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外国籍女性とDV…上

林千代編著『女性福祉とは何か』
(ミネルヴァ書房、2004年)

第12章 日本における外国籍女性と子どもの問題

 21世紀に入り、来日外国人の入国者数は2002年には577万人を超え過去最高を記録した。2002年末現在における外国人登録者数も過去最高の185万人1758人、日本の総人口の1.45%を占めるにいたっている。これは1984年12月末の84万885人(総人口の0.7%)と比較すると約2倍以上の増加ぶりである。特に1992年度末時点の外国人登録者数(128万1644人)と比較して、その数は10年後の2002年末には44.5%増へと急激に増加していることが大きな特徴であり、1990年代の滞日外国人の増加傾向が著しい。また2001年1月1日現在、オーバーステイの外国人は22万人を超えると推定されている。
 日本在住外国人の多国籍化が進むなか、少しでも日本で安定した生活を営むことを希望し、オーバーステイ状態にある外国人登録を行うケースが増えている。その数は2002年度末時点で1万7515人の登録者数となっている。これはオーバーステイ者全体の約1割を占める数字であり、1990年と比較し約7倍の急増ぶりである。
 このように1990年以降から日本における「外国人の定住化」が急速に進んでいる背景として、国際結婚の増加、外国籍の親をもつ子どもの出生数の増加と教育問題など、滞日外国人の生活実態のさまざまな変化があげられる。なかでも外国籍女性に対する夫・パートナーからの暴力(ドメスティック・バイオレンス。以下DVと略す)、日本で生まれた無国籍児の問題などが指摘できよう。外国籍女性とその子どもたちの実態は、緊急に支援を必要とする重大な人権問題、女性福祉の問題を含んでいる。
 また1990年代半ばに大きな社会問題として取り上げられた、外国籍女性の人身売買問題が,現在も依然として続いていることが民間支援団体の報告から浮かび上がっている。このような状況に、国連女子差別撤廃委員会より日本政府に対して改善勧告が出されるなど、国際レベルでの早急な問題解決が求められている。
 そこで本章では、筆者が以前ソーシャルワーカーとしてかかわった多国籍の女性を支援する民間シェルターでの実践経験を軸として、日本に在住する外国籍女性の抱える大きな問題としてDVと人身売買の問題を取り上げ、その実態と日本が抱える女性福祉の問題点について記述したい。その上で女性福祉問題解決に向けて民間団体の果たしてきた役割と実態、外国籍女性支援のあり方、今後の課題について検討する。

■第1節 公的統計からみた外国籍女性と子どもの現状

□滞日外国籍女性とは

 滞日外国籍女性とは、どのような女性をいうのだろうか。日本に滞在する外国籍女性といった場合、その実態から大きく分類すると①在日コリアンなどいわゆるオールドカマーと呼ばれる人々、②バブル期以降に来日したニューカマーと呼ばれる人々に分けられる。ニューカマーのなかに大きく分けて①「興行ビザ」によって来日するフィリピンをはじめとする外国籍女性、②「短期滞在」などのビザで来日し、その後「定住者」「日本人の配偶者等」の資格を取得し滞在する外国籍女性、③「短期滞在ビザ」などで入国するが、その実態は人身売買によって日本に連れて来られるコロンビア、タイなどの外国籍女性、④日系ブラジル人など日系人の在留資格をもつ外国籍女性、⑤留学、就学生、⑥研修生、⑦いわゆる欧米系外国籍女性、などが含まれる。その状況はこれらの滞日外国人女性それぞれの抱える社会的背景や日本で置かれている状況により著しく異なる。
 上記内容に加えて、現在の在留資格の有無や、日本国籍の子どもの有無によって、日本に滞在する外国籍女性の置かれている状況はさらに複雑になり、公的支援、社会福祉制度などの面でも大きな格差が生じている。そのため「外国籍女性」というひとくくりのとらえ方は実態を正確に反映しない。しかし公的統計には上記の個別の実態を把握する視点がないため、公表されている統計からはその実態を把握するのは非常に困難な状況にある。これらの制約を前提として、滞日外国籍女性の概況についてみてみたい。

