精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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開かれた活動であるために…第1・2章

 ※来たる9月27日13時20〜16時、一関市千厩町字北方134の「一関市千厩酒のくら交流施設 東蔵」にて、心の病と共に生きる仲間達連合会キララ主催の「明るく生きる2008 こころのシンポジウム」が開かれます。その中の、おしゃべりシンポジウム「活動すること、仲間、つながり、心のケアについて考えよう」で、盛岡ハートネット事務局の私が「当事者・家族・支援者・市民交流をめざすネットワーク活動について」をテーマに話題提供することになりました。私のほか、当事者の方が「ひきこもりからの回復と仲間活動について」をテーマに発表されるそうです。コーディネーターは、精神保健ボランティアあおぞら会代表の神崎浩之さん、助言者は岩手県立南光病院の先生なんだそうです。
 で、下記が、その発表文です。

開かれた活動であるために
     -キララとハートネット

(9月27日 キララ「明るく生きる2008 こころのシンポジウム」資料)

はじめに
第1章 盛岡ハートネットの紹介
第2章 なぜハートネットはこうやっているのか?
第3章 キララとハートネット、似ているところと似てないところ
第4章 開かれた活動であるために


はじめに

 シンポジウムで盛岡ハートネットの活動を発表させていただくに当たり、さる8月23日、事務局の3人で一関市千厩の「酒のくら交流館」を訪問し、「心の病と共に生きる仲間達連合会キララ」(以下・キララ)の活動を見学させていただきました。それから、キララが主催したこれまでのシンポジウム開催要綱、演劇の脚本なども読ませていただき、演劇のビデオも見ました。知れば知るほど、キララはすごいな、と思います。と同時に、キララを知ることによって、自分たちの活動を振り返ることもできました。当事者活動としてのキララと、家族会活動から始まったハートネット。活動場所も、出自も、やってることもずいぶん違うけど、似てるところもあるよな、と感じるのです。
 似てるところ、それは「開かれた活動」であるということです。
 まずはハートネットの自己紹介(1、2章)。それからキララとハートネットを比較してみます(3章)。そして、最後の第4章「開かれた活動であるために」は、1~3章とは毛色を変えた、クローズとオープンをめぐるテクニカルな話。精神の分野は、これまでも、そして今なお閉ざされている部分が多いわけですが、そんな中で「開かれた活動」をするために事務局として考えていることについて、ちょっと触れたいと思います。


第1章 盛岡ハートネットの紹介

 盛岡ハートネットは2007年10月、誕生しました。もうすぐ1年です。事務局の3人はそれぞれ仕事やら家事やら育児やらを抱えていますから、無理しないでのんびり、のつもりなんですが、結局のところ、いろいろやってます。
 それはどんな組織か? 一言で言えば、超ゆるゆる。それは、さっぱり組織の体をなしていません。
 ポイントを箇条書きにしてみます。

【代 表】いない
【事務局】阿部稲子さん、山口みどりさん、黒田の3人
【会 則】なし。その代わりに「4つのルール」
    ♡代表は選びません。参加された皆さん一人ひとりが主役です
    ♡参加費の領収書は出しません。払うか払わないかは任意です
    ♡安心し楽しくおしゃべりしましょう。プライバシー厳守です
    ♡みんなで決めて、みんなの力でハートネットを育てましょう
【会員数】不明(例会のたびに来たい人が来ます)
【会 費】なし(例会のたびに実費数百円)
【活動場所】決まった場所はなし(あちこちに出没してます)
【参加資格】なし。誰でもどうぞ
     (主な参加者は家族ですが、徐々に当事者、関係者も増えてきました)
【活動ペース】2カ月に1回ぐらい
【活動内容】講師のお話&交流会の二本立て。シンポジウムもやりました
【情報発信】◇リーフレット
      ◇ニュース(例会のもようを紹介。通巻6号。毎号100部程度発行)
      ◇ブログ「Open, to Love」http://opentolove.exblog.jp/
      (開設は2007年4月、1日のアクセスは80件から140件
       08年9月18日現在アクセス1万9080件、記事数757件)
【岩家連との関係】微妙
【行政との関係】微妙
【目 的】まずは、まだつながれてない、独り悩み苦しんでいる人とつながること
【期 待】盛岡以外でも、いろんなネットワークが広がればいいな…


第2章 なぜハートネットはこうなっているのか?

