に見えるため難病にかかっているといっても、病名もあまり知られておらず、まわりの人にあまり本気で考えてもらえないということはある。一見してわかる障害と違うところがつらい。

結婚生活

 専門学校を卒業後、半年ほどしてから、正職員で雑誌のデータベースをつくる会社に入り9年間働く。夫と30歳の時に見合いで出会い、交際を経て結婚。結婚と同時に退職。夫は結婚当初の仕事から何回か転職し、資格を取得した後、独立開業した。優子さんは夫の仕事を手伝うことになった。経理も行っていたため、基本的に生活費についての制限は受けなかった。ただ使い道についてのチェックはとても厳しかった。
 夫は「女の人は男の言うことを聞くもの」というタイプ。姑からも「嫁が夫をしっかり監督して、健康に気をつけてあげて」と言われたが、優子さんへの体調への配慮は感じることはなかった。

暴力

 結婚前から暴力はあった。失敗したことについて、1時間2時間は当り前、3〜4時間延々と説教された。大声でどなりつけるということもあった。
 今考えればそれが暴力だったとわかるが、当時は「ちょっと怒りっぽいかな」と思うくらいだった。意外な一面を見た気はしたが、よっぽど虫の居所が悪かったのだろう程度に思っていた。優子さんの実父もアルコールが入ると暴れたので暴力に対する耐性があった。大声を出されても「ああ、この人もこういう面があるのか」と、割と軽く流してしまえた。夫の実家も、アルコールを飲んだ父親が子どもの前で母親に暴力をふるうことが普通に行われていた家庭だった。その影響で、夫は自分がふるう暴力についてもたいしたことではないと考えていただろうと優子さんは推測する。
 毎日、暴言と叱責の連続だった。たとえば、電話の受け答えが少しまずかったということが、夫のなかでは殺人罪と同じくらいの罪の重さで、自分の客と連絡がとれないことを、とても嫌がった。にもかかわらず、携帯電話などを持つことも嫌がり、電話のために「いつも留守番をしていろ」と言われていた。
 直接的な身体的暴力はあまりなかったが、直接殴らなくても「俺がね、殴ったら相手は死んじゃうよ」などと平気で言った。夫は、格闘技の経験があり、トレーニングで体を鍛えていて体格もよかった。その体で優子さんが怪我をしない程度に胸ぐらを掴んだり小突いてくる。「そうしなきゃお前は治らない」みたいなことを言いながら、頭からコップの水をかけたりもした。テーブルの下から足のすねを蹴られたり、小さい暴力は多々あった。

 ………

外部への相談

 夫はうつ病を持ち、精神的に不安定だったので服薬していた。夫の薬を電車に乗ってわざわざ取りにいかされていた。そのうち、同じ病院で優子さん自身も受診するようになった。
 夫の執拗な叱責について初めて話をしたとき、医者は話を聞き問題を整理してくれた。「もう離れたほうがいい」と言われたが、夫との話し合いをどのようにしたら安全に進められるのか、それが本当にできるのかがわからなかったから、具体的に行動できなかった。その病院には1、2カ月に1回程度、3年間ぐらい自分の都合に合わせて通た。
 女性センターも2回ほど利用した。相談員はよく話を聞いてきれて「もう、線をきっぱりひきなさい」「仕事の手伝いなんかいい」などと言ってくれた。でも、夫の仕事は忙しくなる一方で、とてもそんなことを言い出せる雰囲気ではなかった。収入は少なくなく、その貯蓄でしばらく休んで計画を練り直すこともできたが、まず夫に提案ができなかった。当時、日本でもDVが大きく取り上げられてきた頃で、優子さん自身もDVについて以前の仕事の関連で海外での取り組みや支援の状況などわりに詳しく知っていた。だから、女性センターなら当然、優子さんの言ったことに対して適切な答えを出してくれると思っていた。しかし、「相手から離れなさい」とアドバイスしてくれても、相手を説得してくれるとか具体的に介入してくれそうなことはなかった。「それははっきり暴力です」とも言われなかった。具体的なアドバイスは1つもなく、結局「私が努力をしなけりゃいけないの」としか思えなかった。答えが出なかったと落胆した。問題の整理にはなったが、具体的な行動には至らなかった。
 友人とは結婚してから縁がきれていた。夫から友人と会うのを直接妨害されるようなことはなかったが、言い出しづらい雰囲気だった。友人に会いに出かけると夫はすごく不機嫌になった。帰宅した後、必ず嫌味を言われるので、だんだん、遠慮して年賀状だけになった。疎遠な状況の友だちとは暴力などの深刻な話はできなかった。
 家族には、離婚するという話になって、一度電話をした。それまでは忙しいが問題はないと暴力については一切話をしていなかった。父親からは、私が仕事をもっているから、相手がやっかむんだろう、お前はやりすぎじゃないかと言われたことはショックだった。実家に帰ってからも父親からは同じことをずっと言われ、加えて離婚原因を説明しても、近所の目を気にしたり、働いていないことを責めてくるのは、夫と同じだと感じた。その結果、精神的に落ち着けず、毎日の睡眠時間は4時間程度という状態が続いている。

家出から離婚まで

 最後の家出のきっかけは、いつものように、夫から駅に迎えに来いと命令されて、時間通りに駅にいなかったことに対して、車の中、家の中,寝室と計6時間にわたり叱責されたことだった。そのときも体調が悪かった優子さんは、長時間の叱責でだんだんと精神的に追い詰められ「ここまでやられて生きている意味がない、死にたい」という気持ちで一杯になっていた。夫は疲れてベッドに転がって寝てしまっていた。子どももそこにいた。トイレに行ってくると言い、1階に降りたあと、そのまま「消えちゃおう
」と思った。かばんに入っていた財布と、自分名義の預金通帳と免許証と最低限の身の回りのものだけ持って家を飛び出した。子どもを置いておくのは心残りだったが、一緒にいたら道づれになると思い置いていった。結局、死にきれずにあちこち転々としたあと実家に帰った。
 実家に戻って2、3週間して、夫と一度話し合いをした。娘には悪いことをしたと思っていたので、一言会って謝りたかった。戻る気もなかったから荷物も返してほしかった。でも、「勝手に飛び出して、帰ってきて迷惑かけた」と夫はまったく聞き入れてくれなかった。
 離婚調停は、顔をあわせずに調停員を通して一度だけ話して、それから直接顔をあわせた日に離婚を成立させた。優子さんが精神的に耐えられなくなってしまったからだった。調停員にも「今話を聞ける状態じゃないから、とりあえず離婚して、子どものことは後でも親権を変えられるから」と説得された。自分が受けた暴力については、まったく認められず、優子さんの家出が離婚の原因にされてしまった。解決金として200万円もらうが、財産分与もなければ慰謝料もなけえれば、もちろん子どもとのコンタクトも約束できないままの離婚となった。
 離婚後、子どもとの面会をきちんと決めるよう提案をしても返事はなく、自主的に養育費を送っても連絡はない。子どもの誕生日やクリスマスにプレゼントを買っても全く無視された。お正月にお年玉代わりにお洋服を贈ったら、受け取り拒否で戻ってきた。
 荷物もなかなか返してもらえなかった。、優子さんの結婚当時からの荷物などはすべて夫の家にあった。夫は優子さんが実家に住民票を移すときや離婚するときの必要書類も返してくれなかった。転居手続き、病院の転院手続きに必要な保険証もなかった。再発行できるものは全部再発行した。印鑑と免許証だけは持っていたので、身分証明はそれでなんとかなった。何度も手紙で催促してなんとか保険証だけは送ってきたが、3カ月ある保険証の提示期限ぎりぎりだった。それまでは違う病院に通院できないため、交通費3000円くらいかけて、2時間をかけて以前通院していた病院へ通院していくしかなかった。

公的相談機関に期待すること:DV当事者に必要な支援について

 優子さんは、最後の家出をする前に、2回公的機関に相談をした。しかし、具体的なアドバイスが得られなかったことから、実際に行動に移すことができなかったと言っている。
 「そおこんおセンターで解決がつかない状態だったら、もう少し積極的に、ほかの専門機関を紹介するとか、『それは暴力です』ってはっきり言ってくれたり、『逃げた方がいいです』『離れた方がいい、別居した方がいい』『お子さん連れてこっちに来なさい』とか、そういう、危機感は、私にもなかったけど、あちらにもなかった。まさか私が自殺を考えて飛び出す状態になるとは思わなかったし、予想もつかなかったんでしょう。起こってみてからはじめてわかった。そういう予測も、可能性としては、センターの方には、相談員の方にはもっていてほしかった。加害者と同居しているとどういう状態になるかを、もっと危機感をもって聞いてほしかった」と優子さんは言う。
 実家に帰ってきて、インターネットでDVサポート機関とか掲示板を探しているうちに「あ、これがDVだったのか」と気づき、腑に落ちたものがあった。実家がある地域の区役所に相談に行った時には、弁護士、調停など具体的に方法を教えてくれたので,行動を起こすことができた。その対応の差は大きかった。前回と今回では2、3年のギャップがあって、その間に認識が変わってきたのかもしれない。実家に帰ってきてからの方が、サポートがしっかりしていて、優子さんには、自分の方向性についてよく伝わったという。
 初めてセンターで話を聞いてもらえたとき、ガス抜きとしてはよかったが、具体的な方向性がまったく見えなかったのがつらかった。一方的にどちらかが悪いのか、調整でなんとかなるものなのかならないのか。夫が言うように、一方的に優子さんが悪いということはないと言ってもらえたのは気持ちが楽になったが、問題解決について具体的に何をしたらよういのか、アドバイスが欲しかった。事務の手伝いをやめて生活のなかで距離をとれと言われても、現実的にはできない。それならば、子どもを連れて、実家に帰って1カ月ぐらい静養したらどうですかなど。
 「できるだけ事例を集めて、この時は、こういう可能性があると。被害者がどういう行動パターンを起こすか、加害者がそのとき、どういうふうに加害がエスカレートするのかとか、パターンをできるだけ集めてほしい。それをちゃんと認識して、話のなかから、この人は、今後どういうふうな経過をたどるのかということを予想つけて、そこに至る前に、予防してほしい。被害に遭っていると思われる女性に、休養を与えてくれる、そういうアドバイスを積極的にしてほしい。私もそうだったが、当事者の女性は静養の必要性を実感していないので。積極的に休みなさいと伝えてほしい。たとえばうつ病はこれ以上働きつづけたらあぶない、休みなさいって上司がいうように。恋人とか、奥さん、DVと思われる相談があったら、そういうふうに声かけを積極的にしてほしい。それで、2、3カ月、間をおいて夫婦関係がおかしくなるようだったら、だめになる可能性が高い。もうあまり結婚にしばられないで、個人の幸せのほうに導いてほしい。私自身は離婚してほんとに元気になった」と優子さんは語った。