□国際結婚の推移と新生児のなかの嫡出・非嫡出子の数

 まず「夫が日本人・妻が外国人」の国際結婚の推移はどうなっているだろうか。厚生労働省統計情報部編「平成14年人口動態調査」によると、上記国際結婚の件数は1980年には4386件、1985年には7738件、さらに5年後の1990年には2万件台に突入し10年前の約4・5倍の2万26件へと急増する。さらに増加傾向は続き、2001年には過去最高の3万件台、3万1972件を記録し、2002年には若干減少し2万7957件となっている。2002年度の国際結婚件数の中で「夫が日本人、妻が外国人」のカップルの割合は7割を超えており、日本における国際結婚の多くが、日本人男性と外国籍女性のカップルであることがわかる。
 次に国籍の内訳をみてみたい。1980年の「夫が日本人、妻が外国人」の国際結婚の上位国は韓国・朝鮮が2458件、中国の912件、米国178件、その他の国が838件となっている。フィリピン、タイ、英国、ブラジル、ペルーについての調査は1992件から始まり、それ以前は「その他の国」として分類されている。1992年時点にはフィリピンが5771件と一番多く、続いて韓国・朝鮮が5537件、中国4638件、タイ1585件、ブラジル645件、米国248件、ペルー138件と続く。10年後の2002年には中国が1万750件、フィリピン7630件、韓国・朝鮮5353件、タイ1536件、ブラジル284件、米国163件、ペルー126件と順位が変動している。韓国・朝鮮はその後1990年の8940件を最高として、減少傾向にある。2002年には5353件となっている。中国は2001年に1万3936件まで急増し、2002年には若干減少し1万750件となっている。
 2002年の「母が外国籍」の出生児数総数は1万1611人、上位は中国2656人、韓国・朝鮮2468人、ブラジル2607人、フィリピン972人、ペルー744人、タイ202人と続く。
 次に「新生児のなかの嫡出・非嫡出子の数」はどうであろうか。公的統計として非嫡出子の数も明記されるようになったのは1992年からであり、まだ10年ほどの新しい記録しか公表されていない。厚生労働省統計情報部編『日本における人口動態ー外国人を含む人口動態統計』によれば、1992年の日本人の嫡出子/非嫡出子の数(構成割合)は119万5251人(98.9%)/1万3738人(1.1%)、外国人の場合は8437人(91.0%)/839人(9.0%)であった。2001年には日本人115万293人(98.3%)/2万369人(1.7%)、外国人は9144人(77.2%)/2693人(22.8%)となっている。日本人と比較して外国籍の母から生まれた子どもの非嫡出子の数が圧倒的に多いこと、また1992年以降、非嫡出子の急増が注目される。
 その意味するところは、法的に保護を受けにくい子どもの増加が著しいということである。同時に公的支援から阻害されている外国籍女性とその子どもが多く存在することが推察される。

□離婚の現状

 次に離婚についてであるが、厚生労働省統計情報部編『平成14年人口動態調査』によると、「夫が日本人、妻が外国人」のカップルの離婚件数は1992年には6174件、内訳は韓国・朝鮮3591件、中国1163件、フィリピン988件、タイ171件、米国75件、ブラジル39件、ペルー9件となっている。その10年後の2002年には中国4629件、フィリピン3133件、韓国・朝鮮2745件、タイ699件、ブラジル91件、米国76件、ペルー45件と変化する。中国、フィリピン、タイ、ブラジル、ペルーの急増が目につく。
 在日コリアンの生活実態について、鄭暎恵は日本在住の韓国朝鮮籍者が本国韓国の平均より1.3倍結婚し、2.8倍離婚しているという分析を行い、その背景として「失業、倒産、ドメスティック・バイオレンス等々、社会構造から派生している離婚原因は、日本国籍者以上に大きな影響を及ぼしていることだろう」と指摘する。また鄭は一般には公表されていない厚生労働省に保管されている保管表を活用し、他の在日外国籍女性の非嫡出率の高さについて貴重な分析も行い、タイ籍母親から生まれる日本国籍をもたない子どもの8割以上、フィリピン籍母親から生まれる子どもの7割以上が非嫡出子という実態を指摘している。
 しかも上記の公表されている統計数は、届け出をしている外国籍女性とその子どもの件数である。届け出のない外国籍女性、その子どもたちの実態は公的統計には反映されておらず、実数はこれよりもはるかに多いと考えられる。それらの人々はビザを持つ外国籍女性と比較して、さらに厳しい社会的、経済的状況のなかで生活していると推測される。特に母親である外国籍女性がオーバーステイ状態である場合、またその子どもの父親が日本人男性であっても法律婚でない出生で日本人の父親から胎児認知をされていない場合、生まれた子どもは母親の国籍だけ、もしくは無国籍のままオーバーステイ状態になる場合もある。その場合、日本の公的施設、社会福祉制度を利用するのは非常に厳しい実態がある。