 組織っぽくない、ゆるゆるハートネット。それは、言い出しっぺの黒田の性格がテキトーなこともなきにしもあらずですが、一応、盛岡における家族会活動や関係機関の現状と課題を何とかするための理論的考察(…なんつって、そんなに大したもんじゃないですが)に基づいた、一つの実践のつもりなのです。以下、課題を列挙します。

○既存の家族会活動の課題
 ◇家族だけ、がそもそもおかしい。一番大変なのは当事者なのに
 ◇家族会に入っておらず、孤り苦しんでいる人と、なかなかつながることができない
 ◇各家族会単位で活動し、横のつながりがない
 ◇おしなべて高齢化、会員減。一方で、患者も家族も増えているのに…
 ◇代表(会長)が一度決まるとなかなか代わらず、高齢化し、後任が見つからない
 ◇統合失調症患者の家族ばっかり集まっている。精神疾患はさまざまなのに
 ◇これだけ情報化時代なのに、情報に巡り会えなかったり、振り回されている人が多い
 ◇社会との接点がまだまだ希薄
 ◇世の中の動きに呼応した活動になっていない
 ◇こうした課題を自覚しつつも、「お金がないとできない…」「行政にやってほしい」「誰かがやってくれないかな」とかいう理由で、なかなか一歩が踏み出せないでいる
(詳しくは、ブログ所収の黒田の小論『家族会ネットワークをつくろう-盛岡ハートネットの取り組みから』を参照下さい)

○関係機関の課題
 ◇行政、病院、支援事業所…関係機関はごまんとあるのに、意外と連携してない
 ◇従来の家族会活動とはかなりの距離があり、おそらくはニーズが見えずらかった
(詳しくは、同じく小論『実効性ある連携への諸課題-建前と良心』を参照下さい)