現在

………
by open-to-love | 2008-10-23 20:25 | DV(IPV) | Trackback | Comments(0)

外国籍女性とDV…下

林千代編著『女性福祉とは何か』
(ミネルヴァ書房、2004年)

第12章 日本における外国籍女性と子どもの問題

■第1節〜3節=上に収録

■第4節 外国籍女性をめぐるDV、人身売買問題

 次にHELPでの実践から、日本に滞在する外国籍女性の抱える問題について、DVと人身売買に焦点を当てて記述したい。

□外国籍女性のDV問題

 DVとは主に男性から女性への暴力、夫、パートナーなど親密な関係で起こる暴力のことを指す。具体的なDVの内容としては身体的、精神的、経済的、性的、子どもを使った暴力などであり、一人の当事者女性は上記の暴力を複数経験していることが多い。外国籍女性がDV被害を受けた場合、日本人当事者以上に過酷な状況に置かれている。受けている暴力の内容は日本人女性の当事者と同様の身体的、精神的、経済的、性的、子どもを使った暴力などである。しかし外国籍女性の場合、女性の母国文化の否定、さらに日本で安全に生活するためのビザ取得等の権限を加害男性が完全にコントロールしている点など、暴力によって引き起こされる外国籍女性への質的影響力、被害の大きさがはるかに厳しい点が指摘できる。例えば日本人男性と法律婚をし、生活費をすべて自ら働き生活を支え、子どもも養育している外国籍女性であっても、夫が意図的にビザの手続きに協力せず、その結果オーバーステイ状態になっている場合も多い。このような場合でも、公的制度、施設の利用が制限される実態がある。またビザの申請、延長手続きには日本人夫の協力が不可欠であるが、加害男性は意図的に外国籍当事者女性が不安定な身分のオーバーステイ状態のままにさせることが多く、その被害、不利益は甚大である。ビザの申請、更新手続きをしてほしいと訴えるたびにひどい暴力をふるわれるため、外国籍女性(またその子ども)は本人の意思ではなくオーバーステイ状態となっていく現実がある。さらに日本人男性と法律婚をし、配偶者ビザをもつ場合でも、本人のパスポート(そして子どものパスポート)、外国人登録証、母国でのIDカードなど重要な身分証明書を夫が破棄、また夫に奪われている場合が多く、外国籍当事者女性が自力で自らの権利回復をすることが不可能な状態に置かれており、それが適切な支援につながることをより一層困難にしている。また配偶者ビザを取得していてもDVが原因で日本人夫の元を離れ避難している間にビザの更新期間を過ぎ、オーバーステイになることも多い。
 このような事情に加え、母国語での相談、支援の受け皿や情報提供の絶対的不足、都市部と地方の格差が大きく影響し、外国籍当事者女性は、自分が受けているDV解決に向けての支援場所があることを知らずに長期間ひどい暴力に耐えている実態がある。つまりDVという生命の危険を伴う複合的な暴力環境のなかで、外国籍、女性であることからくる複合的な差別、抱える問題の深刻化が見られ、日本人当事者女性以上に過酷な状況におかれている。
 また外国籍女性へのDV被害にとどまらず、その子どもに対しても不利益が非常に大きいことも指摘できる。子ども自身も父親からの暴力被害を受けていることも多い。また出生届が出されていない子どもや、学齢児でも一度も予防接種を受けていない子どもなど、子どもの基本的権利が守られない環境で過ごしてきた子どもたちも来所する。日本人の父親から母親の母国を否定、蔑視する話をされている場合も多い。外国籍当事者女性の支援には、本人と子どものビザ、パスポート、子どもの国籍の手続きなど、日本人当事者女性と同様の支援のスタートラインに立つまでの法的支援、生活再建支援と心理的支援、さらに子どもの教育、子ども自身が日本と母親の母国文化を受け継ぐダブルであることを肯定的にとらえるための諸支援等を含む、長期的かつ総合的な支援態勢が必要となる。
 現行DV防止法では国籍を問わずにDV当事者への対応を行う事となっているが、実際には運用面で外国籍女性に制限がつく。

□外国籍女性の人身売買問題

 次に外国籍女性の人身売買の現状についてみてみたい。人身売買とは国際的な犯罪組織が介在し、観光ビザや偽造パスポートを利用して外国籍女性を日本の性産業に送り込む構造があり、関係業者が多額の利益を得るシステムとなっている。またフィリピンなど日本政府と契約を結んでいる国に対する「興行ビザ」という特殊な制度がある。送り出し国の外貨獲得政策として推奨され、ダンサーや歌手という名目で女性たちは募集され、実際には日本の性産業に送り込まれる場合が多い。来日後、本人のパスポートや重要書類は雇い主に取り上げられ、その上雇い主からのレイプ、身体的暴力、監禁、強制売春、帰国日までの給料不払いなど、さまざまな人権侵害の温床となっている。しかし興行ビザの場合、研修生と同様に労働者として認められないため、上記のような被害を受けても労働基準法が適応されない。悪質で苛酷な労働環境のため、外国籍女性が契約期間完了前に、雇用主からパスポートや未払い分の給料などを取り返す間もなく逃げ、そのままオーバーステイとなるケースが多い。このような被害を受けた場合でも、公的支援の保護は受けられない。避難している経過のなかで日本人男性と出会い、上述のようなDV状況に移行することも少なくない。このように人身売買とDVは根底でつながっている問題である。
 日本への外国籍女性の人身売買が行われるようになった背景として、1970年代以降の東南アジアにおける日本人男性の「買春観光」の存在、その後に韓国、フィリピン、台湾など日本人男性の買春が行われた国からの抗議行動があった。その後はアジアから外国人女性を日本の性産業へ連れて来るという形に大きくシフトすることとなった。日本のアジアへの経済進出の動きとアジアからの女性の人身売買、日本の性産業への集中が特徴である。国際化と女性福祉問題の根底には「売買春」の問題が根深く存在する。
 また日本の農村部への後継ぎ対策、嫁不足解消のために1980年代半ばから自治体行政主導の「むらの国際化」奨励策として外国籍女性との見合い結婚が導入された。その結果、外国籍女性に「嫁」役割を強要し、母国文化を否定、日本人への同化の強要などの実態が大きく社会問題として取り上げられた。現地での見合い、結婚諸経費がパックされ、多額の代金を見合い業者に支払う仕組みが確立した。現在はインターネットを通じた民間国際結婚請負業者が急増し、対象とする女性の国籍を拡大しつつ進行している。これも形を変えた人身売買の一形態といえよう。
 1990年代に入り、下館事件に代表されるような人身売買による苛酷な強制売春の生活から抜け出すために引き起こされた殺人事件が頻発する。しかしその後も人身売買は継続し、国籍もアジアにとどまらずコロンビア、ロシアなど多国籍化が進んでいる。
 2003年7月、人身売買受け入れ業者への摘発が行われ、外国籍女性が入国管理法違反、売春防止法違反者として摘発、逮捕されている。人身売買被害の外国籍女性の場合、極めて苛酷な人権侵害を受けているにもかかわらず、ほかの回復がなされない実態がある。公的統計には「入国管理法違反」、「売春防止法違反者」としての数字が公表されるのみである。

■第5節 外国籍女性支援と女性福祉の課題

 既述のように、これまで公的支援が受けられない外国籍女性と子どもの支援を民間外国籍支援団体が先駆的に行い、その苛酷な実態を公表し当事者の外国籍女性とともに権利回復を求めてきた。DVに関しては、2001年にDV防止法が施行され、法の対象者は国籍を問わないとされた。しかし現行法では、外国籍当事者女性がオーバーステイの場合、制度利用に制約がある。このように外国籍女性も含めた公的実態調査も行われていない現状がある。
 特に被害者がオーバーステイ外国籍女性の場合、入国管理局への通報義務の有無がその後の支援を大きく左右する。この状況を改善するために、適切な法運用と外国籍女性など特別な配慮を必要とする外国籍当事者が中心となり要請活動を行ってきた成果が徐々に現れてきている。その結果、外国籍当事者女性の被害実態への理解が進み、法務省は「通報義務よりも被害者の保護を優先するよう」関係省庁へ通知したことの意義は非常に大きい。さらに改正DV防止法のなかに外国籍女性など特別な配慮を必要とする当事者女性の人権を守るという項目が盛り込まれたことも画期的な成果であると評価できる。
 また外国籍女性はいわゆるニューカマーだけではない。鄭が指摘するように在日コリアン女性などは他の外国籍女性とは異なった日本独自の社会背景をもち、特別な配慮が不可欠である。
 先述したように、日本における外国籍女性について実態把握できるような公的統計、調査の項目配慮はなく、「見えない存在」として放置されている。2003年7月に行われた国連女性差別撤廃条約審査会において、日本に在住する外国人女性への差別を改善する施策を講じてこなかった日本政府の対応について厳しい批判がなされた。国際的にも滞日外国籍女性がそれぞれに抱える問題を可視化し実態を把握し、国レベルでの適切な施策決定、法運用、支援態勢を作り出すことが早急に求められている。DVは女性に対する重大な人権侵害、犯罪であり、国籍、年齢を問わず発生する問題であり、国が取り組むべき最重要課題とされているが、当事者個別の背景に考慮した実態の把握がないため、現行の施策には実態がまったく反映されていない。この現状を改善するために、今後は当事者参画による実態調査を行い、国、基礎的自治体、民間レベルでの総合的な支援態勢の確立と連携強化が急務である。

