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精神科スタッフとの付き合い方―入院編

4章 精神科スタッフとの付き合い方

■入院と医療スタッフ

○入院の際の看護体制

 入院治療を受けたことがある患者さんもおられるでしょうが、私があえて主張したいのは、入院に関してもその病院を評価する際に決め手となるのは看護師でしょう。そのわけは、入院中に最も接触機会が多く、患者さんのいろいろなお世話をする看護師のホスピタリティー(おもてなしの心)の質が、患者さんの居心地のよさを決める重要な要因になるからです。
 たいていの精神科病院では、1人の医師が受けもる入院患者は30〜60人程度と思われます(大学病院は例外で、研修医も含めて受けもち患者は医師1人あたり10人以下のところがほとんどです)。一方、看護師の人数は病院によってまちまちです。医療保険制度下で行われている現在の規格診療では、入院基本料1の看護体制をとっている病院では、患者さん2人に対し看護師が1人以上在籍し、かつ看護師(正看)比率が70%以上ですし、対極の入院基本料7の看護体制であれば、患者さん6人に対し看護師1人、そのうち看護師率が20%以上40%以下となります。ただ、看護師の勤務体制は実際には3交代制(日勤、準夜勤勤務:夕方から夜中、深夜勤務:夜中から朝まで)ですので、夜勤の人数は少ないとはいえ、昼間患者さんのお世話をできる看護師の割合はもっと低くなります。
 診療報酬や人件費とのバランスもあるので一概に「いい病院ほど看護師が多い」とはいえませんが、それでも患者さん5人に対して看護師さんが1人くらいはいないと、患者さんへの細かな対応、ぬくもりのあるお世話は難しいといえるのではないかと思います。
 なお、薬剤師も主治医と連携し、入院中の患者さんごとに薬剤管理指導記録を作成し、投薬に際して必要な薬学的管理(副作用に関する状況把握を含む)を行い、必要事項を記入するとともに、当該記録に基づく適切な患者指導を週1回以上行っている病院が増えています。
 理想としては、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師がチームをつくり、患者さんへのサービスを充実してほしいと思います。たとえば、管理栄養士も病棟に足を運んで、患者さんに味付けやもっと食欲が出るメニューなどを聞いて工夫をこらしたり、鼻から入れたチューブで摂取している患者さんには、個々の事情にあわせた調理もサービスしてほしいものです。あるいは臨床検査技師にしても、前日に主治医といっしょに患者さんのもとを訪れて、検査内容の説明などをして患者さんの事前の不安を軽減するよう努力してもらいたいと思います。こういったことは今後さらに議論されていくべきで、実際に各自治体ではそのようなサービスを充実させた病院づくりが進んでいると聞いています。

○入院中の面接と医師のスケジュール

 入院中の主治医は、1週間のうち2〜3回は午前中は外来を担当していますから、入院している受けもち患者さんへの対応はそれ以外の日か、外来のある日の外来終了後となります。具体的にいいますと、主治医が月、水、金と午前中外来を担当する場合、入院患者さんを診るのは基本的には月、水、金の午後と火曜日と木曜日となります。しかし、たとえば水曜の午後は医局会議があって、それ以外の日にも症例検討会(カンファレンス)があったりして、実際には半日を1コマと考えると1週間に6コマぐらいしかありません。半日×6コマで30〜60人ほどの入院患者さんを診るわけですから、半日で5〜10人くらいを診察することになります。
 実際は、毎日診なければならない閉鎖病棟(特に個室)の患者さんが何人かいて、その患者さんは急性期で症状も悪い方が多いので、1人の診察や処置にかなりの時間がかかる場合があります。また、外来患者さんの予約入院の対応があったり、急な入院患者を担当したり、入院してくる患者さんの入院手続き(本人や家族との面談、症状の聞き取り、治療の説明など)や処方をしなければなりません(1回の入院手続きで1〜2時間かかります)。したがって、そういう患者さんを優先して診たあとに、病棟のほかの患者さんのところへ行くことになります。
 一方で、開放病棟の患者さんの入院中のスケジュールは、これまた結構過密な場合があります。SST(生活技能訓練)や作業療法などがあり、さらに院内の行事(運動会やクリスマス会、散歩など)への参加もあります。結局こういう環境ですから、開放病棟で一応症状が安定している患者さんが主治医に訴えを聞いてもらったり、カウンセリングを受けたりする時間は、1週間に1〜2回、約10〜20分くらいとなります。
 上記は平均的な時間配分を基準にして出した数字ですが、もしあなたが「主治医にどうしても、もっと時間をつくってもらってじっくり話をしたい」と思えば、①遠慮せず、主治医に時間をとってもらいたいと看護師に相談してアポイントメント(予約)をとってもらう、②主治医が当直する日、あるいはいちばん時間をとりやすい日の、比較的時間があきやすい夕方や夕食後に時間をとってもらう、などの方法をとるのがよいでしょう。
 また、急な訴えや、問題が起きて早めに主治医に相談したいことがあれば、看護師にそのむねを告げ、主治医に早く会えるようにしてもらいましょう。

