精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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家族会ネットワークをつくろう!−下(2008年5月再編)

家族会ネットワークをつくろう! -「盛岡ハートネット」の活動を通じて- 下
(2008年2月8日 県精神障害者家族会長会議資料に加筆、再編)

5-付記 家族会長会議での質疑応答を通じて

本小論は2008年2月8日、盛岡市繋のホテル紫苑で開かれた岩家連家族会長会議のゲストとして、奥州市家族会連合会事務局長と、「盛岡ハートネット」事務局の私が招かれた際、発表資料として配付したものです。
会議には、県内各地の単位家族会長約20人が参加。奥家連とハートネットがそれぞれ取り組みを発表したほか、各家族会の活動報告もありました(ブログ「岩家連」のカテゴリーに「2007年度岩家連家族会活動報告(2007年度岩家連家族会長会議資料)」として収録しています)。
会議は午後3時から5時まで2時間。私は初参加でしたので以前の会議の様子は知りませんが、参加者からは活発な意見や質問が飛び出し、おそらくは近年まれに見る白熱の会議だったかと思います。岩家連の現状に対する私の批判と問題提起、それに対し「ここまで書かれて(言われて)黙ってられっか!」とやおら立ち上がった岩家連事務局長の新里進さんの口ぶりから、私と新里さんとの間で感情的な対立が生まれたと受け取られた向きもあるかもしれません。でも、心配なさらないでください。諸先輩が30年間にわたり築いてきた岩家連を受け継いでいくため、どうすべきかを考える上で、私は私なりの解決策を示し、新里さんは30年積み上げてきた熱い思いを吐露した。そういうことです。
会議終了後、家族会長のみなさんは宴会へ。私は自宅に戻って家事を済ませ、大急ぎで再び会場へ。…が、宴会はすでに終わり、みなさん既にホテルの部屋へ。新里さんの部屋をたずねると、やっぱり、新里さんはワンカップをかっぽかっぽと飲んでおりました。
それから、新里さんは再び、自分がどれほどの苦労をして岩家連をつくってきたか、縷々語りました。県内市町村あまねく回って、精神障害者がいる家庭を一軒一軒訪ね、家族会結成を呼び掛け、自腹で全家連大会に参加し、家族会ニュースを1人で130号まで書き続けたこと。精神科医を講師に招いた講演会を主催し、集まった多くの家族に「家族会に入ってください」と呼び掛けたものの、さーっとみんな帰ってしまったこと。それでも地道に呼び掛けを続け、少しずつ会員が増えてきたこと。毎年県内各地で県精神障害者家族大会を開き、県や市町村と折衝をし…。退院後の当事者のため、これまた身銭を切って作業所を立ち上げ、1994(平成6)年に作業所補助金が出るまで指導員に月3、4万円しか給料を払えず、作業所から一般就労へメンバーを送り出したが、ただの1人として実現せず、ボロボロになって帰ってきて、引きこもって…。と同時に、バスをチャーターし岩手から大挙して全家連大会に参加し、帰途は観光をしたり、温泉に入ったりと楽しい旅行をした思い出話も。
ようやく精神障害に対する社会の理解が進み、県内各地に作業所ができてきたと思ったら、今度は自立支援法の施行で利用者の1割負担が導入され、利用者が作業所を辞め…。
そして、新里さんは言いました。「黒田さんは、オレらが30年前にやってきたことを、またやろうとしている」。そうかもしれません。でも、やっぱりそれは違います。私たちは新たに一から何かを始めよう、というわけではないからです。新里さんたちがやってきたことの上に乗っかって、地域ネットワークをつくろうとしているだけなので、30年前に比べれば、はるかに楽なのです。私は岩家連に入ってたかだか2年。今よりはるかに差別と偏見があった当時の苦労、想像も付きません。そして、そうして文字通り血と汗と涙で築き上げてきた岩家連、そこに注いできた新里さんたちの苦労が、今、会員の高齢化によって崩れ去ろうとしている現状に危機感を感じ、そしてさらに、岩家連の危機によって、まだ支援の手から遠く離れ引きこもっている無数の家族がつながる手立てを奪われることがあってはならないと思い、できることから始めようと思っているだけなのです。
午前零時を回るころ、「じゃ、そろそろ」と部屋を出ようとした際、新里さんに握手を求められました。80歳とは思えぬ力強さ。固く握手を交わし、別れました。
 
