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社会福祉を支える女性ー下

林千代編著『女性福祉とは何か』
(ミネルヴァ書房、2004年)

第9章 社会福祉を支える女性(堀千鶴子)

□ホームヘルパーの実態

 次に、介護職の状況についてみてみたい。既述したように、現在、社会福祉施設において介護業務に従事しているのは、圧倒的に女性である。1999年に日本労働研究機構によって実施された「ホームヘルパー就業意識調査」(以下、「意識調査」と略)においても、分析対象となったホームヘルパーのうち、女性の割合は96.7%であり、ホームヘルプサービスの担い手のほとんどが女性であった。こうした結果から、施設・在宅を問わず、介護業務に従事しているのは女性であることが理解できる。そこで、女性介護職の労働実態の一端を、特に女性割合が高いホームヘルパーの就業状況から浮き彫りにしたい。なお、資料として上述の「意識調査」を使用した。
 ホームヘルプサービスにおける女性労働者の置かれた状況として、第一に非正規労働の割合が高いことが挙げられる。「意識調査」では、雇用形態を以下のように3つに分類している。
 ①「正規職員:市や団体等の職員として本採用されている者」
 ②「常勤ヘルパー:正規職員以外で、1日6時間以上かつ週5日以上働いている者」
 ③「パートヘルパー:正規職員、常勤ヘルパー以外」
 「正規職員」以外は、時間数の違いはあるものの、どちらも非正規職員である。「意識調査」におけるホームへルパーの雇用形態で最も多数を占めているのは、「パートヘルパー」(47.7%)であり、「常勤ヘルパー」(26.3%)、「正規職員」(21.5%)と続いている。約7割が非正規労働者として雇用されているのである。前述の施設労働者と同様、ホームヘルパーにおいても非正規労働者が多い。すなわち、女性労働者の非正規化が進行しているといえよう。
 しかし、雇用形態に関する希望をみると、現在「常勤ヘルパー」である者のうち、約7割が「正規職員」を希望している。正規職員を希望しているにもかかわらず、非正規として働かざるを得ないのである。また、非正規職員であるとはいえ、長時間労働に従事している。例えば、「常勤ヘルパー」は、1日6時間以上かつ週5日以上働いている者であるが、雇用時間が「8時間」「8時間を超える」者は、併せて4割を超えており、長時間労働者が多い。身分的に不安定なまま、長時間労働をこなしている実態が浮かび上がる。
 第二に、正規職員と常勤職員の賃金格差が挙げられる。表9−3で、雇用形態別月収をみてみたい。「正規職員」では、「15万円以上20万円未満」が約4割と最も多く、次いで「20万円以上25万円未満」が2割強であった。「常勤ヘルパー」では、「15万円以上20万円未満」が約6割、「10万円以上15万円未満」が約2割と続いている。「パートヘルパー」では、「2万円以上5万円未満」「5万円以上8万円未満」が、約3割ずつであり、「正規職員」「常勤ヘルパー」と比較すると、非常に低収入である。しかし、それ以上にここで注目すべきは、「正規職員」と「常勤ヘルパー」との格差である。表9−4から、週5日勤務で、1日の労働時間が8時間であるケースを比較してみると、「正規職員」では、「15万円以上20万円未満」「20万円以上25万円未満」の順であるが、「常勤ヘルパー」では、「15万円以上20万円未満」「10万円以上15万円未満」と続く。労働時間は同様でも、雇用形態によって収入に大きな差が生じている。
 第三に、男女間に期待される業務内容の相違がある。男性ヘルパーは、まだまだ少数であるが、その存在意義が注目されはじめている。しかし、男性ヘルパー参入を促す論調には、男性は「仕事に対するプロ意識が高い」、「肉体的にとてもハードな仕事なので、男性スタッフの力は欠かせない」、「企画力がある」「知的労働に対する能力が高い」「福祉業界のIT化を進めることに貢献できる」、等がみられる。換言すれば、男性ヘルパーは、プロ意識が高く、肉体労働に適しており、企画やコンピューター操作といった知的労働が得意であるとみなされている。こうした見方は、介護分野における「男性役割」と「女性役割」の二分化であろう。あらたな職務分離の再生産がなされている。
 さらに、男性ヘルパーの参入は、賃金上昇といっt問題提起の契機となっている。男性も女性も、労働に適した賃金が支払わなければならず、男性だけが「食べていけるだけの金額になること」を求めているのではない。それにもかかわらず、男性の参入=賃金上昇が必要とされる。そのことは、男性が家計中心、女性は補助的労働といった構図の強固さを窺わせる。