○家族と主治医の関係

 患者さんの症状によっては、あるいは事情によっては(患者さんの意思の疎通がとれない場合など)、主治医は治療上まず患者さんのご家族と相談しなければなりません。ですから患者さんのご家族にとっても、主治医との相性は大事な問題となります。
 また、患者さんのご家族は、主治医にとっても治療上重要な情報源であり、症状に関する客観的な情報が、その家族から得られることが多々あります。
 主治医はできる限り患者さんのことを聞きたいと思うでしょうし、家族の方も治療のためにいろいろと相談したいことがあるでしょう。そのときには、やはり、遠慮なく早めに看護師を通じてアポイントメントをとって、相談したいときに主治医と会うようにしましょう。とにかく、医師も過密スケジュールで勤務していますので、看護師に頼んでアポイントメントをとることが双方にとってスムーズに面会時間をとるいちばん便利な方法ではないかと思います。

○看護師への感謝の気持ち

 脳・神経系の病気の治療には「静養と規則正しい服薬」が基本であり、患者さんご自身にとって「居心地のよい、安心して休める」環境が必要です。そこで、その環境に関しては、入院中は何といっても看護師とのお付き合いが重要な部分を占めます。
 身体的な不都合があるとき、ちょっとした悩みを聞いてほしいとき、主治医と話したいのでアポイントメントをとってもらうなど、ナースコールをしたり直接ナースステーションに行ったりして接触することが多いと思われます。患者さんの心身の世話(食事、入浴、服薬、着替え、散歩の付き添いなど)、悩み相談、医師への仲介(面会の希望や外出許可など)といったことで、いろいろとお世話になるわけです。医療はサービス業ではありますが、それでも患者さんの「感謝の気持ち」が看護師や医療スタッフに伝わると、私たちはうれしいものです。
 患者の皆さんも病気でつらいでしょうが、看護師もかなりの重労働であり、患者さんのお世話を懸命にしていますので、もし、患者さんの気分がよいときにでも、「いつもありがとう」といわれると、やはり気分もいいもので、いっそう世話のしがいが出てくるというものです。確かに主治医だけでなく、担当の看護師の相性もあり、お互いに誰とでも相性が合うわけではないでしょうが、患者さんの側からしても「気持ちよく医療サービスを受ける」には、看護師に気持ちよく世話をしてもらうのがコツだと思います。
 また、看護師による医師の評価は、かなり当っているものです。看護師から見て「いい先生」という評判の医師は、結構いい医師(名医)であることが多いと思われます。患者さんにとって看護師の評判は重要な情報源でもあります。