 本章では日本に存在する外国籍女性をめぐる女性福祉問題についての実態把握に努めた。その背景には外国籍女性と子どもの福祉と人権の確保に向けて、行政に先行して活発に支援活動を行ってきた民間外国籍支援団体の地道な取り組みがあった。それによって外国籍市民の権利向上に寄与してきたのである。
 今後の解決が必要とされる重要課題として、①公的施設(婦人相談所や婦人保護施設、母子生活支援施設等)の不足と制度運用面の制限の問題、支援のあり方についての再検討の必要、②生命の危険性の高い緊急度の高い人身売買被害外国籍女性やDVが原因でオーバーステイ状態になった外国籍女性とその子どもの支援態勢の確立、③日本に滞在する外国籍女性の実態調査と、それに基づく支援態勢確立の必要性、④女性差別撤廃条約委員会勧告から日本の女性・社会福祉現場、問題を再検討することの重要性、を指摘しておきたい。
 女性福祉の分野は、産む性であるがゆえに現れてくる女性差別、社会福祉問題を重要視する。日本人女性以上に複合的な差別のなかで生活している外国人女性の存在と実態、そこに日本社会、法制度の抱える矛盾が極めて先鋭的に現れている。国際化と女性福祉問題についての正確な理解と改善への積極的な取り組みが求められる。
 このような視点に立ち、女性・社会福祉関連施設の外国籍女性の施設利用率などの実態調査も必須である。問題を抱える外国籍女性が支援に接近することの難しさ、その背景にあるものは何かと再検討すること、また社会福祉の施策、実践の現場全般において、対日本人とは異なった外国籍女性への適切な支援態勢確立の重要性、さらにそれをどのように具現化できるかが課題として問われている。それには多国籍、それぞれの言語、民族性・文化・価値観等に配慮した「異文化間ソーシャルワーク」の視点に基づく外国人支援の民間団体の先駆的な取り組みは、貴重な経験として活用できるのではないか。
 また社会福祉以外の分野からも多くを学ぶことが可能であろう。妊娠・出産の場面において顕著な、外国籍女性の飛び込み出産、未熟児出産数の多さ、などは母子保健の重要なテーマとされている。外国籍女性と子どもの母子保健分野との実践面での連携、研究の成果の共有化も非常に有効であろう。
 そして女性福祉の国際化の問題は国内だけにとどまらない。1990年代初頭には日本人男性とフィリピン人女性の間に産まれた子どもの福祉問題、母国に帰国後も精神的なケアを必要とするタイ人女性の現状が現地支援団体から報告されている。日本での問題解決を積み残したまま母国へ帰国した外国籍女性と子どもたちの福祉問題も今後の重要課題である。外国籍女性の母国の行政、民間関係機関と連携しながら支援を継続する視点が必要とされている。
 女性福祉問題解決のための取り組みに、国際社会福祉の視点と実践は必要不可欠なのである。
by open-to-love | 2008-10-13 22:43 | DV(IPV) | Trackback | Comments(0)

外国籍女性とDV…上

林千代編著『女性福祉とは何か』
(ミネルヴァ書房、2004年)

第12章 日本における外国籍女性と子どもの問題

 21世紀に入り、来日外国人の入国者数は2002年には577万人を超え過去最高を記録した。2002年末現在における外国人登録者数も過去最高の185万人1758人、日本の総人口の1.45%を占めるにいたっている。これは1984年12月末の84万885人(総人口の0.7%)と比較すると約2倍以上の増加ぶりである。特に1992年度末時点の外国人登録者数(128万1644人)と比較して、その数は10年後の2002年末には44.5%増へと急激に増加していることが大きな特徴であり、1990年代の滞日外国人の増加傾向が著しい。また2001年1月1日現在、オーバーステイの外国人は22万人を超えると推定されている。
 日本在住外国人の多国籍化が進むなか、少しでも日本で安定した生活を営むことを希望し、オーバーステイ状態にある外国人登録を行うケースが増えている。その数は2002年度末時点で1万7515人の登録者数となっている。これはオーバーステイ者全体の約1割を占める数字であり、1990年と比較し約7倍の急増ぶりである。
 このように1990年以降から日本における「外国人の定住化」が急速に進んでいる背景として、国際結婚の増加、外国籍の親をもつ子どもの出生数の増加と教育問題など、滞日外国人の生活実態のさまざまな変化があげられる。なかでも外国籍女性に対する夫・パートナーからの暴力(ドメスティック・バイオレンス。以下DVと略す)、日本で生まれた無国籍児の問題などが指摘できよう。外国籍女性とその子どもたちの実態は、緊急に支援を必要とする重大な人権問題、女性福祉の問題を含んでいる。
 また1990年代半ばに大きな社会問題として取り上げられた、外国籍女性の人身売買問題が,現在も依然として続いていることが民間支援団体の報告から浮かび上がっている。このような状況に、国連女子差別撤廃委員会より日本政府に対して改善勧告が出されるなど、国際レベルでの早急な問題解決が求められている。
 そこで本章では、筆者が以前ソーシャルワーカーとしてかかわった多国籍の女性を支援する民間シェルターでの実践経験を軸として、日本に在住する外国籍女性の抱える大きな問題としてDVと人身売買の問題を取り上げ、その実態と日本が抱える女性福祉の問題点について記述したい。その上で女性福祉問題解決に向けて民間団体の果たしてきた役割と実態、外国籍女性支援のあり方、今後の課題について検討する。

■第1節 公的統計からみた外国籍女性と子どもの現状

□滞日外国籍女性とは

 滞日外国籍女性とは、どのような女性をいうのだろうか。日本に滞在する外国籍女性といった場合、その実態から大きく分類すると①在日コリアンなどいわゆるオールドカマーと呼ばれる人々、②バブル期以降に来日したニューカマーと呼ばれる人々に分けられる。ニューカマーのなかに大きく分けて①「興行ビザ」によって来日するフィリピンをはじめとする外国籍女性、②「短期滞在」などのビザで来日し、その後「定住者」「日本人の配偶者等」の資格を取得し滞在する外国籍女性、③「短期滞在ビザ」などで入国するが、その実態は人身売買によって日本に連れて来られるコロンビア、タイなどの外国籍女性、④日系ブラジル人など日系人の在留資格をもつ外国籍女性、⑤留学、就学生、⑥研修生、⑦いわゆる欧米系外国籍女性、などが含まれる。その状況はこれらの滞日外国人女性それぞれの抱える社会的背景や日本で置かれている状況により著しく異なる。
 上記内容に加えて、現在の在留資格の有無や、日本国籍の子どもの有無によって、日本に滞在する外国籍女性の置かれている状況はさらに複雑になり、公的支援、社会福祉制度などの面でも大きな格差が生じている。そのため「外国籍女性」というひとくくりのとらえ方は実態を正確に反映しない。しかし公的統計には上記の個別の実態を把握する視点がないため、公表されている統計からはその実態を把握するのは非常に困難な状況にある。これらの制約を前提として、滞日外国籍女性の概況についてみてみたい。

□国際結婚の推移と新生児のなかの嫡出・非嫡出子の数

 まず「夫が日本人・妻が外国人」の国際結婚の推移はどうなっているだろうか。厚生労働省統計情報部編「平成14年人口動態調査」によると、上記国際結婚の件数は1980年には4386件、1985年には7738件、さらに5年後の1990年には2万件台に突入し10年前の約4・5倍の2万26件へと急増する。さらに増加傾向は続き、2001年には過去最高の3万件台、3万1972件を記録し、2002年には若干減少し2万7957件となっている。2002年度の国際結婚件数の中で「夫が日本人、妻が外国人」のカップルの割合は7割を超えており、日本における国際結婚の多くが、日本人男性と外国籍女性のカップルであることがわかる。
 次に国籍の内訳をみてみたい。1980年の「夫が日本人、妻が外国人」の国際結婚の上位国は韓国・朝鮮が2458件、中国の912件、米国178件、その他の国が838件となっている。フィリピン、タイ、英国、ブラジル、ペルーについての調査は1992件から始まり、それ以前は「その他の国」として分類されている。1992年時点にはフィリピンが5771件と一番多く、続いて韓国・朝鮮が5537件、中国4638件、タイ1585件、ブラジル645件、米国248件、ペルー138件と続く。10年後の2002年には中国が1万750件、フィリピン7630件、韓国・朝鮮5353件、タイ1536件、ブラジル284件、米国163件、ペルー126件と順位が変動している。韓国・朝鮮はその後1990年の8940件を最高として、減少傾向にある。2002年には5353件となっている。中国は2001年に1万3936件まで急増し、2002年には若干減少し1万750件となっている。
 2002年の「母が外国籍」の出生児数総数は1万1611人、上位は中国2656人、韓国・朝鮮2468人、ブラジル2607人、フィリピン972人、ペルー744人、タイ202人と続く。
 次に「新生児のなかの嫡出・非嫡出子の数」はどうであろうか。公的統計として非嫡出子の数も明記されるようになったのは1992年からであり、まだ10年ほどの新しい記録しか公表されていない。厚生労働省統計情報部編『日本における人口動態ー外国人を含む人口動態統計』によれば、1992年の日本人の嫡出子/非嫡出子の数(構成割合)は119万5251人(98.9%)/1万3738人(1.1%)、外国人の場合は8437人(91.0%)/839人(9.0%)であった。2001年には日本人115万293人(98.3%)/2万369人(1.7%)、外国人は9144人(77.2%)/2693人(22.8%)となっている。日本人と比較して外国籍の母から生まれた子どもの非嫡出子の数が圧倒的に多いこと、また1992年以降、非嫡出子の急増が注目される。
 その意味するところは、法的に保護を受けにくい子どもの増加が著しいということである。同時に公的支援から阻害されている外国籍女性とその子どもが多く存在することが推察される。