第4節 女性社会福祉労働者の連帯

 これまでみてきたように、女性社会福祉労働者は、多様な差別状況に直面させられている。そうした中で、社会福祉実践を行っていくためには、女性社会福祉労働者の連帯は欠かせない。こうした連帯を可能にする社会福祉運動には、①社会福祉労働(組合)運動、②全国障害者問題研究会や全国公的扶助研究会等の研究団体を中心とした社会福祉研究運動、③全国保育団体連絡会や共同作業所全国連絡会(管理人注:現「きょうされん」)、全国婦人保護施設連絡協議会等の課題・分野別に組織された運動等がある。女性福祉を実践する現場労働者たちは、女性の置かれた状況に自覚的にならざるを得ない。そのため、女性福祉研究運動に該当するものに「婦人母子問題研究会」があった。この会は、「婦人保護事業って一体何だろう」という疑問を動機として、女性ケースワーカーたちによって自主研究会を進めるために発足された。また、③課題・分野別に組織された運動団体の一つに、「女性福祉ネット」がある。「女性福祉ネット」は、社会福祉施設労働者、研究者、学生等多様なメンバーによって構成され、女性福祉の確立をめざしたネットワークであり、「女性福祉の現場をエンパワーメント」することを目的として1996年に設立された。この会では、女性福祉に関する研究のみならず、例えば社会福祉事業法改正にあたって婦人保護事業を社会福祉事業として明確に位置づけるような請願活動を行っている。つまり、「福祉問題解決・緩和のための具体的な政策提言・改革案・意見」の提示であり、また、現場からの情報発信をめざしている。こうした運動は、女性社会福祉労働者にとって、社会における女性の位置づけを相対化させ、実践としての女性福祉理念の具現化に寄与しているといえよう。

第5節 ジェンダー・バイアスの解消に向けて

 以上、社会福祉領域における女性労働者の置かれた状況を確認してきた。社会福祉施設において女性労働者は、量的には圧倒的に多数を占めるが、介護・保育・調理等、直接的に生活のケアを担う職種は女性、管理や指導といった職種は男性という職域分離が行われていた。社会的公正に敏感であるはずの社会福祉施設においても男女の賃金格差が大きく存在している。そして、女性の非常勤率の高さや就業継続を困難とする労働環境の未整備といった問題がある。また、ホームヘルプサービスにおいては、非正規労働率の高さ、正規労働者と非正規労働者の賃金格差が顕著にみられた。さらに男性ヘルパー参入によって介護における「男性役割」「女性役割」の再生産という新たな問題が生じている。このような多層にわたって女性が直面する状況は、性別役割分担がシステムとして構築されると共に、施設長等の経営者及び労働者自身に性別役割分担観が依然として内面化されていることに起因していよう。これらの状況は、「労働(雇用)の女性化」の特徴であり、社会福祉領域に留まらない女性労働全般にとっての問題である。特に社会福祉においては、女性を家族の含み資産とし、「ケア役割」に留めるような政策推進によって、さらに固定化されてきた。
 長らく社会福祉労働は、奉仕や献身としてとらえられてきた。その矛盾は、第1部第1章において林が言及しているように、岩崎盈子によって昭和初期にすでに看破されている。そして、現在では、社会福祉士、介護福祉士といった国家資格導入や社会福祉労働研究、ソーシャルワーク研究の蓄積によって、社会福祉労働の専門性が認知されている。それにもかかわらず、女性社会福祉労働者を取り巻くジェンダー・バイアスは、等閑視されがちである。専門的労働として、利用者のかかえる生活問題解決への援助を行うためには、女性労働者自身の人権が保障される労働環境・条件がなければならない。そのためには、社会福祉現場において育児休業規定等の徹底による女性の就労継続を容易にすることや、社会福祉運動の展開による職場改革から社会変革への問題提起が必要である。その方向性は、社会福祉領域にとどまらない社会全般における性別役割分担(観)の解体であろう。それこそが、女性社会福祉労働者を巡るセクシズムの解消であり、社会福祉領域における利用者・労働者両者に対するジェンダー・バイアスの解消に繋がるといえよう。

※なぜ「女性社会福祉労働者を取り巻くジェンダー・バイアスは、等閑視されがちである」のか? 一点、指摘させていただけば、それは、「男女共同参画」と「福祉」がリンクしてないことも一因なんじゃないでしょうか。で、両者がリンクすればいいなーとは思いますが、リンクしないからこその「男女共同参画」でもあるところに、問題の根深さがあるのではないでしょうか(黒)
by open-to-love | 2008-05-14 11:57 | 障害福祉と女性問題 | Trackback | Comments(0)