■第2節 公的施設における外国籍女性対応の現状

□公的施設における外国籍利用者への対応

 女性が緊急に保護を必要とする場合に利用できる施設は、婦人相談所(女性相談所)、婦人保護施設、母子生活支援施設(母子の場合)、宿泊所などがあげられる。なかでも中核的な役割を果たしてきたのが売春防止法を根拠法とする婦人相談所である。
 東京都においては1977年4月1日、「東京都婦人相談所センター条例」が施行され、センター利用の対象者を売春防止法以外の一般女性にまで枠を拡大することとなった。これにより義務教育終了前の児童を同伴する母子も同時に一事保護が開始された。
 さらに1988年7月より、緊急保護を必要とするオーバーステイの外国籍女性の保護を開始する。ただし、「入国管理局への通報、2週間の滞在、帰国前提」(1987年1月20日厚生省通知、『いわゆる「じゃぱゆきさん」の保護について』)の場合のみ利用可能、という制限がかけられることとなった。その後、1990年より後述するHELPへの補助金開始による委託受け入れを開始する。さらに1992年6月29日には「婦人保護事業の実施に係わる取り扱いについて」(厚生省生活課長通知第95号)により、婦人相談所の対象保護女子の範囲は未然防止の見地から「売春を行うおそれが当面ない者」にも拡大された。
 現在全国の婦人相談所は、2001年に施行された「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(以下DV防止法とする)」において配偶者暴力相談支援センターの機能も併せもつ中核施設として位置づけられ、DV被害をうけた当事者女性と同伴する子どもの緊急一時保護を行うとされた。

□婦人相談所における一事保護利用者数

 それでは実際に婦人相談所において一時保護された女性の件数はどのようになっているのだろうか。厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課作成の「婦人相談所において一時保護された女性の件数」統計によると、2000年度には3907件、うちDVを理由に利用するものは1873件で一時保護件数全体の48.0%を占めている。2001年度には4823件、DV理由が2680件、全体の55.5%となっている。2002年度には6261件、DV理由は3974件、全体の63.3%である。2002年度の一時保護件数のうち、婦人相談所以外の施設への緊急一時保護委託件数は1086件であるが、その委託先別の保護数は把握されていない。2003年3月1日現在、一時保護委託契約数は120、その内訳は母子生活支援施設(62)、民間団体(33)、婦人保護施設(15)、その他(10)となっている。このようにDV防止法施行後、DV当事者女性とその子どもの利用者数は年々増加傾向にある。
 DV被害を受けているのは日本人女性だけではない。次に、外国籍女性は実際どのくらい一時保護を利用できているのか見てみよう。2001年度の統計によれば全体で208件、一時保護全体に占める割合は4.3%であった。翌年度には321件、5.1%へと増加している。この一時保護数の中には後述する女性の家HELPなど民間シェルターへの委託件数も含まれている。上記利用者数のなかでDV理由の利用者内訳は把握されていない。それでは日本に在住する外国籍女性のDV被害者が存在すると想定されるであろうか。平成15年4月に発表された内閣府による『配偶者の暴力に関する調査』によれば、配偶者や恋人から身体的暴行、心理的強迫、性的強要のいずれかをこれまでに一度でも受けたことのある女性は19.1%との結果である。乱暴な推定ではあるが、2002年度における20歳以上の外国人登録をした女性の合計数、82万4421人で概算すると約16万人となる。つまり日本に滞在する外国籍女性の約16万人程度がDV被害を受けている可能性があると推定される。
 このように、全国で一時保護されている外国籍女性の実数と緊急支援を必要とする該当者推定数には大きな隔たりがある。その多くは、厳しい状況のなか適切な支援につながることなく潜在化しているものと推測できる。このため日本人以上に厳しい生活環境に置かれている滞日外国籍女性と子どもが、危機的状況のなかで支援を必要とし、緊急に避難を必要とする場合、利用できる最後の受け皿となるのが外国籍支援を行っている民間シェルターである。

