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ひきこもり本人への対応について

ひきこもり本人への対応についてー統合失調症とひきこもり
(東洋大学教授 白石弘巳)

1.ひきこもりは突然おこってくること
 統合失調症では、幻覚や妄想が活発な急性期に引続いて、元気がなくなる消耗期、その後徐々に活動の質や量が元に戻ってくる回復期に区別されます。この時期には、多くの人が、睡眠時間1日10時間以上、起きた後も自分の好きなことしかせず、外出は2週間に一度の通院や近所の買物だけ、話をするのは家族と主治医だけ、といった状況になります。こうした状況が「ひきこもり」といわれる状況です。
 統合失調症から回復するまでの間に、ひきこもりがちになる時期があることは避けられません。しかも、この状態は、薬を服用してもすぐには回復しないことが多く、人によって違いますが、数カ月から場合によっては数年続くことがあります。従って、気をつけていないと、この時期にご本人が無理をして再発したり、生活習慣が乱れたり、心配する家族との間で関係がうまくいかなくなってしまうといったことが起きてきます。
 ですから問題は、ひきこもりがよくないのではなくて、ひきこもりの時期を乗り切る前に別の問題が発生してくることにあります。ご本人やご家族の早くよくなりたいという気持ちは当然ですが、ひきこもりを乗り切る基本は「今以上に悪くしない」ということです。つまり、意外に思われるかもしれませんが、悪くしなければいつかよくなると信じて、回復までの間、安心してひきこもれる生活環境を整えることが大切なのです。

2.安心してひきこもるために
 それではご本人やご家族が安心して回復を待っていていいのは、どういう状態のときでしょうか?それは、「できること、やるべきことをしっかりやっている」とみんなが思える状態です。この時期には、病気のためにできないことがたくさんあります。でも、わたしは、以下のような点について、できることを見つけてほしいとお願いしています。
①家の中で役割をもちましょう
 病気の療養中でもお世話になるばかりの存在ではいけません。家族が毎日「ありがとう」と声をかけられる機会をまず一つ作るようにしましょう。たとえば食器洗いをする、犬の散歩をさせる、など何でもいいのです。要は、家の中で本人の仕事を決めて、それを続けてもらうことです。いろいろな家事ができるようになることが目標ではないので、矢継ぎ早に仕事を増やす必要はありません。
②起きる時間を決めましょう
 療養生活をする上で、生活習慣はとても大事です。特に、昼夜逆転の生活にならないように注意が必要です。そのためには起床時間を一定にすることを目標にしましょう。人によって起床時間はいろいろでしょうが、遅くとも午前10時くらいまでには起きて、朝ご飯を食べることで生活をスタートさせましょう。眠気が残るときは、カーテンを開けて部屋に光を入れたり、熱いシャワーを浴びたりすると、しゃきっとします。
③楽しく話ができる人を増やしましょう
 この時期、家族ともなかなか話さない人が少なくありません。家族は、率先して本人に挨拶の言葉をかけ、短時間でも楽しく話ができる時間をもちましょう。機会をみつけて外食やカラオケなどに誘ってみてください。最初は断られても、そのうち付き合ってくれるようになることが多いと思います。それから大切なのは、家族以外に話せる人がいることです。いつも家族と一緒だと、誰かと話す機会が生まれません。外来などで話し相手ができることを期待して、一人で通院できるようになることをめざすといいと思います。
④月に一度でも定期的に外出できる場所を作りましょう
 家の中にいて、外来通院以外は外出する機会がない人が少なくないと思いますが、月に一度くらい外出は必要です。本人が本当は行きたいところがあればそこに行きます。ある人にとってはそれはプラモデル屋さんでした。ある人は、月一度保健所のデイケアで料理教室のプログラムがあるときだけ出かけています。一人で行けなければ最初は家族などが付き添ってあげましょう。


3.できることからあせらずに
 今まで述べてきたことを全部できているという人はむしろ少ないかもしれません。でも、それはある意味で当然です。こうしたことを目安にして、できていることを一つでも増やしていくことが大切です。大切なことは、できないことに挑戦すると考えるのではなく、何なら今できるか、と考えることです。できることを確実に行っていくことが回復への道です。ご本人とじっくりお話をしたり、今後の生活についての約束をしたりすることがなかなかできない場合もあるでしょう。そのような場合は、通院先の職員や地域で相談にのってくれる人にも同席してもらったらいいのではないかと思います。

4.変化を受け入れることで生活が変わります
 以上のような生活を続けていると、いつかいつもと違うことが起こります。それは偶然のこともあるでしょう。たとえば、ある人は意を決して運転免許の更新に出かけることができた後、一人で留守番ができるようになり、外に出る機会も増えていきました。
 ただ待っているだけではなく、家族自身が楽になるような方向の依頼をご本人にいろいろしてみたらいかがでしょうか?たとえば、旅行に行きたいから留守番をしているか、一緒に旅行に行くか、どちらか考えてもらいたいとお願いすると、ご本人がどちらを選んだとしても、本人にとっては小さな変化を受け入れることになります。
 こうした小さな変化を経験するうちに、ひきこもっていた人は、再び一歩を踏み出すようになります。あることを機に、急に元気になる人もいますし、一進一退をくり返しながらという人もいますが、いずれにせよ、いずれは変化を楽しむことができるようになって、社会参加の機会が増えていくはずです。家族自身は生活を楽しむゆとりをもって、その変化を待っていればいいのです。

(月刊「みんなねっと」2007年10月号 今月のテーマ「ひきこもり」)
by open-to-love | 2007-10-31 20:32 | ひきこもり | Trackback | Comments(0)