休学支援:価値観を見つめなおしながら…
2008年 09月 18日
家族のための相談コーナー 今月の相談「休学支援」
□価値観を見つめなおしながら納得できる道の模索を
(津田塾大ウェルネスセンターカウンセラー 岡伊織)
■精神障害をもつ人への教育支援が少ない現状
中学までが義務教育と定められているわが国では、それ以降の進路は各自の選択に委ねられています。とはいえ、実際のところ高校へは9割以上、また大学へも高卒者の半分近くの人たちが進学しています。中学後の教育が特別なものではなくなり、また少子化が問題となる昨今、様々な教育支援策が提供されるようになってきていますが、統合失調症などの精神障がいを持つ人に特別にあわせた教育支援策はほとんどないのが現状です。
それでは、一度病気になったら在学、進学をあきらめなければならないのかと言うと、決してそんなことはありません。高校、大学の時期はちょうど統合失調症を発病しやすい時期ですが、休学して病状の安定を得た後に復学し、卒業していった生徒・学生たちを私も何人か知っています。
確かに学校生活は、授業を受けたり課題をこなしたり、友人関係を含めてなかなかエネルギーの要るもので、生じるストレスも少なくないでしょう。一定期間治療に専念し病状の安定をはかることは、学校生活を再開するためにもとても重要なことで、それには多くの場合休学または退学という形をまずは取ることになるでしょう。
このような時期は、先の見えない毎日にご家族の不安も募り、更に休学中の場合は経済的な事情も絡んできますので焦りも加わってくるかもしれません。
■復学を急がず進路の幅を広げる
高校や大学に籍があることはご本人にとって「とりあえず休息できる…」という安心材料になりますが、同時に、周りが復学を急かすと「早くよくならないと…」というプレッシャーから無理をしてしまい、せっかく落ち着いた病状が再び悪くなる危険性もあります。休学も、まだ不確かな先のこと(大学進学)に焦点を当てるより、大学進学を含めて進路を模索していける時期として捉える方が、ご本人の選択の幅も広がり、気持ちは楽になるのではないでしょうか。
回復の過程は、病状だけでなく、ご本人の周りにある社会資源や性質によっても異なるわけですから、一概にそのペースを定めることは難しいと思います。主治医から現在とこれからの診たてを聞き、ある程度の見通しを家族として持ちつつも、やはり大切なのは、今現在のご本人の経験そのものなのだということを認識しておく必要があります。
たとえ復学されなくても、病気を機に自らの進路を考え直し別の道を納得して選ばれる方もたくさんいらっしゃいます。このような方々は、病気を含めた一つひとつの経験を通して、人間としての成長をされているのだと思います。
■支援策が少ない中で利用可能な施策は
さて、はじめに精神障がいを持つ人に向けた教育支援策はないと書きましたが、その理由の一つは、精神障がいに関わる施策のほとんどが厚生労働省によるという現状にあります。教育施策は文部科学省管轄になりますので、関わりが乏しくなるのです。縦割り行政の弊害といえるかもしれません。しかし、それでは精神障がいのある方にとって利用可能な施策がないかというとそうではありません。
例えば、公立の中学校にはスクールカウンセラーが配置されていますが、高校でもスクールカウンセラーを置いているところがあり、多くの大学にもカウンセラーがいます。もし在籍校に彼らがいれば、休学・復学について相談してみるのも一つです。復学をするとしたら、その時に重要になってくる先生方との連携についても一緒に考えてくれるでしょう。
学校という枠組みの中で学業を続けていくためにはある程度の融通性が必要で、それは一人よりも、相談できる人と一緒に情報を得ながら考えた方が広がるのではないかと思います。
また、在籍校にカウンセラーがいない、あるいは学校に在籍していない場合、公的機関である教育相談センターがお住まいの自治体にもあると思います。そこでは高校生位までの方を対象に進路や学業の相談を臨床心理士などが受けています。各種学校についての情報も持っていますので、在籍校以外の道を考える際の助けになります。
■中学以後の進路として考えられるもの
中学以後の進路としては、全日制や定時制の高校の他にも単位制や通信制の高校もあります。通信制高校は、自宅学習を基本にレポート提出やスクーリングを受けることで高校卒業資格が得られます。
また、サポート校と呼ばれる学校も近年増えています。これは通信制高校の授業補習を行う民間の教育機関で、提携する通信制高校の単位を合わせて取ることで卒業資格が得られるところが多いです。サポート校の中には制服や校則などもあり、一般の高校と雰囲気の変わらないところもありますが、生徒に合わせた様々な支援体制をおいているのが特徴です。
更に、高校に進学しなかったり中退した人が、高卒者と同等以上の学力があると認定を受けるためにあるのが、高等学校卒業程度認定試験(高卒認定試験・旧大検)です。これは高校卒業の学歴を与えるものではないので、就職の際は高卒者と同等に扱われない場合もあるようですが、大学や専門学校への進学は可能になります。そして、16歳以上であればいつでも受けられます。
親にとって、病気になった子どもの進路を心配し心を砕くことは、その成長過程を見守っていくことに他なりません。自らの価値観を見つめなおしながら、ご本人が納得できる道の模索を共に進むことが大切です。
全福連「みんなねっと」14号(2008年6月)特集「休学支援」