■第3節 民間シェルターにおける外国籍女性支援

□女性の家HELPの活動

 女性の家HELPは1986年4月、当時のマスコミでも大きく報道されたアジアから人身売買によって連れてこられ、日本で売春を強要されるなどの深刻な人権侵害を受けた外国籍女性の増加を背景として設立された。いかに被害が甚大であっても公的支援が得られない上記外国籍女性に安全な休息場所と衣食住を確保し、必要経費を無償で提供し、安全に帰国、また必要な権利回復がなされることを支援活動の第一の目的としていた。HELPは個人、団体等からの寄付によって運営されているが、1990年4月から東京都から「外国人女性の宿泊所」として補助金が開始された。このように民間の先駆的な活動が公的政策のなかに正式に位置づけられたことは画期的な意味をもつものであった。
 利用者の条件は、女性であれば国籍、年齢、在留資格の有無、来所理由を問わず、利用希望者の「危険度」「緊急度」に応じて利用可能であることが最大の特徴である。設立から2003年度末までに日本人を含む3708人の女性と910人の子ども(男児のみ10歳までの年齢制限あり)が利用している。
 現在でも人身売買やDVなどが原因でオーバーステイ状態となり、日本の公的施設、社会福祉制度を利用できない外国籍女性とその子どもは無料で受け入れている。緊急一時保護施設であるため、滞在期間は原則2週間であるが、個々の実情に応じて延長が可能である。
 HELPの活動内容は、女性と子どもが精神的、肉体的に休息すること、またその後日本での滞在を希望する場合には日本での生活再建に向かうさまざまな諸支援を行う。人身売買により避難してきた場合、本人と母国の家族の安全が守られるよう配慮しながら帰国への諸支援、権利回復のための裁判支援等を行うことが主なものである。HELPスタッフも多国籍体制で利用者が母国語で相談が可能な態勢を取っているため、電話相談、緊急一時保護者の国籍はそれを反映している。スタッフが対応できない言語の利用者には適宜、通訳者を配置するよう心がけ、シェルター利用規則や生活案内も多言語で作成し、食事や利用者のための図書、ビデオ等の娯楽面も多国籍対応の支援を行っている。

□女性の家HELPの利用者数の推移と支援のあり方

 次にHELPの利用者数の推移をみてみたい。1986年から1997ン縁までは外国籍女性の利用が日本人女性を上回っていたが、1998年以降、日本人女性の利用が常に上回る形で推移している。DV被害を受けた日本人女性とその子どもや精神的問題を抱えた日本人利用者の増加、特に単身の中高齢日本人女性の増加、滞在の長期化がその背景として指摘できる。しかし避難を必要とする人身売買被害外国籍女性、オーバーステイ状態の外国籍女性とその子どもは定員を上回っても最優先で受け入れを行っている。2002年度の利用者統計をみてみると、。緊急一時保護利用者数は女性が152名、子ども72名の合計224名であった。日本人は85名で全体の56%、外国籍は11カ国、67名で全体の44%であった。国籍内訳はタイ人女性38名(子ども5名)、フィリピン人女性10名(子ども18名)、コロンビア人女性5名、韓国人女性4名と続く。来所理由は人身売買が58%、DVが31%、病気その他6%、ホームレス状態が4%、家族からの暴力が1%となっている。
 2002年度のHELP電話相談の内訳は日本人の他49カ国(無国籍、不明を除く)の外国人からの相談に応じた。電話相談総数は2540件、内訳は日本が1195件(47.6%)、フィリピン506件(20%)、タイ492件(19.6%)、中国64件(2.5%)、コロンビア26件(1%)と続き、フィリピン、タイ、中国で全体の40%を占める。相談内容(複数回答)は各種情報提供が25.1%、入国管理局、ビザ関連が20.9%、夫婦の問題が15.8%、家庭の問題10.5%、DVが10.4%である。
 最後に既存の公的施設と異なる、HELPにおける支援のあり方の特徴をまとめると以下のようになる。法的施策、支援態勢の不備による隙間に落ちた女性と子どもの受け皿となっており、日本社会、社会福祉制度等のひずみが凝縮し、顕在化している場所であるということである。さらに本筋の社会福祉制度からこぼれおちた女性を、再度主流の支援態勢に戻す、つなぎ直す役割も非常に重要である。
 さらに、「制度を利用できない利用者」を受け入れているため、新たな社会資源や制度利用・運用の道を切り開くための行政機関、国内外の関係諸機関との連携、またソーシャル・アクションが必要不可欠である。この経過のなかで外国籍女性支援についての知識や経験が豊富なことから、行政などからの支援要請に応じることが多く、多国籍対応(情報提供、通訳、翻訳、生活習慣、自国の食文化の尊重等)の重要性を認識し、支援を行っていることが特徴である。1990年より東京都から「外国籍女性の宿泊所」として補助金が出ているが、公的制度、機関を利用できない外国籍女性と子どもの支援活動を行うため、非常に厳しい運営状況にある。
by open-to-love | 2008-10-07 21:03 | DV(IPV) | Trackback | Comments(0)