 一方、医師の看護記録への信頼度は大変なものです。先にも述べましたが、医師は忙しいとき、あまり病棟に出られないことがあります。そのようなときには夜間(患者さんがお休みになっている時間)にナースステーションへ行き、カルテの看護記録をみて、その日の患者さんの状態を確認することも結構あります。私は昼間病棟に行けなかった日は、必ず夜にその看護記録をみていました。そこには直接主治医にはいいにくいことや、患者と主治医の関係ではなかなか気がつかないことが書かれていることが多く、大変参考になりました。ですから、主治医にいいにくいことは、どんどん看護師に話してください。

○セカンドオピニオンについて

 従来からアメリカなどでは、特にがんを手術で切除するか、あるいは放射線治療にするかなどを判断する際は、複数の医師の意見を聞いたうえで、最終的に患者さん自身が判断することが多くなっています。近年日本でも、医療過誤をめぐるトラブルや患者さんの意識の高まりを受けて、セカンドオピニオン(第2の意見を聞く)が広がってきています。
 ただ、精神科は少し特殊な科でもあると思います。がんの手術のときのような早速の判断を仰ぐケースは少なく、やはり長期にわたって治療やリハビリテーションを続けていくうえで、患者さん側も「長い目」で治療方針を評価してほしいと思います。初めはどうもなじめなかった主治医やスタッフが、病気の改善、気分の改善にしたがって、実はなかなか味のある人物だったんだなと見直すということも結構あるようです。
 そもそもセカンドオピニオンとは、主治医との良好な関係を保ちながら(最低限の礼儀は必要で、悪意をもって今の主治医の欠点ばかりを探すようなことはいけません)、複数の医師の意見を聞くことです。しかしながら主治医と患者さんがお互いにその意図を理解できず、治療契約がうまく結べそうにないときは、患者さんのほうから「医師を変える」ことにもなるかもしれませんし、主治医のほうから「私の治療に関してあなたの納得が得られないのなら主治医(病院)を変えますか」といわれるかもしれません。
 精神科医療の場合、診断からして、客観的な数値による確定診断ではなく、面接での医師の主観による診断で病名が決まりますし、医師によっては、病気に対する考え方があなたと違うことがありえます。また、医師やクリニック、病院によっても、診療の質やリハビリテーションにおける作業療法のプログラムの種類や質に差があることも考えられます。そこで、患者さんと主治医で判断し、納得して、「安心して気分よく」治療を受けるため、主治医以外の医師の意見を聞くこともひとつの手段です。
 納得して治療法を選ぶことは、患者さんのもつ基本的な権利ですし、あくまでも患者と医師は対等で、治療は医療サービスの契約で成り立ちます。「どのような薬を飲めば予後がいいのか」「どんなリスク(副作用)があるのか」「ほかにどんな選択肢があるのか」を知ったうえで治療を受けることは重要なことです。セカンドオピニオンは、患者さんの権利を守ると同時に、医師にとっても治療契約をきちんと結べて、トラブルを回避するなどのメリットがあるかもしれません。
 実際に主治医以外の医師に意見を聞く方法としては、①保健所や精神保健福祉センターに相談、②ほかの病院やクリニックに行く、③同じ病院の医師に相談(これは、場合によっては主治医の面子をつぶす危険性があるので、それこそ信頼できる看護師を通じて「参考にほかの医師の話も聞いてみたい」と申し出るなど慎重に対応したほうがいいかもしれません)、さらには、④疑問点を本で調べて主治医と相談する、⑤インターネットで情報を集めて主治医と相談する、といった方法があると思います。
 補足しますと、③の同じ病院内でもいろいろな意見を参考がてらに気軽に聞けるような医師陣やスタッフが揃っている、そしてそのような連携がうまくとれているならば、それ自体がその病院の「程度のよさ」を示しているのではないでしょうか。そういう雰囲気のよい病院にかかりたいものですね。

(岩橋和彦編著『精神科医療サービスを上手に受ける方法 心の問題で困ったときに』法研、2006年)
by open-to-love | 2008-06-17 21:45 | 精神科病院 | Trackback | Comments(0)