□離婚の現状

 次に離婚についてであるが、厚生労働省統計情報部編『平成14年人口動態調査』によると、「夫が日本人、妻が外国人」のカップルの離婚件数は1992年には6174件、内訳は韓国・朝鮮3591件、中国1163件、フィリピン988件、タイ171件、米国75件、ブラジル39件、ペルー9件となっている。その10年後の2002年には中国4629件、フィリピン3133件、韓国・朝鮮2745件、タイ699件、ブラジル91件、米国76件、ペルー45件と変化する。中国、フィリピン、タイ、ブラジル、ペルーの急増が目につく。
 在日コリアンの生活実態について、鄭暎恵は日本在住の韓国朝鮮籍者が本国韓国の平均より1.3倍結婚し、2.8倍離婚しているという分析を行い、その背景として「失業、倒産、ドメスティック・バイオレンス等々、社会構造から派生している離婚原因は、日本国籍者以上に大きな影響を及ぼしていることだろう」と指摘する。また鄭は一般には公表されていない厚生労働省に保管されている保管表を活用し、他の在日外国籍女性の非嫡出率の高さについて貴重な分析も行い、タイ籍母親から生まれる日本国籍をもたない子どもの8割以上、フィリピン籍母親から生まれる子どもの7割以上が非嫡出子という実態を指摘している。
 しかも上記の公表されている統計数は、届け出をしている外国籍女性とその子どもの件数である。届け出のない外国籍女性、その子どもたちの実態は公的統計には反映されておらず、実数はこれよりもはるかに多いと考えられる。それらの人々はビザを持つ外国籍女性と比較して、さらに厳しい社会的、経済的状況のなかで生活していると推測される。特に母親である外国籍女性がオーバーステイ状態である場合、またその子どもの父親が日本人男性であっても法律婚でない出生で日本人の父親から胎児認知をされていない場合、生まれた子どもは母親の国籍だけ、もしくは無国籍のままオーバーステイ状態になる場合もある。その場合、日本の公的施設、社会福祉制度を利用するのは非常に厳しい実態がある。

■第2節 公的施設における外国籍女性対応の現状

□公的施設における外国籍利用者への対応

 女性が緊急に保護を必要とする場合に利用できる施設は、婦人相談所(女性相談所)、婦人保護施設、母子生活支援施設(母子の場合)、宿泊所などがあげられる。なかでも中核的な役割を果たしてきたのが売春防止法を根拠法とする婦人相談所である。
 東京都においては1977年4月1日、「東京都婦人相談所センター条例」が施行され、センター利用の対象者を売春防止法以外の一般女性にまで枠を拡大することとなった。これにより義務教育終了前の児童を同伴する母子も同時に一事保護が開始された。
 さらに1988年7月より、緊急保護を必要とするオーバーステイの外国籍女性の保護を開始する。ただし、「入国管理局への通報、2週間の滞在、帰国前提」(1987年1月20日厚生省通知、『いわゆる「じゃぱゆきさん」の保護について』)の場合のみ利用可能、という制限がかけられることとなった。その後、1990年より後述するHELPへの補助金開始による委託受け入れを開始する。さらに1992年6月29日には「婦人保護事業の実施に係わる取り扱いについて」(厚生省生活課長通知第95号)により、婦人相談所の対象保護女子の範囲は未然防止の見地から「売春を行うおそれが当面ない者」にも拡大された。
 現在全国の婦人相談所は、2001年に施行された「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(以下DV防止法とする)」において配偶者暴力相談支援センターの機能も併せもつ中核施設として位置づけられ、DV被害をうけた当事者女性と同伴する子どもの緊急一時保護を行うとされた。

□婦人相談所における一事保護利用者数

 それでは実際に婦人相談所において一時保護された女性の件数はどのようになっているのだろうか。厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課作成の「婦人相談所において一時保護された女性の件数」統計によると、2000年度には3907件、うちDVを理由に利用するものは1873件で一時保護件数全体の48.0%を占めている。2001年度には4823件、DV理由が2680件、全体の55.5%となっている。2002年度には6261件、DV理由は3974件、全体の63.3%である。2002年度の一時保護件数のうち、婦人相談所以外の施設への緊急一時保護委託件数は1086件であるが、その委託先別の保護数は把握されていない。2003年3月1日現在、一時保護委託契約数は120、その内訳は母子生活支援施設(62)、民間団体(33)、婦人保護施設(15)、その他(10)となっている。このようにDV防止法施行後、DV当事者女性とその子どもの利用者数は年々増加傾向にある。
 DV被害を受けているのは日本人女性だけではない。次に、外国籍女性は実際どのくらい一時保護を利用できているのか見てみよう。2001年度の統計によれば全体で208件、一時保護全体に占める割合は4.3%であった。翌年度には321件、5.1%へと増加している。この一時保護数の中には後述する女性の家HELPなど民間シェルターへの委託件数も含まれている。上記利用者数のなかでDV理由の利用者内訳は把握されていない。それでは日本に在住する外国籍女性のDV被害者が存在すると想定されるであろうか。平成15年4月に発表された内閣府による『配偶者の暴力に関する調査』によれば、配偶者や恋人から身体的暴行、心理的強迫、性的強要のいずれかをこれまでに一度でも受けたことのある女性は19.1%との結果である。乱暴な推定ではあるが、2002年度における20歳以上の外国人登録をした女性の合計数、82万4421人で概算すると約16万人となる。つまり日本に滞在する外国籍女性の約16万人程度がDV被害を受けている可能性があると推定される。
 このように、全国で一時保護されている外国籍女性の実数と緊急支援を必要とする該当者推定数には大きな隔たりがある。その多くは、厳しい状況のなか適切な支援につながることなく潜在化しているものと推測できる。このため日本人以上に厳しい生活環境に置かれている滞日外国籍女性と子どもが、危機的状況のなかで支援を必要とし、緊急に避難を必要とする場合、利用できる最後の受け皿となるのが外国籍支援を行っている民間シェルターである。

■第3節 民間シェルターにおける外国籍女性支援

□女性の家HELPの活動

 女性の家HELPは1986年4月、当時のマスコミでも大きく報道されたアジアから人身売買によって連れてこられ、日本で売春を強要されるなどの深刻な人権侵害を受けた外国籍女性の増加を背景として設立された。いかに被害が甚大であっても公的支援が得られない上記外国籍女性に安全な休息場所と衣食住を確保し、必要経費を無償で提供し、安全に帰国、また必要な権利回復がなされることを支援活動の第一の目的としていた。HELPは個人、団体等からの寄付によって運営されているが、1990年4月から東京都から「外国人女性の宿泊所」として補助金が開始された。このように民間の先駆的な活動が公的政策のなかに正式に位置づけられたことは画期的な意味をもつものであった。
 利用者の条件は、女性であれば国籍、年齢、在留資格の有無、来所理由を問わず、利用希望者の「危険度」「緊急度」に応じて利用可能であることが最大の特徴である。設立から2003年度末までに日本人を含む3708人の女性と910人の子ども(男児のみ10歳までの年齢制限あり)が利用している。
 現在でも人身売買やDVなどが原因でオーバーステイ状態となり、日本の公的施設、社会福祉制度を利用できない外国籍女性とその子どもは無料で受け入れている。緊急一時保護施設であるため、滞在期間は原則2週間であるが、個々の実情に応じて延長が可能である。
 HELPの活動内容は、女性と子どもが精神的、肉体的に休息すること、またその後日本での滞在を希望する場合には日本での生活再建に向かうさまざまな諸支援を行う。人身売買により避難してきた場合、本人と母国の家族の安全が守られるよう配慮しながら帰国への諸支援、権利回復のための裁判支援等を行うことが主なものである。HELPスタッフも多国籍体制で利用者が母国語で相談が可能な態勢を取っているため、電話相談、緊急一時保護者の国籍はそれを反映している。スタッフが対応できない言語の利用者には適宜、通訳者を配置するよう心がけ、シェルター利用規則や生活案内も多言語で作成し、食事や利用者のための図書、ビデオ等の娯楽面も多国籍対応の支援を行っている。

□女性の家HELPの利用者数の推移と支援のあり方

 次にHELPの利用者数の推移をみてみたい。1986年から1997ン縁までは外国籍女性の利用が日本人女性を上回っていたが、1998年以降、日本人女性の利用が常に上回る形で推移している。DV被害を受けた日本人女性とその子どもや精神的問題を抱えた日本人利用者の増加、特に単身の中高齢日本人女性の増加、滞在の長期化がその背景として指摘できる。しかし避難を必要とする人身売買被害外国籍女性、オーバーステイ状態の外国籍女性とその子どもは定員を上回っても最優先で受け入れを行っている。2002年度の利用者統計をみてみると、。緊急一時保護利用者数は女性が152名、子ども72名の合計224名であった。日本人は85名で全体の56%、外国籍は11カ国、67名で全体の44%であった。国籍内訳はタイ人女性38名(子ども5名)、フィリピン人女性10名(子ども18名)、コロンビア人女性5名、韓国人女性4名と続く。来所理由は人身売買が58%、DVが31%、病気その他6%、ホームレス状態が4%、家族からの暴力が1%となっている。
 2002年度のHELP電話相談の内訳は日本人の他49カ国(無国籍、不明を除く)の外国人からの相談に応じた。電話相談総数は2540件、内訳は日本が1195件(47.6%)、フィリピン506件(20%)、タイ492件(19.6%)、中国64件(2.5%)、コロンビア26件(1%)と続き、フィリピン、タイ、中国で全体の40%を占める。相談内容(複数回答)は各種情報提供が25.1%、入国管理局、ビザ関連が20.9%、夫婦の問題が15.8%、家庭の問題10.5%、DVが10.4%である。
 最後に既存の公的施設と異なる、HELPにおける支援のあり方の特徴をまとめると以下のようになる。法的施策、支援態勢の不備による隙間に落ちた女性と子どもの受け皿となっており、日本社会、社会福祉制度等のひずみが凝縮し、顕在化している場所であるということである。さらに本筋の社会福祉制度からこぼれおちた女性を、再度主流の支援態勢に戻す、つなぎ直す役割も非常に重要である。
 さらに、「制度を利用できない利用者」を受け入れているため、新たな社会資源や制度利用・運用の道を切り開くための行政機関、国内外の関係諸機関との連携、またソーシャル・アクションが必要不可欠である。この経過のなかで外国籍女性支援についての知識や経験が豊富なことから、行政などからの支援要請に応じることが多く、多国籍対応(情報提供、通訳、翻訳、生活習慣、自国の食文化の尊重等)の重要性を認識し、支援を行っていることが特徴である。1990年より東京都から「外国籍女性の宿泊所」として補助金が出ているが、公的制度、機関を利用できない外国籍女性と子どもの支援活動を行うため、非常に厳しい運営状況にある。
by open-to-love | 2008-10-07 21:03 | DV(IPV) | Trackback | Comments(0)