さて、家族会長会議の場、あるいはその後ロビーでタバコ吸ってるときとかに寄せられた質問と、その答えを以下、まとめました。参考にしていただけたら幸いです。

Q.盛岡ハートネットの交流会の会場だが、ふれあいランドとか駐車場のあるところでできないのか?
黒田「すいません。今参加しているメンバーの中心は、盛岡市内の女性ですが、車がない人もいるので、バスの便を考え、なるべく市中心部に設定しています。盛岡市福祉総合センターにはちょっとだけ駐車場がありますが、プロジェクターがないという欠点があります。現在はパソコンを使って発表するケースが多いのですが、市の福祉センターにプロジェクターがないというのは、信じがたいことです」
Q.平日の昼間だと参加できない。土日とか夜はできないか?
黒田「主婦の場合、夜は厳しいです。私自身、家事と育児がありますんで…。いずれ、参加者の一番来やすいのが平日の午後なんですが、それだと作業所関係の人や、昼間稼いでいる人は来れない。会を重ねたら、そのうち土日や夕方以降にも会を開いてみたいと思います」
Q.指摘の通り、未だに家族会に入らず、また受診に至らず、ひたすら引きこもっている家族はいっぱいいる。私も、何人も知っている。その人たちにどう声掛けするか悩んでいる。どうやって声を掛ければいいのか?
黒田「声を掛けるためには、その人がつながる『場』がなければなりません。あなたが一人で抱えるには限界があるし、一個人が出来ることにも限りがある。4、5人で抱えるのも大変だ。そこで、私たちが考えたのは、ハートネットというゆるやかな『場』です。一人でも、4、5人でも大変だから、この際みんなで力を合わせてみよう、という発想です。
来る方の立場に立って考えて見れば、4、5人の少人数の集まりに参加するより、30人位の集まりにひょっこり顔を出す方が気楽かな、と思います。人の中にまぎれるし、名乗らなくてもいいし、講演会気分で気楽に参加できる。声を掛ける方だって、『○○家族会に来ませんか』より、例えば『今度、紫波町保健師の八重嶋幸子さんの講演会やるんだけど、顔出してみない? すごく勉強になりますよ』という方が、断然誘いやすいですよね。さらに、少人数の家族会が新たな会員を迎えるにあたっては、すでに会員になっている家族の意見も聞く必要があります。新規加入者と家族会メンバーの相性の問題もありますね。その点、ネットワーク方式は、それやこれやをあんまり考える必要がないので、気楽です。
そもそも家族会に入るとは、「診断名が付いた患者の家族の仲間入りをする」ということです。入るにはかなり勇気がいる。まして、家族会として、まだ診断名がついてない段階の人の家族に声を掛けることは、なおさら難しい。自分自身の経験を振り返っても、診断名が付く前こそ、当事者も家族も一番困難な時期ですが、その時期に『うちの家族会に入りませんか』というアプローチはできない。そのアプローチ自体『あなたの子どもは精神障害者だ』というレッテル貼りと受け止められてしまう可能性もある。『うちの子は病気なんかじゃない!』と逆ギレされるかもしれません。まして、親が診断が付く前の当事者に内緒で家族会に入って、それが当事者にばれたら…悲劇です。精神障害の特性は、本人に病識がないことですから『自分は精神障害者じゃないのに、お母さんは、自分に内緒で、自分のことを精神障害者だと決めつけて、家族会に入ったんだな!』となる。
病院家族会に入るには、当事者がその病院に入院または通院していることが条件。地域家族会(保健師主導型)に入るには、その市町村の住民であることが条件。地域家族会(作業所運営型)は、作業所運営が忙しくて、いわゆる家族会活動をする暇がない。
こうした諸課題を一挙に解決するのが、こうしたもろもろの壁を取っ払い、小さな家族会が力を合わせてネットワークの場をつくり、そこを、困っている人の窓口とすることです。それがハートネットです」
Q.だれか身近に困ってる人がいるとして、その人にハートネットを紹介しようかな、と思ったとします。そのとき、その人に黒田さんの名前とか携帯番号とか、しゃべっていいの?
黒田「どうぞどうぞ。黒田大介と申します。携帯は090・2883・9043です」
Q.どうして若い人が家族会に入らないんでしょうかね?
黒田「私は35歳で、みなさんに比べ思いっきり若いです。どこに行っても、そうです。何でか? 私の方が聞きたいくらいです。中途障害である以上、親の場合は50代とか60代であることは仕方ないとして、伴侶や兄弟姉妹が当事者の人がいないわけないんですけどね。どうなってんでしょうね。
若い人は、家族会のような濃密な人間関係を敬遠する傾向があるかもしれませんね。最近は世の中全体の人間関係が希薄です。地域社会が崩壊し、隣近所に誰が住んでるんだか知らない時代ですからね。でも、家族会には出たくないけど、情報は得たいという若い人は結構います。その意味でも、そんなに濃密じゃない人付き合いで気楽なネットワークは有効だと思います。実際、これまで4回、交流会を開きましたが、家族会に入ってない若い家族の方も何人か参加してます」
Q.見学に行きたいんだけど、盛岡以外から行ってもいいの?
黒田「どうぞ、誰が来ても構いません。会費払ってもらえれば(笑)」
Q.それにしても、盛岡は遠い。
黒田「そりゃそうです。ガソリン代だって高いです。ですから、みなさんがみなさんの地域で、その地域ならではのネットワークをつくればいいんです。地元の役所の障害福祉課の担当者さん、保健師さん、お医者さん、地域生活支援センターの所長さんとかを講師に招き話をしてもらい、それから交流会を開いてお互い仲良くなったりしてみてはどうですか。盛岡ハートネットのように規約も会費もなし、という方式もあれば、奥家連のようにきちんと会則をつくり、年会費制できっちりやる方法もある。それぞれの地域らしいネットワークづくりをすればいいんだと思います。頑張ってくださいね」
Q.会費200円とか300円でやっていけるの?
黒田「ええ。だって、やってますから」
Q.盛岡ハートネットのことを、新聞やテレビで取り上げてくれればいいのに。
黒田「オレ日報の記者なんですよね(笑)。で、自分のことを自分で書くのは公私混同、自作自演だからできません。でも、いずれにせよ、一番強いのは、口コミですよ。私は自分のプライバシーを主張しませんので、黒田のことやハートネットのことを好きに言いふらして下さいな。口コミで、輪をどんどん広げてくださいな」
(2008年5月23日)
by open-to-love | 2008-05-23 22:00 | 黒田:家族会長会議講演 | Trackback | Comments(0)