□価値観を見つめなおしながら納得できる道の模索を
(津田塾大ウェルネスセンターカウンセラー 岡伊織)
■精神障害をもつ人への教育支援が少ない現状
中学までが義務教育と定められているわが国では、それ以降の進路は各自の選択に委ねられています。とはいえ、実際のところ高校へは9割以上、また大学へも高卒者の半分近くの人たちが進学しています。中学後の教育が特別なものではなくなり、また少子化が問題となる昨今、様々な教育支援策が提供されるようになってきていますが、統合失調症などの精神障がいを持つ人に特別にあわせた教育支援策はほとんどないのが現状です。
それでは、一度病気になったら在学、進学をあきらめなければならないのかと言うと、決してそんなことはありません。高校、大学の時期はちょうど統合失調症を発病しやすい時期ですが、休学して病状の安定を得た後に復学し、卒業していった生徒・学生たちを私も何人か知っています。
確かに学校生活は、授業を受けたり課題をこなしたり、友人関係を含めてなかなかエネルギーの要るもので、生じるストレスも少なくないでしょう。一定期間治療に専念し病状の安定をはかることは、学校生活を再開するためにもとても重要なことで、それには多くの場合休学または退学という形をまずは取ることになるでしょう。
このような時期は、先の見えない毎日にご家族の不安も募り、更に休学中の場合は経済的な事情も絡んできますので焦りも加わってくるかもしれません。
■復学を急がず進路の幅を広げる
高校や大学に籍があることはご本人にとって「とりあえず休息できる…」という安心材料になりますが、同時に、周りが復学を急かすと「早くよくならないと…」というプレッシャーから無理をしてしまい、せっかく落ち着いた病状が再び悪くなる危険性もあります。休学も、まだ不確かな先のこと(大学進学)に焦点を当てるより、大学進学を含めて進路を模索していける時期として捉える方が、ご本人の選択の幅も広がり、気持ちは楽になるのではないでしょうか。
回復の過程は、病状だけでなく、ご本人の周りにある社会資源や性質によっても異なるわけですから、一概にそのペースを定めることは難しいと思います。主治医から現在とこれからの診たてを聞き、ある程度の見通しを家族として持ちつつも、やはり大切なのは、今現在のご本人の経験そのものなのだということを認識しておく必要があります。
たとえ復学されなくても、病気を機に自らの進路を考え直し別の道を納得して選ばれる方もたくさんいらっしゃいます。このような方々は、病気を含めた一つひとつの経験を通して、人間としての成長をされているのだと思います。
■支援策が少ない中で利用可能な施策は
さて、はじめに精神障がいを持つ人に向けた教育支援策はないと書きましたが、その理由の一つは、精神障がいに関わる施策のほとんどが厚生労働省によるという現状にあります。教育施策は文部科学省管轄になりますので、関わりが乏しくなるのです。縦割り行政の弊害といえるかもしれません。しかし、それでは精神障がいのある方にとって利用可能な施策がないかというとそうではありません。
例えば、公立の中学校にはスクールカウンセラーが配置されていますが、高校でもスクールカウンセラーを置いているところがあり、多くの大学にもカウンセラーがいます。もし在籍校に彼らがいれば、休学・復学について相談してみるのも一つです。復学をするとしたら、その時に重要になってくる先生方との連携についても一緒に考えてくれるでしょう。
学校という枠組みの中で学業を続けていくためにはある程度の融通性が必要で、それは一人よりも、相談できる人と一緒に情報を得ながら考えた方が広がるのではないかと思います。
また、在籍校にカウンセラーがいない、あるいは学校に在籍していない場合、公的機関である教育相談センターがお住まいの自治体にもあると思います。そこでは高校生位までの方を対象に進路や学業の相談を臨床心理士などが受けています。各種学校についての情報も持っていますので、在籍校以外の道を考える際の助けになります。
■中学以後の進路として考えられるもの
中学以後の進路としては、全日制や定時制の高校の他にも単位制や通信制の高校もあります。通信制高校は、自宅学習を基本にレポート提出やスクーリングを受けることで高校卒業資格が得られます。
また、サポート校と呼ばれる学校も近年増えています。これは通信制高校の授業補習を行う民間の教育機関で、提携する通信制高校の単位を合わせて取ることで卒業資格が得られるところが多いです。サポート校の中には制服や校則などもあり、一般の高校と雰囲気の変わらないところもありますが、生徒に合わせた様々な支援体制をおいているのが特徴です。
更に、高校に進学しなかったり中退した人が、高卒者と同等以上の学力があると認定を受けるためにあるのが、高等学校卒業程度認定試験(高卒認定試験・旧大検)です。これは高校卒業の学歴を与えるものではないので、就職の際は高卒者と同等に扱われない場合もあるようですが、大学や専門学校への進学は可能になります。そして、16歳以上であればいつでも受けられます。
親にとって、病気になった子どもの進路を心配し心を砕くことは、その成長過程を見守っていくことに他なりません。自らの価値観を見つめなおしながら、ご本人が納得できる道の模索を共に進むことが大切です。
全福連「みんなねっと」14号(2008年6月)特集「休学支援」
by open-to-love
| 2008-09-18 00:23
| 教育
|
Trackback
|
Comments(0)