○社会全体の課題
 ◇まだまだ精神障害のこと、精神障害者や家族のことを知らない
 ◇だから、いざ発病したとき、早期発見・早期治療がなかなか難しい…
 
 あれやこれや、課題はてんこもりです。一挙に解決とはいかない。でも、ちょっとずつ解決していくために、一歩を踏みだそう。というわけで、ハートネットは誕生しました。なお、阿部さんと山口さんという2人の稀有なキャラクターがいなかったら、ハートネットはできなかったでしょう。私は2人の生き方から多くを学んでいます。
 本当に「お金がないとできない」のか?「行政がやってくれない」とグチをこぼしている場合か? 独り苦しんでいる当事者や家族をよそに「自分はできないから、誰かがやってくれないかな」なんて待ってる場合か? いいえ、違います。別紙「キララ&ハートネットの軌跡」をご覧下さい。ハートネットの歩みは、わざわざ会則を決めたりNPOを取ったりとか七面倒くさいことをしなくても、行政から補助金を貰わないでも、自分たちの力で十分にいろんなことをできる、ということの証明です。
 みなさんご存知の通り、現代は「うつの時代」。日本では年間自殺者がずっと3万人を超えています。精神障害者も増えています。当然、精神障害者の家族も増えています。ところが、なぜ、それに反比例して家族会員は減ってるのでしょうか? 一昔前とは異なって、現代の当事者や家族はみんなで勉強したり、支え合う集まりがなくても大丈夫だから、もう家族会活動はいらないってこと? いいえ。今こそ、現代的な活動のあり方が求められているのです。だって、ハートネットの参加人数をご覧下さい。これだけの方に必要とされている取り組みなんではないでしょうか。
 ちなみに、関係機関が連携を進めるためにも、ハートネットは便利です。だって、ここは誰が来てもいいし、縦割りは無関係。立場を超えてみんなでワイワイおしゃべりできるんですもの。
社会との相互理解を深めるためにはどうしたらいいか? そんなに難しく考えず、まずは「どなたでもどうぞ!」と、こちらが扉を開けばいい。
 さて。ちょっと具体的に書きます。例えば、ストレスが溜まって溜まってもう大変だ!爆発しそうだ! という家族の方がいたとします。そんなとき、どうするか? 本屋さんには、入門書やら専門書やらがずらっと並び、ページをめくれば「ご家族も抱え込まず、自分の人生を楽しみましょう」なんて書かれています。なるほど。でも、分かったようでよく分からない。それができないから困ってるんですものね。
 そんなあなた、ハートネットに来てみませんか? 例会のおしゃべりで、家族のストレス対処法という話題になったとしましょう。私なら「煮物を作る」と答えるかな。100人いれば100通りのストレス解消法があります。筑前煮、治部煮、ビーフシチュー…。スパゲッティは、あんまり煮すぎるとデロデロになってコシがなくなるから向かないかも…むろん、料理に限らず、いろいろあるでしょうが。いずれ、そんな中で、自分に合ったストレス解消のヒントが見つかるかもしれません。本に書いてある一般的な知よりか、わが家ではこうやってますよという、体験的で素朴な知の方が、よっぽど役に立ちます。あと、例会のもようはニュースに書きますし、そこで出た話題については、私が持ってるいろんな本から参考になる記述を探し出し、ブログに収録してます(著作権については…みなさん、内緒ですよ)から、そちらも参考になります。
 なぜ、ハートネットが家族限定ではなく「誰が来てもいいですよ」ということでやっているのか。それは、家族だけで集まると、ついついグチのこぼし合いになってしまうからです。それはそれで仕方ない面もあるのでしょうが、当事者は当事者で、また別の思いを抱えていることを忘れてはなりません。ある当事者が言ってました。「家族会って、どうせ自分の悪口言ってるんでしょ。それって嫌だな」…。
 家族の論理は、しばしばパターナリズム(父権主義。頭ごなしに当事者を押さえつけてしまうこと)に陥ってしまう。そうならないためには、家族の論理と当事者の論理の対話が必要。ハートネットはそういう場でもあります。
 さらに、ハートネットには関係機関からの参加者、つまりプロの方も来ています。すると、何かディープで専門的なことを知りたいときは、わざわざその機関に出向かなくても、この場でちょっとみんなから離れて、個別に相談することだってできます。
 さらに、この場には、一般市民の方も来ている。先にストレス対処法について触れましたが、一般市民の方だってストレスはあります。その方の夫婦げんかの対処法から、ヒントが見つかるかもしれませんよね。精神保健福祉業界だけの狭い視野を超えた、ユニークなアイデアが飛び出すかもしれませんよ。
 岩家連との関係は「微妙」。というのは、ハートネットは岩家連加盟団体ではありますが、家族だけの集まりではなく、会則もなく、代表もいない。いわば、ちょっとはみ出している感じです。ゆくゆくは、岩家連も「家族」という名称が外れ、当事者主体で家族がサポートする組織に移行していけばいいなと思います。
 行政との関係、これまた「微妙」。ハートネットはこれっぽっちも行政主導ではなく、依存的でもありません。行政のみなさんに例会への参加を呼び掛け、「行政としてやるべきことはやってくださいね」と態度はデカいですが、「金くれ」とは言わない。これを、いい意味での〝緊張感ある関係〟と私は考えています(が、行政のみなさんはどう思ってるんでしょうね)。行政にとっては、ハートネット例会に来れば当事者や家族の生の声に接することができたり、何かを告知する際にハートネットのネットワークを活用するメリットもありますよ。
 「4つのルール」について。
 2つ目「領収書は出しません。払うか払わないかは任意です」は、たとえ数百円といえどお金がない人は無理に払わなくていい、ということ。加えて、参加される人が公務であろうとプライベートであろうと、偉い人であろうと偉くない人であろうと関係なく会費払ってもらいます、で、払ってる額は同じなんだから、ここは平場ですよ、上下関係はないですよ、ということの確認です。
 3つ目「プライバシー厳守です」は、言うまでもないことです。ここだけのつもりで相互の信頼関係に基づいておしゃべりしたことを、あちこちでへらへら言いふらされることは、当事者であろうとなかろうと、嫌なことですよね。
 1つ目「参加された皆さん一人ひとりが主役です」。第1章にハートネットの目的として「まずは、まだつながれてない、独り悩み苦しんでいる人とつながること」と挙げました。そこから先の目標については?…書いていません。どうしてかというと、私がとやかく言うことじゃないような気がするからです。参加された方一人一人が自ら目標を設定され、その目標に向かって進んでくれればいいな、と思います。だって、私は代表じゃないですから。この集まりには、代表がいませんから。つまり「参加された皆さん一人ひとりが主役です」。いつまでも誰かに依存してちゃ、自分の人生は切り開けません。ハートネット事務局の役割は、例会という場を設定するところまで。その場から何を学び、その場をいかに楽しみ、今後の自分の人生に生かしていくか。それは、その人自身しかできない。私はじめ、誰かが代わりにやってあげることはできないんです。
 4つ目「みんなで決めて、みんなの力でハートネットを育てましょう」は、1つ目のルールと同様、一人一人が主体性をもって参加してほしいということです。関連して、事務局としては、みなさんのニーズに基づいた運営をする、ということでもあります。そのために、プライバシーに差し障りない限り、ハートネットは例会も、例会に至るプロセスもすべてオープンでやっています。
(第3・4章に続く)
by open-to-love | 2008-09-20 18:03 | 黒田:キララシンポ発表 | Trackback | Comments(0)