精神科とDV

小西聖子著『ドメスティック・バイオレンス』(白水社、2001年)
第1章 ドメスティック・バイオレンスとは何か
第2章 ドメスティック・バイオレンスの施策
第3章 ドメスティック・バイオレンスの実態
第4章 なぜ逃げないのか
第5章 被害者と加害者の心理
 被害者の心理と症状
 被害を受けることの「意味」
■精神医学的症状■
■精神科とドメスティック・バイオレンス■
 加害者への介入
 加害者のタイプ
 被害の過小評価と否認
 ドメスティック・バイオレンスの多軸性
 同居していないパートナー間の暴力
 パートナーの対人関係
第6章 ドメスティック・バイオレンスへの対応

■精神医学的症状■

 強姦や暴力の被害を受けたあとに、PTSD(外傷後ストレス障害)が起ってくることがあるのは広く知られている。児童虐待やドメスティック・バイオレンスの被害のあとにも、PTSDが発症することがある。ただし長期にわたってくり返し被害が起こっている場合には、ふつうのPTSDの症状に加えて、慢性的な抑うつ症状、慢性的な解離症状、疼痛を含む多彩な身体症状、対人関係の不調、自殺念慮や自殺企図、不安定な感情、物質乱用などが症状としてあげられる。自己評価は極端に低下する。
 DSM-Ⅳ(アメリカ精神医学会の診断基準)には、PTSDの診断基準として6つの条件が示されている。簡単に説明すると、

①トラウマとなるようなできごとが起ったこと。
②外傷的な記憶が侵入的に再体験されること。
③外傷を想起させるようなものごとを回避し、感情や活動の範囲を縮小し、あるいは麻痺させること。
④できごと以前にはなかった、いつも緊張がとけずに見張っているような状態
⑤それらが1カ月以上続いていること
⑥それらが著しい苦痛や生活上の障害を引き起こしていること。

の6つである。この表現だけではそれぞれ当てはまっても、PTSDと診断がつくわけえではない。それぞれさらに細かい条件や症状数が設定されている。
 ドメスティック・バイオレンスが、変形のPTSDをもたらすことが確認されてきたのは比較的最近のことである。たとえば強姦被害のあとの症状が、1970年代からレイプ・トラウマ・シンドロームとして概念化され、さらにPTSDという診断名に組み入れられ、厖大な研究が20年余にわたって行われていることに比べると、ドメスティック・バイオレンスのPTSD研究の歴史は短い。
 また、ドメスティック・バイオレンスの被害のあとの症状は、現在のPTSD診断基準ではうまく説明できないような症状があることが多い。現在のDSM-ⅣにおけるPTSDは、戦闘体験や、強姦被害体験を基礎にしてつくりあげられてきたからである。
 PTSDではなく、うつ病、解離性障害、あるいは全般性不安障害、パニック障害、身体化障害などと診断したほうが適当な場合もある。これらの障害が、パートナーの虐待を原因として起ってくることも稀ではないのである。症状単位でいうと、ドメスティック・バイオレンスの被害者にもっとも多くみられるのは、抑うつであるという。

■精神科とドメスティック・バイオレンス■

 ただし、ドメスティック・バイオレンスの被害者が精神科を受診するときの状況を考えてみると、このような診断の前に大きな問題がある。私はふだんは被害者相談にきた人たちなどを診療しているので、そのときにドメスティック・バイオレンスの被害そのものがほとんどである。
 けれども、一般の精神科臨床ではそんなことはない。精神病院の外来診療をやっていて、ドメスティック・バイオレンスの被害者をみつけたことがあったのが、そのときに患者は、最初はドメスティック・バイオレンスについて話さなかった。その女性は最初、不定愁訴をたくさん抱えた50代の女性としかみえなかった。
 内科や心療内科をおとずれて、腰の痛みや、吐き気や、めまいを訴え、検査をしてもとくに器質的な原因は発見されず、ちょっと温和精神安定剤をもらうか、対症療法の薬、頭痛薬や吐き気どめや降圧剤などを山のようにもらい、それでもよくならないという不満をもって精神科にきても、また医者に相手にされず、よく話を聞いてもらえない人たちがいる。
 典型的なのは中高年の女性であり、「更年期障害かもしれませんね」と言われて診察は終わりになることが多い。もちろん更年期障害が実際にあることもあるし、内科的な原因があることもあるから、医学的検索は必要だが、それが終るとその先医者は興味を失ってしまう。患者は相変わらず、毎回からだの不調を訴え、薬をもらっていく。
 伝統的に、精神科医が治療の主たる対象にしていたのは精神病である。あきらかに精神病ではなく、また明確な神経症でもない人たちに対して、精神科がこれまであまりていねいに扱ってこなかったのは事実だろう。
 まだ私が暴力被害の仕事をする前のことだったが、こういう人たちの話を詳しく聞いてみると、とにかくだれも自分のことに関心をもってくれる人がいない、話を聞いてくれる人がいない、症状のつらさを理解してくれる人がいない、と思っていることが多いことはわかった。
 それでも精神科の診療で毎回長い時間を割くこともむずかしいから、せめて最初の一回だけは本人の納得がいくまで話を聞き、説明しようと当時私は思っていたのだが(それだけでも、つぎの週からかなり具合がよくなる人もいた)、そのときに、夫の暴力について話した女性がいたのである。その人は夫が定年を迎えてから、自宅で荒れ、妻を殴るようになったということであった。かなり高年になってから暴力が始まるケースもけっこうあるのである。痴呆が始まってから夫が暴力をふるうという人にも出会ったことがある。
 しかしそのとき、私は家庭のなかの暴力の深刻さについて知らなかった。それは夫に問題があるのだから、夫の治療が必要なこと、精神科に連れてこられなければ、内科でもいいのだからとりあえず行かせてみて、いまの状況を話させること、うつ状態や、もしかしたらそのほかの疾患があるかもしれないことなどを女性に話したと思う。
 けれども暴力をふるわれている人がそれを実行するのはむずかしかっただろう。暴力そのものに関しては、身の危険を感じたら警察に行くように、がんばりすぎないようにとしか言えなかった。本人も何度か外来に来られたが、暴力の問題は解決しなかったと思う。
 もちろんこのような症状を訴えてくる人が、みんなドメスティック・バイオレンスの被害者だというわけではない。けれどもこの人以外にも、体の症状だけを訴えて、医者に本人の苦痛や困難が伝わっていないドメスティック・バイオレンスの被害者が多いのではないかと、最近私は感じている。しかも身体症状が重い場合、被害者は「とにかくよくならない。体をよくしてほしい。頭痛薬がほしい、胃腸薬もほしい」と、体の症状の苦しさを訴えることでいっぱいになってしまって、それ以上に話が進まない。身体症状の重さはその人の抱える心の傷の大きさを示していると思われるのだが、本人自身もその2つの結びつきを無視していることもある。自分の解決できない苦痛な問題に対する、一種の否認だといえる。
 ドメスティック・バイオレンスの被害者は、ずっと自分の感情や判断を無視されつづけてきている。自分の都合など聞いてもらったこともなく、防ぎようのない暴力に晒され、それでもだれにも注意を払われていないとすれば、とつぜん会った人とコミュニケーションがうまくできないのも当然だろう。
 またもし、ドメスティック・バイオレンスについて話したとしても、医者がまったく無視してしまうこともありがちなことだ。「夫が殴るのはしょうがないですよ、その年代では。まあちょっとがまんしなさい」といってしまう医者は確実にいそうである。
 アジアのドメスティック・バイオレンスの被害者の症状に、どんな特徴があるかはっきりとはわかっていない。だからこれは私のたんなる推測なのだけれども、日本では抑うつとともに、身体化が多いのではないかと思っている。暴力の苦痛を訴えてもだれも聞いてくれず、その恐怖についても理解されず、外面をとりつくろうことを要求されていると、体にしか症状を表すことはできなくなるのではないだろうか。ほかのできごとによるPTSDの場合にも、日本人に身体化が多いのではないかと専門家は推測しているのである。
 しかし、このことがまた本人の苦痛の本質をみえなくさせてしまう。暴力被害の訴えはだれも聞いてくれなくとも、体の具合が悪いことなら医者は聞いてくれるから、それで彼女たちは医者にいき、症状だけを話す。けれどもたくさんの薬はドメスティック・バイオレンスの被害者への援助の代わりにはならない。
 この点では、ドメスティック・バイオレンスの概念が医師に理解されることは非常によいことだといえよう。それが女性のメンタルヘルスに大きな影響を与えることを知れば、少しは扱いも変わってくるだろう。
 女性の精神病患者のなかにも、ドメスティック・バイオレンスの被害者がいる。この人たちは、精神病と女性であることと二重のマイノリティ性を背負っているといえる。精神障害者のなかには家族に暴力をはたらく人もいるが、また家族から暴力を受ける人もいるのである。日本におけるその実情は、まだ不明である。
by open-to-love | 2008-08-14 20:12 | DV(IPV) | Trackback | Comments(0)
日本評論社『こころの科学』139号(2008年5月)
特別企画:数字で知るこころの問題

