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統合失調症の精神療法

Ⅱ.心理社会的療法

A.個人精神療法

1.統合失調症の精神療法に関するボストン研究

a.Gundersonらのボストン研究

 Freudが「統合失調症は神経症と違って、治療の中で転移を起こさない自己愛神経症なので、これに精神分析を行うことは海図なしで大海原に船出するようなもので不可能とは言い切れないまでも危険なことで自分はやらない」と言ったというのは有名である。その警告にもかかわらず、彼の高弟Federnは統合失調症の精神療法に挑戦した。もっともFedernのその挑戦には、後に、『母なるもの』で知られる有能な看護師Schwingの助力があったことは統合失調症の精神療法を考えるうえで暗示的であった。その後、Sechehayeの「象徴的実現」、Fromm-Reichmannの「精神分析的に方向づけられた強力精神療法」、Rosenの「直接分析」などのパイオニア的研究を経て、Sullivan、Pao、Searles、さらにはクライン派精神分析学者たちの努力にもかかわらず、今日では統合失調症の精神療法は一部の研究的実践を除くとほとんど単独の治療としては顧みられていない。それは、多数例についての統計的吟味のうえでなされた効果についての確証、経済効率、さらには治療者の治療技術の習得に多大の努力を要することなどが重なり合ったものと考えられる。ことに、統合失調症の精神療法の効果とその特徴を解明することを目的としたボストン研究は、統合失調症の個人精神療法について悲観的判断を一般精神科医の間に植え付けることになったといわれる。
 ボストン研究は後述するように以前にも統合失調症の精神療法の効果についての客観的研究を報告しているGundersonらが行ったものである。その内容は、急性例と極端な慢性例を除いて、統合失調症患者に対して薬物療法は行いながら、無作為に2群に分ち、一方には週2~3回の探索・洞察指向的な精神療法(exploratory-insight oriented psychotherapy;EIO)を、他方には週1回の現実適応的・指示的な精神療法(reality-adaptive supportive psychotherapy)を行った。観察期間は2年間であった。結果についてはEIO群では、自己理解、陰性症状など自我機能の改善がより多くみられたのに対し、RAS群では、日常生活、自分の役割、急性症状の改善がより多くみられたという。ただ、総合的には、2群の差異はそれほど大きいものではなかったと研究者たちは結論づけている。さらに、この研究では、精神療法を受けなかった対照群がないこと、この研究の対象になったのははじめ検討された164名のうち、95名であったが2年後の追跡調査では47名に減少し、多くの患者が脱落したことなどが問題にされている。
 このボストン研究の結果をどう読むかが問題であるが、統合失調症の精神療法について練達の治療者にしてもこの程度の効果しか上がらなかったこと、さらには多大の費用がかさむことから、「強力な精神力動的に方向づけられた精神療法」は多くの統合失調症には不適当であるとの主張がみられるようになった。そして支持的精神療法こそ有用であると考えられるに至った。
 それが、1980~90年代の薬物療法至上主義のアメリカ精神医学の支配的傾向となった。その中にあって、Gabbardは以前に、チェスナット・ロッジで入院治療の中で精神分析的精神療法を受けた163名の統合失調症患者についての退院後15年間の追跡調査の研究からMcGlashanが、約3分の1は良好な経過をとっており、それも改善に2つの種類があるとしていることをボストン研究の結果と関連させて高く評価している。すなわち、McGlashanの報告では、2群のうち、1つは精神病体験を自分たちの人生に統合したグループで、彼らは精神病の体験から重要なことを学んだと思っており、症状に違和感をもっていた。もう1つのグループは疾病を覆い隠すことで安定した回復を得ていることであった。これらのボストン研究とMcglashanの研究からGabbardは「精神病の体験を人生の中に統合できる患者に対しては、精神療法における内面探索的な作業が有益であることを示唆している。一方、精神病のエピソードを覆い隠している患者にとっては探索的な試みを続けることは、おそらく効果が得られないか有害なこともあるだろう。何らかの洞察を得る精神療法であればこそ、なおさら治療者による支持的な働きかけが重要になる」としている。
 統合失調症の精神療法では表出的なものと支持的なものとを区別する必要はないというのがこれら2つの実証的研究を踏まえてのGabbardの結論であるが、治療の実際にあっては患者の個別性を尊重しそれを十分に理解し、そのうえで適切な治療的手技を選択することが重要になる。

b.ボストン研究その後

2.統合失調症の治療における精神療法の位置づけ

3.統合失調症の精神力動的理解と精神療法技法

a.精神力動的理解

b.精神療法の原則

 1)治療同盟関係をつくる

 2)治療者は患者が治療を受けるに際しての主張や態度に柔軟に応じる必要がある

 3)最適の治療的距離の発見と維持

 4)埋もれた、しかもそれを認めることに臆病な患者の自己意識への着目-治療者の直観

 5)患者のこれまでの苦労と忍耐を評価する

 6)やがて患者は、自己をめぐる「正義」に敏感であることを示し始める

c.病相に応じた精神療法-慢性統合失調症患者への精神療法的チームアプローチ

4.おわりに

精神医学講座担当者会議、佐藤光源・井上新平編『統合失調症治療ガイドライン』(2004年、医学書院)
by open-to-love | 2007-09-06 16:11 | 心理療法・精神療法 | Trackback | Comments(0)