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精神保健福祉の動向と家族会のこれから

全福連発会式記念講演「精神保健福祉の動向と家族会のこれから−イギリスと日本の比較」 伊勢田堯

 伊勢田堯(いせだ・たかし)先生の紹介 先生は、1968年群馬大学医学部をご卒業後、群馬大学でデイケア部門主任、病棟医長、医局長等を歴任されています。1977年に精神分裂病の家族研究により、医学博士を取得されました。その後1988年英国ケンブリッジのフルホン病院精神科リハビリ部門に留学され、帰国後東京都の精神保健福祉センター3カ所でさまざまなお役目を歴任されて、2004年から現職の都立多摩総合精神保健福祉センターのセンター長でいらっしゃいます。(紹介・川崎洋子理事長)

いま大切なのは家族支援
 発会式の記念講演ということで、私としても光栄ですし、お話しする機会をいただいたことに感謝したいと思います。
 精神障がい、特に統合失調症の臨床が私のライフワークであります。また家族問題に関心がありライフワークの一つであります。私が家族問題に関心を持ったのは、家族の皆さんのおかれた立場とは、考えようによっては、統合失調症の患者さんより厳しい状況にあるのではないかと思うからです。親の育て方が悪いから統合失調症になったという汚名を着せられてきた歴史があります。汚名を着せられながら、わかりにくい病気と、そういう人を抱えるという困難な事態に対処しなければならなかったことは、やはり大変なことです。もともと臨床は、患者さんの話を聴くことによって発展してきたわけですが、表面だけ聴きますと親の育て方が悪いということになってしまいます。ですから私は、患者さんの話を聴くと同時に、家族からも直接、話を聴こうというスタンスをとってきました。そうしたら患者さんも大変だけれども、家族も大変だということが分かってきました。今でも家族病理を治そうというのが、家族療法の主流になっているようですが、私はそれとは距離を置いて、家族支援を考えてきたつもりです。

海外と差が開いた精神医療
 日本の精神医療は、海外の状況から遥かに遅れています。私がイギリスに留学して感じたのは、外国の情報が十分入ってきていない、日本は鎖国状態だと思いました。海外とはどんどん差が開いていく。日本は社会的入院を何とかしようという低い目標ですが、世界が挑戦しているのは、重度の障害をもつ人も地域で生活できるようにするためにどうしたらよいかということです。
 今では、イギリスで発表された政策はほとんど同時に日本に入ってきます。日本の現状とイギリスの発展を知っていただいて、日本がいかに遅れているかという事実を知らなければいけません。海外のことを言うと理想論とかいって、すぐに思考をシャットアウトしてしまう人が多いのですが、理想を掲げないで変わることができるのだろうかというのが、私の反論です。
 まず、私達の国の精神保健福祉がどういうことになっているか見てみましょう。

日本は病院・施設中心のサービス
 一言でいうと、鎖国的病院中心のサービスです。この度の日本の改革ビジョンでは、「入院医療中心から地域生活中心へ」ではなく、「病院・施設中心から地域生活中心へ」というスローガンにして欲しかったわけです。デイケアでの囲い込みや、退院促進施設の問題でも、施設収容というのが大きな問題ですから、施設から脱皮しなければならない。精神医療についても、精神病床数の極端な多さ、長い在院日数などとともに、日本の精神医療の内容は国際的に見て医療といってよいのかという厳しい問いかけをしなければなりません。一人の医者が多くの患者を受け持たなければならない、外来でも話す時間が十分にありません。デイケアでも個別のケアは困難です。大規模型病院や大規模デイケアという大規模の問題があります。集団治療というのは、イギリスでもアメリカでも、単独では効果がないと検証されていますが、そういう集団治療中心のサービスを私達はやらされています。受け皿としての施設も精神科病院と同様の問題をもちます。これからお話しする訪問チームによる支援を重視しなくてはなりません。
 しかし日本は、そこに政策の中心がいっていません。社会的入院を退院させる、そのために受け皿がなくてはだめ、しかし受け皿がないからなかなか退院させられないという論理にはまり込んでいるようにみえます。日本が変わらないとは、なぜかということを、我々は真剣に考えなければなりません。

日本は家族に義務が多過ぎる
 これまでの家族支援のことをまとめますと、日本では家族に対し監督義務とか医師に協力することとか、義務規定だけで、支援という項目がありません。イギリスの家族支援と比べても、参考にならないと思うかもしれませんが、やっぱり目標が必要ですので、改革が進んでいるイギリスの状況をお話しします。
 サッチャー政権が医療費削減と民営化ということで、医療費抑制に「成功」しました。しかし医療が荒廃して一般医療水準が低下し、医療にかかるのが不安という状態になりました。今のブレア政権が、1997年にできましたが、ブレアは教育改革と医療改革を政策の目玉とし、改革をはじめました。1998年には「必要な国民に、必要とされる最高の医療を届ける」ことをビジョンとして打ち出しました。またよい医療とはどういう医療かと研究する機関、国立優良実践研究所を作り、どこでも誰でも最高の医療を届ける指針づくりに取り組んでいます。ブレア政権では、5年で医療費を1・5倍にすると約束。医学部学生の定員も40%増にしました。医師だけではなく地域で働くいろいろな職種を増やしています。

精神保健・医療に7つの対策
 精神保健の改革はというと、「精神保健対策10カ年計画」というのを立てまして、具体的な7つの目標を掲げました。①に「精神的健康の増進」これは偏見の除去、精神障がい者の就労問題などです。次に医療を充実させ、利用しやすいようにということで、②「一次医療(外来)における精神保健ケアの充実」③「サービスの利用しやすさの改善」をあげました。24時間電話相談できる、医療につなげるサービス、訪問していつでも受け入れる体制を作ろうということです。④に「専門医療の充実」です。高度の専門的医療を提供する3種類の訪問チームをつくりました。⑤は「病院と危機対応用住居サービスの充実」です。象徴的なのが、総合病院の隣にある20
床の病棟です。近代的な病棟で、画一化せず個別のケアができて、訪問チームと連携した医療です。危機対応住居というのは、6人ぐらいの少数の重症患者さんにホステスを用意しています。道路に一番近い病院の敷地内にあって、病棟よりもっと濃厚なケアを、地域に近い環境でおこなっています。⑥の「家族支援」は次に詳しく話します。⑦に「自殺防止」として、きめ細かく、精力的な自殺防止対策をとっております。自殺率も最低を更新しています。

訪問して支えるイギリス
 10カ年計画の前半、5年後の成果が出ています。イギリスでは、訪問して支えるのが中心なのですが、訪問チームが大きく分けて2種類あります。まず平日対応の訪問して支えることが中心の一般の訪問チームがあります。その一般の訪問チームで対応できないものに、高度な専門チームを作っています。この「危機解決家族治療チーム」というのは、住んでいる家のベットが病床のベットで、眠れないとか興奮しているとかいうときに、そこんいチームが行きます。(次号に続く)
(月刊「みんなねっと」通巻第4号)

※家族の立場から、一点、反論します。「家族の皆さんのおかれた立場とは、考えようによっては、統合失調症の患者さんより厳しい状況にあるのではないかと思うからです。」とありますが、一番大変なのは患者です。(黒)
by open-to-love | 2007-08-22 21:06 | 全福連(みんなねっと) | Trackback | Comments(0)