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斉藤環著「ひきこもりはなぜ『治る』のか?」

書評「ひきこもりはなぜ「治る」のか? 精神分析的アプローチ」斎藤 環著

 北上市出身で「『ひきこもり』救出マニュアル」など実践的知識の普及に努めてきた著者が、ひきこもりの精神病理、支援や治療のあり方について、理論的な裏付けや具体的な対応方法をまとめた。
 理論を学べば、内面が複雑になる。そこから、膠着(こうちゃく)した家族関係を「快い意外性」でほぐしてくれるようなアイデアが生まれる―。こんな思いから、著者はジャック・ラカン、ハインツ・コフート、メラニー・クライン、ウィルフレッド・ビオンの難解な精神分析理論を分かりやすく紹介。
 それらの共通した考えは「子どもの成長の過程というのは、親との関係性において、『安心』を基盤とした自立の試みの繰り返し」ということ。
 まずは、安心と共感から。それから、回復へ向け、本人がくつろげる関係を他者と持つことの重要性を説き、親が本人に対しべったりでも突き放しでもなく「ほどほど」の関係を保つこと、メールではなく対面での誠実な会話を勧める。
 「ひきこもりの個人精神療法」の章も示唆に富む。本章で著者は自らの治療手順を包み隠さず開示。自身が常に心掛けていることとして「治療の享楽」への禁欲を掲げ、治療者のカリスマ志向を排し「極論すれば、最終的には忘れられてしまうのが理想」とする。
 さらに「ひきこもりの社会参加をめざすなら、一人の治療者にできることはあまりにも限られている」として、臨床心理士や精神保健福祉士、民間NPO団体などとの積極的な連携を呼び掛ける。
 こうした、権威主義とは無縁の開かれた姿勢こそ、著者がひきこもり研究の第一人者たるゆえんであろう。
 その多年の臨床経験と理論的考察の到達点としての「治るとは『自由』になるということ」という指摘は、実に深い。
(中央法規出版・一三六五円)
by open-to-love | 2008-02-02 17:12 | ひきこもり | Trackback | Comments(0)