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「強制」処遇をめぐってー移送手続きとその問題点

「強制」処遇をめぐってー移送手続きとその問題点

名古屋大大学院法学研究科 山本輝之

はじめに
 1999年5月28日に国会で可決、成立し、2000年4月1日から施行された「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律等の一部を改正する法律」は、治療の必要性をみずから判断できない精神障害者に医療を受けさせる機会を確保するための措置を講ずるという観点から、緊急に入院が必要な精神障害者の移送に関する規定(措置入院のための移送ー精神保健及び精神障害者の福祉に関する法律[以下「精神保健福祉法」あるいは単に「法」という]29条の2の2、医療保護入院・応急入院のための移送ー34条)を設けた。
 このような移送制度は、行政機関の責任において、治療が必要な精神障害者の精神医療へのアクセスを容易にするという点で、評価すべきものであると思われる。厚生省(当時)は、法律の規定を実施するため、2000年4月1日、「精神障害者の移送に関する事務処理基準」(以下「事務処理基準」)を施行した。

制度創設の背景
 (1)家族に期待されていた精神障害者移送
 精神保健福祉法22条1項は、「保護者は、精神障害者…に治療を受けさせ〝なければならない〟」と規定している。治療を受けさせることには、精神障害者を医療機関に連れていくことも含まれると解されてきたことから、これまでは、医療保護入院が必要な精神障害者を医療機関に連れていき、治療を受けさせることは、実際上、その者の家族に期待されていた。
 しかし、現実には、家族にはそのような精神障害者を病院に移送する手段がない、家族の高齢化が進んだことで彼らが精神障害者を病院まで運ぶことは物理的に不可能であるなど、治療を必要とする精神障害者を病院に運ぶことを家族に期待することが困難な状況が生じていた。そのため、家族が民間の警備会社に依頼して、精神障害者を病院に搬送するケースが増加してきた。だが、このような精神障害者の移送をすべて民間の会社に任せると、その手続、手段がずさんになり、精神障害者の人権を侵害するおそれが大きいといわざるをえない。
 他方では、都市部を中心として家族と離れて単身で生活をする精神障害者が増加しており、これまで家族に期待されていた役割を果たすことができなくなってきている。このような状況において、近年、財団法人全国精神障害者家族会連合会(全家連)などの家族団体から、「行政が治療の必要な精神障害者を搬送して受診させることができるようにしてもらいたい」「資格を有する公務員をして当該精神障害者を医療機関に搬送し、受診させることができるようにしてもらいたい」旨の要望が強くなった。

 (2)一般救急業務による移送
 当時の公衆衛生審議会精神保健福祉部会では、消防法35条の5により行われている一般の救急業務を利用して、このような精神障害者を搬送すべきである、という意見もあった。たしかに、それまで実際に、そのようなことが行われていたところもあった。しかし、一般の救急業務の受け皿となる医療機関は、厚生省令に基づいて設置されている救急指定病院であるが、それは、精神科の医療に必ずしも対応していないのが現実である。
 以上のような理由から、医療保護入院を必要とする精神障害者を、行政機関の責任で、適切な精神医療機関に移送できる仕組みを法定化することが強く求められたのである。

移送制度の正当化根拠

 (1)移送制度はなぜ許されるのか

 (2)ポリスパワーとパレンスパトリエ

移送手続と問題点

 (1)医療保護入院のための移送

 (2)措置入院のための移送

民間警備会社による移送:1997年7月19日付朝日新聞朝刊が、この問題を取り上げ、主に首都圏などの都市部において、警備会社などの民間業者が家族との契約のもとに、受診を拒んでいる精神障害者あるいはその疑いのある者の病院までの移送を請け負っている実態がある旨を報道した。これに基づいて、平成9年度厚生科学研究班が都市部の保健所249カ所を対象に調査を行ったところ、その31・8%の保健所が、管内で民間警備会社による搬送が行われていることを把握しているという回答であった。益子茂、計見一雄、中島節夫ほか「精神障害者の人権擁護に関する研究」『平成9年度厚生科学研究費補助金研究(精神保健医療研究事業)研究報告書』1998年、251頁以下参照。
(『こころの科学』No.132/2007年3月)
by open-to-love | 2007-09-05 21:46 | 救急・急性期 | Trackback | Comments(0)