ドメスティック・バイオレンス(加茂登志子 東京女子医科大女性生涯健康センター)

■ドメスティック・バイオレンスとは■

 ドメスティック・バイオレンスという言葉は本来家庭内での暴力全般に対して使われる言葉だが、わが国では1980年代に子どもから親に対する暴力を家庭内暴力として認知してきた経緯があるため、これと配偶者間暴力を区別してドメスティック・バイオレンス(DV)と呼称してきた。英語圏では通常「親密なパートナー間における暴力 Intimate Partner Violence(IPV)」と呼ばれている。
 平成14(2002)年、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」、通称「DV防止法」が施行されて以来、わが国でもDVの存在とそれから生じるさまざまな問題は急速に社会化された。わが国においてもDVが決して稀な問題ではないこと、被害者が生活のうえでも心身の健康状態においても劣悪な状態に置かれていることなどのほか、DVの子どもへの影響、加害者に対する更生プログラムなどにも社会的関心が及んでいる。

(1)疫学

 表1に世界各国の一般人口における疫学調査の結果を示した。DVは男性から女性、女性から男性いずれも起こりうるが、女性が被害者となることが圧倒的に多い。またその頻度は、公衆衛生上見過ごせない数となっている。たとえば身体的暴力は、表1に挙げたどの国でもほぼ20〜30%に及んでおり、わが国においても状況はほぼ同様である(表2)。
 警視庁の調査では、平成18(2006)年度の内縁を含む配偶者間における暴力の挙件数は、殺人176件、暴行707件、傷害1353件であり、そのうち女性配偶者の被害の割合は、それぞれ65・4%、94・4%、95・5%となっている。殺人事件においては、暴行、傷害に比べ、男性配偶者が被害者となる割合が34・6%と高くなっているが、これは、加害者となっていた夫が最後の局面で被害者であった妻に殺害されるという実態を示しているものと推測される。
 さらに近年では、DVによる心身の健康被害への影響に加え、少子化への影響についても言及されるようになっている。

(2)DVの形態

 一般的に、DVといえば身体的暴力が連想されがちである。しかし、身体的暴力以外にも、脅す、非難する、馬鹿にする、行動を制限する、生活費を渡さないなどなどの精神的暴力や、性行為を強要する、避妊に強力しないなどの性的暴力などさまざまな形態があり、むしろこれら多面的な暴力の複合体がDVであると考えたほうが実態に即している。非身体的暴力であっても、被害者の主観に従えば身体的暴力とのダメージの甲乙はつけがたく、むしろ精神的暴力の方が脅威であり、無力化の根本であったと振り返る被害者は多い。
 これらの実態を受けて、旧DV法ではDVの定義は身体的暴力に限定されていたが、平成17(2005)年5月の改正では、精神的暴力、性的暴力が盛り込まれることとなった。
 DVは単回的ではなく、長期間にわたって繰り返し行われる。輪郭をつけやすいという意味から多くの場合、身体的暴力に視点が集中するが、非身体的暴力もそれぞれどれをとっても非常にストレスフルであり、複合体となればさらに何倍にっもなって被害者の心身に看過できない影響を与える。まさに、この暴力の質的多面性と反復性がDVという現実の特徴であり、児童虐待との類似性が指摘される。

□世界各国のDVに関する疫学調査□
▽先進諸国
カナダ(Statistics Canada,1993)=18歳以上の女性12300人
 現在の、あるいは過去のパートナーから身体的暴力を受けたことのある既婚女性:29%

ニュージーランド(Mullen et al,1988)=5つの地区から無作為抽出された女性314人
 パートナー男性から身体的暴力を受けたことがある:20%

スイス(Gillioz st al,1997)=イズリングトンのロンドン自治区の女性の無作為標本
 身体的に虐待されている:20%

イギリス(Mooney,1995)=結婚したか同棲しているカップルの全国的な代表サンプル
 生涯を通してパートナーやかつてのパートナーから暴力を受けたことがある:25%

合衆国(Status&Gelles,1986)
 パートナーから一度でも身体的暴力を受けたことのある女性:28%

▽アジア・太平洋諸国
カンボジア(Nelson&Zimmerman,1996)=15〜49歳男女全国的代表サンプル
 16%の女性が身体的暴力を受け、8%の女性が受傷

インド(Narayana,1996)=Utter Pradeshの5つの地区の6902人の妻帯者の組織的、多段式サンプル
 18〜45%の男性が彼らの妻を身体的に虐待していることを認める

韓国(Kim&Cho,1992)=全国的層化無作為標本
 38%の妻が配偶者によって身体的暴力を受けたと報告

タイ(Hoffman et al,1994)=バンコクに住んでいる少なくとも1人の子どもと一緒の619人の夫の代表サンプル
 20%の夫が少なくとも1回彼らの妻を身体的に虐待したと認めた

□表2 日本における主なDVに関する疫学調査□
○東京都生活文化局(平成10)年「女性に対する暴力」調査
 都民男女合わせて4500人を対象に、女性への暴力に関する意識・実態を調査した。「だれのおかげでお前は食べられるのだと言う」等の精神的暴力、「けったり、げんこつで殴る」等の身体的暴力、「避妊に協力しない」等の性的暴力を、「1、2度あった」と言う人が約10〜15%、「何度もあった」とする人が3〜5%近くみられる。

○総理府(現内閣府)男女共同参画室(平成11年)「男女間における暴力に関する調査」
 全国20歳以上の男女合わせて4500人を対象。男女別では、「命の危険を感じるくらいの暴行をうける」において、男性0.5%、女性4.6%の人が「あった」としている。

○内閣府男女共同参画室(平成14年)「配偶者等からの暴力に関する調査」
 配偶者や恋人から身体に対する暴行を受けたことがある女性は15.5%、恐怖を感じるような強迫を受けたことがある女性は5.6%、いやがっているのに性的な行為を強要されたことがある女性は9.0%。これらの行為のいずれかまたはいくつかを1度でも受けたことがある女性は約5人に1人(19.1%)。

○内閣府男女共同参画室(平成17年)「男女間における暴力に関する調査」
 これまで結婚したことがある全国20歳以上の女性1578人、男性1310人を対象。配偶者から「なぐったり、けったり、物を投げつけたり、突き飛ばしたりするなどの身体に対する暴行を受けた」ことが「あった」人は女性26.7%、男性13.8%である。「身体的暴行」「心理的攻撃」「性的強要」のいずれかを1つでも受けたことが「何度もあった」という人は女性10.6%、男性2.6%に上っている。

■DV被害者の健康障害■

 DV被害は身体的暴力からの受傷に限らず、広範囲の心身両面の健康被害の原因となりうる。被害者は多数、さまざまな理由で医療機関を受診している。

(1)DVによる身体的健康障害

 合衆国における調査では、医療機関受診者のうち、年間4〜23%がDV被害者であり、低所得者ではより高い頻度となるという。病院救急部門を受診する女性のうち、11〜30%がパートナーからの殴打による受傷で受診していた。また、カナダと合衆国では、女性の殺人事件の40〜60%がDVに起因したものであった。DV被害者によくみられる慢性的身体症状としては、頭痛、背部痛などの慢性疼痛、食欲不振や摂食障害などの消化器症状、過敏性大腸などの機能性消化器疾患、高血圧や胸部痛などの循環器症状、免疫状態の低下によるインフルエンザなどへの易感染性などが報告されている。
 わが国においても、内閣府の調査でDV被害者の67.2%が医療機関で診察を受けたことがあると回答しており、その内訳としては、整形外科が41.1%と最も多く、外科、心療内科と続く。被害者1人当たり平均2、3科を受診しており、身体的暴力を受けた人は整形外科の受診割合が最も高く(42.7%)、身体的暴力を受けていない人は精神科(50.0%)の割合が最も高くなっている。
 妊娠中のDV被害はとくに多く、その頻度は先進国、発展途上国に大きな差異はない。合衆国の統計では、全妊婦の0.9〜20.1%がDV被害にあっている。また、妊娠中のDVは早産や胎児仮死、児の出産時低体重を引き起こす。性的暴力を受けているDV被害女性はわが国においても多産であることが多く、20代ですでに4、5人と出産しているケースも稀ではない。多産は必ずしも夫婦仲のよさを証明するものではないのである。
 日本では、日本産婦人科医学会医療対策部・医療対策委員会が平成14(2002)年と16(2004)年にわたって大規模調査を行っている。これは妊産婦へのDVに関する初の全国的なアンケート調査である。本調査によれば、DV被害のリスクを有する妊産婦は全体の14.2%であり、とくに10代の妊産婦のDV被害が際立って高い頻度(36.3%)にある。
 同委員会は、10代の妊産婦のDV被害について、本人・夫・家族とともに〝望まない妊娠〟である場合が多く、また経済的問題を抱えている割合が高いDVのハイリスク群であり、妊娠後にDVは顕在化するがDVの結果として妊娠にいたるものの割合も高い点、また、乳幼児虐待のハイリスク群でもある点を指摘し、警鐘を鳴らしている。

□DV被害者が治療を受けたことのある診察科□
(n=484、回答数=1129)
整形外科==41.1%
外科====26.2%
心療内科==23.8%
内科====21.3%
精神科===21.1%
救急外来==20.9%
産婦人科==19.6%
耳鼻咽喉科=11.8%
脳神経外科=11.4%
眼科=====9.7%
歯科=====7.4%
神経科======5%
接骨院====4.3%
皮膚科====2.5%
鍼灸院====1.7%
漢方医====1.2%
その他====4.3%
無回答====0.2%

