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カテゴリ:パターナリズム( 1 )

パターナリズムの問題

第6章 精神科医療とリハビリテーション

5.パターナリズムの問題

 近年、医療一般の治療関係においては「説明と承諾」原則(informed-concent rule)に基づく患者の自己決定権が確認され、本人の意志に反する「強制」治療は原則として否定されるようになった。精神科領域においても、改正された精神保健法において、第22条2項に任意入院「精神病院の管理者は精神障害者を入院させる場合においては、本人の意志に基づいて入院が行われるようんい務めなければならない」の規定が新設される等、精神障害者の意志能力と自己決定権の尊重がうたわれるようになってきている。
 しかし、精神科治療においては、いわゆる「病識欠如」や「意志能力欠如」概念のために、本人の意志によらない強制的治療(保護義務者の代諾による医療保護入院、行動制限、強制投薬等)に頼らざるをえないことも決して稀ではない。これらの強制治療は、一面では社会防衛という理由(措置入院)によって、他の一面ではパターナリズム(paternalism)の概念によって正当化されている。
 パターナリズム派、一般に温情主義、家父長主義、父権主義等と訳されるが、parens patriaeとして、患者に治療と保護を与えることを目的として、患者の意志に反して強制的に治療に介入することを指している。熊倉(注)は、この「治療のための強制」を、(1)本人の利益をまもることを目的とした、(2)治療のための、(3)本人の同意によらない、(4)「実力の公使」、と定義している。いいかえれば、患者にとっての最良の利益が何かを判断する場合において、常に医師が家父長的に(paternalistic)優位で権威的な立場に立つ治療関係ということになる。
 一般科に比して精神科領域においては、その対象者の特性により、パターナリズムは臨床の現場できわめて大きな課題といえる。
 たとえば、入院中の患者の行動制限について、厚生省告示第130号(1988年4月)では「その制限は患者の状態に応じて最も制限の少ない方法により行わなければならないものとする」と最少規制の原則が規定された。しかし、精神保健法第36条では「精神病院の管理者は、入院中の者につき、その医療または保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行うことができる」と旧法と同様の規定が残されている。自ら入院することに同意して入院した任意入院者の約半数が閉鎖病棟に在棟しているという現状をみる時、この「行動制限」規定は、パターナリズムを容認し、「患者のために」「家父長的な善意」で治療を行っている治療者に対し、絶対的な権限を付与したものといえよう。
 また、保護義務者の代諾による医療保護入院制度や、精神保健法にみられる保護義務者に対する過大な役割規定においても、パターナリスティックな影響が強く反映していると考えることができる。とりわけ、社会資源が未整備なわが国の現状において、「医療保護」入院患者の保護義務者の同意が必ずしも患者の利益を代理していないという状況は日常的にしばしば起こりうる。こうした状況においては、患者本人に自己決定権を認めず安易に保護義務者の同意をもって本人の同意に代え、強制的な治療を行うことの危険性を銘記しておく必要がある。
 精神病院におけるパターナリズムの最大の弊害は、医療職員が患者を「非合理、非現実的で判断能力や責任能力に欠けた存在、常に介護し保護しなければならない存在」としてとらえることによって生ずる家父長的・権威主義的態度や行動である。こうした考えに基づく食事や入浴等の日常的な生活指導や小遣い銭の管理等の過剰な代理行為は、一層パターナリスティックな考えを強化し、患者の主体的な生き方や自己決定の機会を奪ってしまうことにつながる。
 パターナリズムと対極にあるインフォームド・コンセントの概念では、治療関係を福祉(well-being)と自己決定(self determination)という2つの価値からとらえており、自己決定の重要性を、他者の不当な介入に対する防衛という消極的側面と主体性の保障という積極的な側面の2面を評価しているといわれている。
 精神科領域においても、開放治療・地域性新医療の進展に伴い、精神障害者が判断無能力であるがゆえに保護されなければならないという考え方は否定されるようになり、当り前のヒトとしての医療と生活が保障される権利が確認されてきている。そしてこのことはアメリカにおける患者の治療拒否権をめぐる裁判を経て、患者の自己決定権を尊重していこうとする世界的な流れの中に位置付けることができる。望ましい治療関係のためには、患者と治療者の両者による相互信頼と参加による共同の意思決定が必要であり、精神科医療においてもそれを保障する構造的な場と条件づくりが求められている。

注)熊倉伸宏:精神科治療におけるpaternalismと自己決定に関する文献的な考察、精神神経学雑誌 89(8):593−914、1987

全家連保健福祉研究所・岡上和雄、吉住昭、大島巌、滝沢武久編著
『精神保健福祉への展開 保健福祉ニードからみた到達点と課題』
(相川書房、1993年8月)
by open-to-love | 2008-07-04 18:50 | パターナリズム | Trackback | Comments(0)