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摂食障害

摂食障害(さまざまなケースでの対応法と医療サービス)
①神経性食思不振症(無食欲症)
 17歳女性。幼少時からやや肥満気味であったが、希望の高校とは別の高校に入学してから、食生活が不規則になって家族といっしょに食事をとらなくなり、体重もどんどん減少していった。家庭内では勝ち気な母親(やや肥満)がとり仕切っていて、父親をぞんざいに扱っていたので、自分は結婚してもああはなりたくないと思っていた。体重40kgを切ったあたりから肥満に対する恐怖心やボディイメージのゆがみ(他人から見ればやせているのに、自分の理想の体型と比べてまだまだ太いと思う)が増強し、市販の下剤も使用してさらに減量しようとした。月経も消失し、結局身長153cm、体重36kgで大学病院の精神神経科に入院となった。

②神経性過食症
 45歳主婦。夫と2人暮らし。28歳で結婚し、夫の実家のそばに住んでいたが、夫は帰宅が遅く、家庭内での会話も徐々になくなり、35歳ごろから夫婦生活もなくなっていた。ある日夫が買ってきたケーキを食べたのがきっかけで、さびしくなると大量のケーキを食べるようになった。夫が就寝したあともケーキやお菓子を買いに外出することもあった。義母はやせていて、常に肥満にならないよう気をつける人であった。その義母に受け入れられるには「自分も太ってはだめだ」と思っていることもあって、そのうちに過食後に無気力感に襲われたり、罪悪感を感じたりして、ケーキを一人で毎日たくさん食べてもその都度吐き出すようになった。さらに、しばしば下剤の乱用もみられた。

●摂食障害増加の背景
 日本国内では昭和30年代にはこのような病名は聞かれず、40年代になっても初めはめずらしい病気だったのですが、現在では女性を中心に増加の一途をたどり、高校生では1校に一人くらいは摂食障害、特に神経性食思不振症でかなりやせている生徒がいるとの報告もあります。
 病因については、まず第一にストレスと社会的風潮のもとでの「肥満蔑視」と「やせ願望」、思春期の自立葛藤(親離れの際に思春期特有の両立しがたい欲求と意思が同時に起こるため精神に緊張が生じること)などがあげられます。また、生理学的には、いったん食事量がかなり減少し体重も激減すると、脳内の中枢部位の摂食をつかさどる機構に障害が生じ、「食べない→食べられない→(過食の場合)食べたら止まらない」という摂食行動の異常悪循環に陥るようです。
 そのほかでよく指摘されるのは、「飽食の時代」の食の享楽化傾向や、核家族化に伴う親の過保護と自我機能の未発達(自立できない)、家庭内や職場での人間関係の葛藤などが、摂食障害の病因と因果関係が強く、感情障害(躁うつ)との合併も関係しているようです。
 また、患者さんの精神発達の過程で、女性としての成熟や自我同一性・アイデンティティの確立(自分というものを作り出そうとすること)への不安や回避などがあると、男性性の乏しい父親や、情愛のやや乏しい母親(あるいは家庭内で発言力がかなり強い母親)との人間関係に影響を受けやすいという指摘もあります。いずれにせよ、現在これらの摂食障害が思春期から青年期はもちろんのこと、さらには中年期にさしかかる女性にも増加してきているのです。

●症状を複雑化させる合併症
 摂食障害では、しばしば不安や抑うつ気分、強迫神経症などを合併していたり、あるいはアルコールや薬物依存、人格障害などの存在もみられることがあるようです。
 特に、神経性食思不振症と神経性過食症は、そのうちの何割かがうつ病を合併しているという調査結果もあります。何らかの気分障害(軽い抑うつ気分を含む)のある方もかなり多いようです。初診時の行動の障害としては、引きこもり、不登校、自傷行為(リストカットなど)、性的逸脱などがよくみられます。ただし、これらの症状は必ずしも人格障害という診断に結びつくものではなく、安易な抗不安薬の乱用(依存)などによっても、こういう症状が出やすいという指摘もあります。

●診断と鑑別
 まず、統合失調症との鑑別が必要です。そのほか、「檄やせ」については糖尿病や悪性腫瘍なども一応は疑う必要もあるでしょう。
 摂食障害の正確な病名診断はDSM-Ⅳの診断基準によりますが、おおまかにいえば標準体重の85%以下で、太ることへの恐怖がみられ、体型に対する認識の障害(やせているのに自分ではまだ太いと思う)、無月経などがみられたら、神経性食思不振症が強く疑われます。しかし、これらの診断基準が完全に満たされなくても、「特定不能の摂食障害」とすることもあります。神経性低体重のわりに活動的でよく動き回り、治療に抵抗し、栄養管を引きちぎったりすることも多いようです。
 さらに、体重は正常で消化器などの障害もないのに、過食と嘔吐を繰り返し、ときには下剤も乱用する場合は、神経性過食症が強く疑われます。

●相談すべき医療機関
 まずは精神科病院かクリニックの外来で相談しましょう。あるいは保健所などで、摂食障害の専門医がどこにいるのは聞いてみるのもよいかもしれません。特に思春期の患者さんは、大学病院やその関連病院、クリニックなどの「児童思春期精神医学」の専門の医師を紹介してもらうのがいちばんいいでしょう。体重も40kgを切って栄養状態が悪く、身体的に危機状態の場合は、精神科と内科か小児科の入院施設もある総合病院で、入院治療を受けなくてはなりません。

●治療の方法
 治療としては、まず病気に対する正しい知識を本人に植え付け、病気の本質を理解させることです。そして、背景にある人間関係上の葛藤を、支持的に受け止めながら、精神科のある医療機関で精神療法などによって解きほぐしていきながら、摂食行動を改善させていくことが基本です。代表的なものとして、次の2つがあげられます。
①認知行動療法
 体型と体重に関する歪んだ価値観や信念、知識を改善し、それとともに食行動の正常化を促す。
②薬物療法
 対症療法として、うつや強迫神経症状が合併する場合にはSSRIなどを処方する。最近ではSSRI、特にフルボキサミン(商品名ルボックス、デプロメール)がうつ症状の有無に関係なく、中枢に作用して摂食行動異常を改善するという報告もある。
 ただし、重症例で体重減少が顕著で全身症状も悪い場合は入院の適応であり、栄養補給と全身管理を優先することを前提として、精神療法を行う必要があると考えられます。

●経過と予後
 治療経過と予後については各研究施設、病院の報告によって、数字に多少の違いがみられます。最近の神経性食思不振症では、体重が正常化していて「経過良好」が20〜40%、体重が元に戻らない「不良」が15〜30%、そのほかは部分的に改善しているといった具合です。ただし、「良好」になるまでには、人によっては治療期間が3〜5年くらい、あるいはそれ以上かかることもあります。「良好」となっている人でも、体重へのこだわりは多少残ることも多いようです。なお、死亡率についてですが、全体の数%は亡くなっています。原因は、自殺、循環器(心臓)系の疾患による突然死、衰弱とそのほかの内科的疾患、原因不明となっています。
 神経性過食症では、5〜10年の治療経過のうちに約半数は回復しているといった指摘がある一方、20%は「よくなっていない」、また20〜30%は「再発を繰り返している」という報告もあります。死亡率は比較的低く、全体の約1%以下です。
 なお、神経性食思不振症のうち、無食欲であるのに「むちゃ食い/排出(嘔吐、下痢)」もみられる特殊なタイプでは、死亡率が高い(20%)とされています。
(『精神科医療サービスを上手に受ける方法』法研、2006年)
by open-to-love | 2007-07-27 22:11 | 摂食障害 | Trackback | Comments(0)