(2)DVによる精神健康障害

 ゴールディングはDV被害女性の精神科的後遺障害に関する研究のメタ分析から、DV被害者における最も多い精神健康障害はうつ病とPTSDであり、この両者へのリスクは幼児期の性虐待よりもDV被害の方がむしろ高いとした。PTSDはDV被害者の33〜84%と高い頻度で診断されており、またうつ病も37〜63%とPTSDに匹敵する率で診断されている。
 日本におけるシェルター内での調査においても、気分障害、不安障害がそれぞれ40%、PTSD40%、大うつ病現在57.4%、PTSD現在3.7%であった。さらに、これらの研究ではDV被害者に高い自殺準備性があることもまた指摘されている。
 その他、DV被害者には、不安障害、身体化障害、アルコールや薬物乱用がしばしばみられることも指摘されているが、アルコールや薬物乱用はPTSD症状に対する対処行動の結果、二次的に生じるものも少なくない。成人女性の難治うつ病や身体化障害、物質乱用の症例では、医療者側からDV被害の有無について問いかけていく必要もあろう。

(3)DV被害者の複雑な精神状態

 うつ病とPTSDがDV被害者の2大精神健康障害であることは上述したが、実際の被害者たちはこの2者だけでは割り切れない、より複雑な精神状態を呈している。
 歴史的にみれば、「バタードウーマン・シンドローム」「マゾヒスト的人格障害」「複雑性PTSD」「破局的体験後の持続的人格変化」などの範疇でこの「複雑さ」は既述されてきた。
 筆者もDV被害者の面接時の特徴を「断片化され統合性を失った陳述」と「自己評価の著しい低下を主体とする認知の歪み」の2点に要約しているが、要するにこれら特徴によって、被害者の訴えや症状は他者にさらに理解されにくくなる。
 周知のように、DSM-Ⅳ-TRのPTSD診断基準は、戦争体験やレイプなど、基本的には単回的な体験への反応を想定して作成されたいわゆる単純性PTSD(simple PTSD)のみを射程に入れたものであるため、児童虐待やDVなどの慢性反復的に生じるトラウマ性ストレスから生じる後遺障害には適当ではないとの指摘は多い。
 さらに問題を複雑にするのは、DV被害者の中に、かつて児童期に虐待を受けていた例がしばしば存在することである。また、暴力から逃れられないままの被害者も多く、これらの被害者は暴力から逃れたあとの被害者とまた異なった症状を呈している。
 被害者の特徴を考察する場合、生育環境からの影響という視点を含めた人格特徴の検討がしばしば必要になる。しかし、「病前性格」の検討が困難であいまいになりがちな長期反復型外傷被害者の場合は、この精神医学にとって長く伝統とされてきたアイテムがむしろ足かせになる可能性についても十分に考慮されるべきである。
 DV被害者の精神症状がどのような病態水準で生じているのか、という判断は数回の経過観察だけでは困難であり、成因論的には、トラウマ性ストレス症状や抑うつ症候群からなる精神医学的急性期症状から不可逆的な人格構造の変化が生じている可能性まで、広いスペクトラムでとらえていく必要がある。
 横断面的な状態像の移ろいやすさも注意を要する。混乱が著しく、一見人格の根底から崩壊しているかにみえる被害者でも、状況変化や時間経過によって本来の落ち着きを取り戻す可能性は十分にある。そのため、たとえ人格障害が疑われるような行動・言動がみられた場合も、性急にその診断を下さない慎重さが必要である。また一方で、一見安定しているかにみえる被害者が数カ月から数年ののちに増悪をきたす場合も稀ではない。

(4)DV被害者の精神症状の経過と転帰

 被害者がシェルターを出たあとの状態に関する縦断的な研究はまだ数が限られているが、キャンベルらの抑うつ症状に関する前向き調査では、シェルター潜在時のDV被害者の呈する抑うつ症状がその後の経過で変化しうる点を指摘しており興味深い。キャンベルらは、シェルター退所時には83%の被害者がCES-Dを用いてmild Depressionと診断されたが、10週間後のフォローアップ調査では58%に減り、6カ月後も10週後と同様の結果であったと報告している。
 また、サザーランドらもシェルター保護女性136人を対象に、退所後8・5カ月、14・5カ月の2回にわたってフォローアップ調査を行い、暴力がなくなったあとでは、抑うつ、不安ともに改善をみたと報告している。この両者はともにうつ病に関する調査であり、PTSD症状に関してはまだ詳細なフォローアップ調査はない。今後の研究が待たれる分野である。
 筆者らは精神科クリニックに通院する長期経過例43例を含む55例のpDV被害者の経過について、平均516日、最長906日にわたって追跡調査を行っている。(加茂登志子「DV被害女性の精神医学的臨床経過」厚生科学研究費補助金分担『家庭内暴力被害者の自立とその支援に関する研究 平成18年度報告書』2006年)本研究では、初診時診断で最も多かったのは適応障害40%であり、大うつ病38%とPTSD18%がこれに続いた。
 調査期間中、生活や婚姻の状態が変化する症例が非常に多く、また、生活保護受給率も36%と高く、DV被害から逃れた直後の被害者の生活の困難さがうかがわれた点、また経過観察終了時の転帰に関しては全体の44%が改善と判定された点、精神症状の改善には就労が、また就労には集団精神療法への参加が効果的である点などを報告した。

■子どもへの対応■

 DVにさらされた子どもたちの心身の被害も深刻である。身体的に直接的な虐待被害を受ける子どもも少なくないが、DV状況の目撃そのものも虐待であることが近年指摘されている。結果的にネグレクトの状況に置かれている場合もあろう。シェルター滞在中の調査では、子どもの両親間のDV目撃率は100%であり、心理的ケアを要する臨床域にあるとされる子どもは8割に達するとの調査もあり、今後の重大な課題となっている。
 また、親子の精神健康は相互に影響しており、母親の不安定な精神状態が子どもに影響を与え、子どもに攻撃的行動があれば親子関係を悪化させる。子どものいる被害者の場合、母子をユニットとしてとらえ、ともに回復するサポート体制を組むことが重要である。
 平成17(2005)年の改正DV防止法では、保護命令の範囲も子どもも含めて考えられるようになり、やはり同年に改正された「児童虐待の防止等に関する法律」、いわゆる虐待防止法にも「児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力」が虐待のひとつとして記載されたことは記憶に新しい。DV防止法では通報に至らなくとも、虐待防止法で子どもを被害者として動く必要があるケースがあることを覚えておきたい。

■長期的視野に基づいたケアの必要性■

 さまざまな相談窓口を経て加害者のもとから逃れてきた被害者は、その後シェルターなどを経て新しい生活を始めることになるが、それも一様に容易ではない。慣れない共同生活や経済的不安、加害者の追求行為、離婚調停や裁判の負担、両親との葛藤状況、子どもの養育に関する不安や負担など、困難なハードルは枚挙に暇がない。
 サリバンらは長期にわたる前方視的調査から、DV被害者が加害者のもとに戻り、再被害を受けてしまう原因として、共同体資源、すなわち自立生活のための仕事、教育、子どものケア、社会的サポート、援助資源の不足が大きいと結論づけ、DV被害者の支援目的を「共同体資源への接近(access)」「暴力の再被害(revictimization)の防止」「QOL(quality of life)の改善」と明確化・具体化している。
 ケアを提供する側はできること・できないことを十分に認識し、みずからの役割を果たしつつ、長期的ケアの必要性を絶えず意識して他の関連機関と有機的につながっていく必要がある。関係者は互いのかかわりにおいて、それぞれの立場と責任性を考慮し、被害者の猜疑心や孤立無援感を必要以上に助長しないよう務めるべきである。
by open-to-love | 2008-06-08 11:12 | DV(IPV) | Trackback | Comments(0)
自立求めて DV被害女性の軌跡①

執拗に「バカ」「死ね」

 彼女が面会場所に指定したのは、首都圏郊外の小さな喫茶店だった。ドメスティックバイオレンス(DV)被害から逃れて5年。目深にかぶった帽子を取り、思いのほか明るい声で彼女は語り始めた。「逃げ出さず、あのまま家にいたら…私は自殺していたかもしれない」
   ◇   ◇
 彼女は現在60歳代で、岩手県出身。20歳代後半で他県の男性会社員と結婚した。「今思えば、最初の夫もDVだった」。四六時中殴られ顔中あざだらけ。「パンダみたいな顔してた」
 暴力に耐えかね、小さい娘を連れ家出。だが、車で追い掛けてきた夫に捕まった。夫は娘をかばう彼女を殴打した。
 その日以来、彼女は逃げなかった。観念したというより、夫がめったに家に帰ってこなくなったからだ。給料が入ると、東南アジアなどに行って買春していたらしい。「ガイジンの女」から自宅にたどたどしい日本語の手紙が届いた。
 1年以上の空白後、夫は書類を手に帰宅。「離婚する。サインしろ」。約10年間の結婚生活は、唐突に終わりを告げた。
  ◇    ◇
 母子家庭の生活は厳しい。再婚した男は「最初の2、3年は優しかった」。だが、今度は四六時中、精神的暴力が始まった。
 「バカ」「死ね」「出て行け」…執拗に、汚い言葉が彼女に浴びせられた。言い返すとキレて、殴られた。娘が大学に推薦で合格したが、夫は入学金を払わなかった。
 夫の親族はいつも夫の味方。かといって、遠く離れて住む自分の親族とは疎遠だった。彼女は友人に相談し「話は聞いてくれた。同情もしてくれた」。でも、結論は「あなたが我慢しなくちゃないんじゃないの」。進展はなかった。
 転機は、ストーカー被害に遭った友人の口コミ情報だった。その友人は「あちこちの相談機関に足を運んだが取り合ってもらえず、法務局に行ったら親身に話を聞いてくれた」と話していた。
 意を決して、彼女は法務局へ。初老の男性職員が対応した。彼女の身の上話を聞いた職員は言った。「それはDVだ」
 5年前の夏。彼女はこのとき初めて「DV」という言葉を知った。
 「逃げよう」と心に決めた。既に関東へ移り住み自立していた娘も賛同。数日後、夫が用事で一日中家を空けた日、彼女は荷物を取りまとめ、貯金を下ろし、家を出た。
 途中、警察に電話を入れた。「夫から捜索願が出されても、受理しないでください」
 だが、どこへ。明確な行き先があったわけではない。娘の元に逃げ込めば、夫が追い掛けてきて、娘も巻き添えになるかもしれない。彼女は、本県に向かった…。
  ◇    ◇
 2008年1月11日、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)第2次改正法施行。「家」という密室の中の暴力を「重大な人権侵害」として、被害者の安全確保の仕組みを定めた2001年の法施行から7年、本県でも全国でも相談件数は年々増加している。その過酷な実態が徐々に顕在化する一方、支援の輪は構築の途上だ。本県出身のDV被害女性の行方を追いながら、本県、首都圏、札幌を舞台に、被害者支援の現状と課題を探る。

