精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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滝沢武久著『こころの病いと家族のこころ』………その28

滝沢武久著『こころの病いと家族のこころ』………その28

滝沢武久著『こころの病いと家族のこころ』(1993年、中央法規)

一二 精神病の障害に対して
 発病初期の症状はともあれ、精神障害とは生活障害であるというように、彼らの生活を地域社会内で定着させるためには、その生活基盤作りをしなくてはいけません。だが現行法では精神障害者(回復者)に対する施策は特にありません。それは「精神病はあくまで病気であり、それは病気である限り治れば精神障害者でなくなる」という論拠によります。医者も福祉行政関係者もあるいは本人も「精神障害者」であることを否定しがちです。なぜに国連は精神病者を障害者としているのでしょうか。私は精神病が身体病固有の特徴より、極めて社会的、人間関係的現象を多く有していることを述べました。精神病の発症の特徴からみて、主として障害は対人関係や緊張持続力など、自己の能力を十分発揮できない心理的精神的弱点です。ついで一般的なイメージの悪さから、あるいは精神病院内での長期在院や再発再入院に伴う実社会生活のかくも長き不在、労働経験の少なさから、そこから生まれてくる社会的な不利をいちおう「障害」と表現できると思います。特に精神病時における病理的部分は全人格、全人生のごく一部で、一時期で一定場面であるのにかかわらず、全体として精神病者と呼称してしまう不合理さが、あたかも障害=欠陥固定(不治永患)=福祉の必要性と、硬直化した解釈を生むことになるでしょう。必要なのは人間はだれでも病気になるし、障害をもつことにもなるという認識です。それに時と質と量にあわせた援助活動=福祉的援助を行うことが重要であると思います。
 例えば、生活保障面では現行では生活保護法の各種扶助の実施を、リハビリテーション法として社会復帰促進という観点から大幅に運用の拡大を図るべきであると言えます。現行精神保健法は医療と保護を大義名分とした社会防衛策であると言われていますが、一部に各種社会復帰施策の拡大の余地を残しています。抜本的な社会復帰促進施策にはどのような方策があるでしょうか。とりあえず生活保護法を見るならば、社会復帰のための特例として、世帯分離の拡大、住宅扶助期間の拡大延長、試験就労期間の収入認定の留保、累積日用品費を社会復帰準備金として積み立てる、医療生活扶助終了後の社会復帰ケースワークの実施、家族の扶養義務の限界を客観的に把握し社会的扶養の実施による自立生活促進などでしょう。人間が社会生活上自立していくのには、まず精神的自立が必要であり、経済的、労働的自立も必要です。精神保健法の保護義務、生活保護法の扶養義務が、奇しくも日本では家族に課せられていますが、結果的にはこのことが、建前と現実との矛盾の谷底に、我が国の精神障害者と家族を落ち込ませているのではないでしょうか。日本に生まれたることの不幸を何とかできないでしょうか。しかしそうした悲観的材料以外に、各地で沸き起こっている民間社会復帰活動の実践的努力が、力量は微少ですが精神障害者の人権や生活保障を目指して取り組まれていることは高く評価します。これがいっそう燎原の火のように広がって取り組まれんことを望みます。その中へ全国各地の家族が積極的に入っていき、デイケアでも共同作業所でも共同住居でも回復者クラブでも、なんらかの役割を担っていけるようにしていきたいものです。
by open-to-love | 2009-12-28 15:56 | 滝沢武久 | Trackback | Comments(0)