 【DV】配偶者や恋人など親密な関係にあるパートナーからの暴力。被害者の大半は女性。加害者の社会的地位や職業は関係なく地域差もないとされる。身体的、精神的、性的暴力、生活費を渡さない経済的暴力、行動を監視する社会的暴力などがある。内閣府調査(05年)によると、女性の10・6%が配偶者から身体的暴行、心理的攻撃、性的強要のいずれかを受けたことが「何度もあった」と回答。「1、2度」を含め女性の約3人に1人が被害を体験。本県の調査(03年)によると、配偶者等から何らかの暴力を受けたことがある女性は37・8%、暴力で命の危険を感じたことがある女性は4%。
by open-to-love | 2008-03-01 20:45 | DV(IPV) | Trackback | Comments(0)
自立求めて DV被害女性の軌跡②

民間の支援運動 DV防止法に結実 

 本県出身女性が夫から暴力を受け、それが「DV」と呼ばれることすら知らず、耐え続けていたころ…。1993年春、はるか北の札幌市で女性たちが、女性が直面するさまざまな問題や困難を速やかに解決するための事務所「女のスペース・おん」(近藤恵子世話人代表)を開設した。
 事務所といっても、市内の喫茶店の二階を借りて机一つ、電話一つ。そこに連日、北海道はじめ全国各地から相談電話が相次いだ。DV、離婚、不当解雇、セクハラ、集団レイプ…「女性である」というだけで受ける社会・経済的な不利益、心身へのダメージ。開設初年、相談件数は1392件、うちDVは444件に上った。
 殴られ、けられ、骨を折られ、鼓膜を破られ、失明寸前にされ、やけどを負わされ、吹雪の中に投げ出され…。でも、どこに相談すればいいのか分からない。地元の役場に相談して地域のうわさになり、夫にばれると暴力に火が付きかねず、黙って耐えてきた…。
 そんな女性にとって、女のスペース・おんは安心して相談できる場所であり、「駆け込み寺」ともなった。人口500万人を超える北海道には当時、公設シェルター1カ所のみ。スタッフは着の身着のままで逃げてきた女性を、自宅や教会の一室を借りてかくまった。
 96年秋、近藤さんらは同市で「駆け込みシェルター国際シンポジウム」を開き、3日間で全国から延べ600人超が参加。シェルター運営や加害者教育に携わる米国の4人をゲストに、被害者サポートや行政との連携などをテーマにした分科会は熱気にあふれた。
 最終日に「駆け込みシェルターを各地に創設、国内外のネットワーク強化、性差別禁止法を軸とする法システム整備」とのアピールを採択した。
 女のスペース・おんは97年、シンポの際に募ったシェルター設立基金100万円で北海道初の民間シェルターを開設した。「シェルターを持たずに、責任ある相談は受けられない」。近藤さんの言葉は強く、重い。
   ◇   ◇
 92年、民間女性団体「夫(恋人)からの暴力調査研究会」が日本初の全国実態調査を行い「DV」が日本で認知され始める。93年、国連が「女性に対する暴力撤廃宣言」。95年、女性に対する暴力を主要なテーマとした国連世界女性会議が北京で開かれる。
 「痛みを力に」。世界的な女性の権利思想の高まりと呼応した、近藤さんら日本の女性たちの運動は、2001年のDV防止法として結実。「しつけ」「夫婦げんか」とされ、暴力に堪え忍ぶしかなかった女性たちに、ようやく光が差した。
 被害者から加害者を引き離すための保護命令制度が創設され、各都道府県に配偶者暴力相談支援センター設置が進んだ。各地で被害者支援の取り組みが芽生え始めた。
   ◇   ◇
 法施行から2年後の夏。本県出身女性は、自分に対する夫の暴力が「DV」であることを知り、家を出た。しかし彼女は、保護命令制度や配偶者暴力相談支援センターなどの知識はなかった。法施行前から民間主導で支援体制を立ち上げていた札幌や首都圏に対し、地方の歩みは遅かった。
 それでも彼女は幸運だったかもしれない。子連れではなく独り身で、少しの貯金もあった。そして、彼女を1カ月以上かくまった本県の知人夫婦の存在があった。

【配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)】2001年、参議院「共生社会に関する調査会」による議員立法で制定。憲法の両性平等原則から、法の名称は「配偶者からの暴力」だが、前文では「女性に対する暴力」防止が立法目的であることを示す。04年には暴力の定義拡大、保護命令拡充、自立支援の明確化を柱に第1次改正法が施行。第2次改正法には、市町村の配偶者暴力相談支援センター設置努力義務などが盛り込まれた。
by open-to-love | 2008-03-01 20:43 | DV(IPV) | Trackback | Comments(0)
自立求めて DV被害女性の軌跡③

知人宅に避難も…続く逃避行

 DV被害女性をかくまった本県の50歳台の知人女性は、彼女と長年の付き合いがあったわけでも、ことさらDVに理解が深かったわけでもない。「彼女をかくまったことで、親友になれた。頼るすべがない女性がどれほど孤独か、夫に追われることがどれほど恐怖か…初めてDVの深刻さを知った」と振り返る。
 彼女とは数年前に知り合い、時折会ったり電話したりする程度の関係だったが、暴力に悩んでいることはそれとなく耳にしていた。
 逃げてきたと聞き、知人女性は夫の承諾を得て「困っているのならどうぞ。落ち着くまでいてね」と彼女を自宅に招き入れた。
 彼女は、DV夫が追い掛けてきて連れ戻されるのではとの恐怖に駆られ、しばらくは外に出ることもできなかった。苦しみを吐き出すように身の上話を語り続けた。知人女性はそんな彼女に寄り添い「うん、うん」とひたすら耳を傾けた。
 知人夫婦は、自宅に彼女をかくまっていることが周囲に悟られないよう、対外的には努めて普段通りに振る舞った。
   ◇   ◇
 一方、彼女が家を出た直後から、DV夫とその親族による捜索が始まっていた。彼女の友人関係を割り出し、電話をかけ、住所を探し出しては訪問。夫は彼女の所在を尋ねながら、彼女が「ひどい嫁」であり「本当の被害者は自分だ」と訴えて回ったらしい。
 知人夫婦のサポートで心身の痛みから立ち直りつつあった彼女は「いつまでもここにお世話になるのは申し訳ない」と感じ始めた。新たな居場所を求め知り合いに電話したが、時既に遅し。DV夫が先回りしていた。
 彼女は当時、公設・民間シェルターの存在すら知らなかった。新聞に小さく載っていた記事を手掛かりにDV被害者相談会に参加し、弁護士に離婚手続きを依頼したが一向に進まない。折あしく、都内でDV被害女性の相談に乗っていた女性が加害者に殺害される事件も報道された。
 開けぬ展望、深まる孤独、過ぎゆく時間。「このままじゃいけない」。秋も深まったころ、彼女の様子を見かねた知人女性が「リフレッシュしよう」と旅行に誘った。
 帽子を目深にかぶり入念にカムフラージュした彼女は、知人女性と電車に乗って盛岡市へ。レンタル自転車で材木町の「よ市」などを巡った。同市中央通の県庁前に差し掛かったとき、彼女は道端にトチの実が落ちているのを見つけた。
 「秋だね」。大はしゃぎで、コンビニの袋にいっぱいトチの実を拾った二人。つかの間の解放感。その日だけ、彼女は生来の快活さを取り戻した。
   ◇   ◇
 だが、ついに、知人宅にもDV夫から電話が入った。丁寧だがドスの利いた声だったという。「お宅に、うちの○子がいるんじゃないのか?」
 知人女性は「知りません」と電話を切った。
 数日後の夜、再び電話。今度は知人女性の夫が受話器を取った。「何の話だ? ○子さん? 関係ない」と厳しい口調で切り返し、ガチャンと電話を切った。
 以後、電話は来なかったが、彼女は不安に駆られた。「もし夫がここにやって来て、連れ戻されたら…」
 9月末。彼女は関東方面行きの高速バスに乗り込んだ。逃避行は続く。

 【被害者の保護】被害者が配偶者暴力相談支援センター、警察、女性センター、民間支援団体などに相談。緊急性が高いなどの場合、公設・民間シェルターに一時保護されるのが一般的な流れ。
 加害者を被害者から一定期間引き離すため裁判所が発する保護命令は、接近禁止命令と退去命令がある。2度法改正を経て、配偶者(事実婚含む)のほか元配偶者も命令の対象になり、身体的暴力に加え生命や身体に対する脅迫を受けた被害者も申し立てが可能に。被害者の子や親族なども接近禁止対象になり、被害者に対する電話や電子メールも禁止となった。
by open-to-love | 2008-03-01 20:41 | DV(IPV) | Trackback | Comments(0)