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何となく妙な感じの、引きこもる人

何となく妙な感じの、引きこもる人(さまざまなケースでの対応法と医療サービス)

 不登校の子ども・青少年の増加が最近は社会問題となってきています。不登校には、引きこもりやリストカットなどの自傷行為、さらには暴力や家出などの行為障害も付随してみられるケースもあり、複雑化してきています。その原因については単に心の問題(葛藤)から精神障害や人格障害などに起因するケースもあると考えられます。
 そのなかの代表ともいえる「統合失調症」の初発症状は、〝何となく妙な感じで、引きこもる〟という場合が多いようです。〝ひとり言をいったり、雨戸を閉めて部屋を暗くし、何かにおびえたり、些細なことで興奮する〟こともよくみられます。
 以下、代表的な事例をあげたうえで、考えられる問題・病気に関する対応法を解説します。

不登校
 男子高校生が最近自室に閉じこもり、学校にも行かず、同居の家族とも顔を合わせようとしない。食事だけは自室でとっている。また、夜は寝ないでうろうろしているようだ。家族とも面と向かって話をしようともしない。(似たようなケースが多々ありますが、個々の細かい症状は千差万別です)

●考えられる病気など
 こういったケースでは、その原因となる問題として、①心の問題と、②脳・神経系の病気の2つがあると思われます。

①心の問題
社会的引きこもり
 不登校は必ずしも脳・神経系の病気とは限りません。また、身体的(器質性;すなわち明らかに病気の原因や損傷部位があり、それが元で症状が現れる)、知能的に何の問題もないにもかかわらず、何らかの情緒的な問題があって登校できないか、登校しようとしない状態もありえます。
 たとえば親の離婚などで家族関係に恵まれず、家での安住の場所がなく、心の安定が得られない場合や、学校でいじめにあい、心に深い傷を負った場合など、本人を取り巻く環境が疎外感を与えるような場合には、不登校のみならず引きこもりにもつながっていきます。
 一般にこのような心の問題(人間関係における葛藤)は、やはり10〜20代の若者に多いとされていますが、高年齢に達して社会的引きこもりに発展する例も増えています。また、リストカットのような自傷行為がみられる場合もあります。
 不登校の症例のうちかなりの生徒は、環境要因に大きく起因し、本人の主張も了解可能なことが多いようです(たとえばいじめがあるので学校に行きたくない、学校の先生とそりが合わないのでいきたくない、両親が離婚してそのショックで悩み学校どころではないなど)。このような場合には本人の話をよく聞き、悩みを少しずつ軽減してあげれば、問題解決の糸口がみえてくると思います。
 また、端的に「リストカット=人格障害」という判断は必ずしも正しいとは限りません。別項でも述べますが、安易な抗不安薬の乱用で躁うつ症状がかえってひどくなって、リストカットなどの自傷行為に至り、人格障害と誤診される例も多いという指摘があります。

②脳・神経系の病気
統合失調症
 初発症状は引きこもり、不眠、妙な行動などが徐々に現れてきます。本人にどうしたのか聞くと、「自分でもよくわからない」「どうも変な感じがする」といったむねの訴えがよく聞かれます。現状は他人の声(ときとして悪口など)が聞こえたり、視線が気になってしかたがなかったり、考えがまとまらず(本人は「集中ができない」という表現をすることもあります)、自分でもどうしていいかわからない、何かしらに対して不安や恐怖を感じるという状況です。

うつ病
 いくつかの思い当たる原因はあるものの、それをさしひいても意欲の低下、不眠、体のだるさが尋常ではない状態です。ストレスによる神経へのダメージが強く、神経が疲れきった状態ともいえます。こういう状態では、ただ一方的に叱咤激励するとかえって症状が悪くなり、場合によっては不安焦燥感をあおり、特有の罪業妄想(自分を責める気持ちが強くなる)から自殺などの事故に発展する危険性もあります。

③心の問題と、脳・神経系の病気の両方に関係する場合
 人格障害というものも考慮しなければなりません。
 人格障害は、パーソナリティーの問題で、最近では甘やかされた教育環境のせいもあるのでしょうが、自己愛性の人格障害(絶えず自己への愛情や賞賛を求め、それがかなわない場合は他人への憤激、屈辱感が噴出する)や、さらには境界性人格障害(感情や行動が不安定で、不安や怒りなどを容易に表出し、非行、自傷行為、薬物乱用などを起こしやすい。また、他人を自分の理解者として理想化しやすい反面、一変して軽蔑したり、逆恨みして対人関係でさまざまなトラブルを起こす)などが増えてきています。
 人格障害は精神疾患とは違い、必ずしも薬物治療で〝治る〟ものではなく、時間をかけて未熟な人格が成熟していくように、一定の距離を置いたうえでのカウンセリングや環境調整、教育が必要ですが、治療はかなり困難なのが現実です。

●不登校や引きこもりによくみられる付随症状
①リストカットや壁に頭をぶつけるなどの自傷行為(頻繁になるが、自殺までいかないのがほとんど)
②拒食・過食・嘔吐(摂食障害)
③大量服薬
④自殺企図
⑤行為障害(家出、窃盗、暴力、破壊、放火、薬物乱用、性的逸脱行動など)
 これらの症状のうち、特に自傷行為や自殺企図などの根底には、少なからず「うつ」状態があるのは確かです。家族や友人などの人間関係の葛藤などで「うつ」の落ち込んだ気分があり、それからの逃避ともとれるようなきっかけで手首を切って、それが繰り返されることも多いといわれます。最初は何げなく「やった」という場合が多いのですが、その後もこれらの行為は繰り返し行われることが多いようです。
 また、行為障害は反社会性の問題行為で、他人を傷つけたり器物を破損したりする行為の総称です。
 引きこもりや自傷行為は習慣化する傾向があります。原因として、単なる心の問題以外では、臨床的診断として神経症、摂食障害、薬物依存、躁うつ、統合失調症、そして境界性人格障害などが考えられます。そのため、精神科医療機関での鑑別(見分け)と対応が必要です。

●対応のしかた
 まずは、本人が一番困っている、どうしていいかわからない状態であることを理解して、そのうえでいっしょになって善処しようとアプローチすることが基本です。
 具体的に本人から、頭痛、めまい、吐き気あるいは下痢などの症状の訴えがあり、それが原因で登校できないという場合は、いじめやどうしても納得出来ない原因が学校にあり、それに体が意識以上に拒絶反応を起こして、そういった身体症状を起こしている可能性もあります。そのような状態で無理やり登校させようとすると、暴力をふるって拒絶したり、自己防衛のためか無理難題をいい出したりするケースもあります。
 不登校が長引くと、たいていの場合昼夜逆転し、生活も不規則になっていきます。
 このような場合に当てはまると思われるときは、家族はまず、腹をくくって、結果的には学校を変わる、あるいはやめさせることも覚悟して、親身になって子どもの悩みを聞くことが、解決に向けた最初の糸口となるでしょう。場合によっては数ヶ月、あるいは年単位での取り組みになるかもしれません。しかしながら、ここは人間として成長する過程で多かれ少なかれ体験するべき試練ととらえて、まずは本人の気持ちをじっくり聞きましょう。
 ぼちぼちでも話したら、チャンスを見計らって勇気づけることも必要です。また、保健師やケースワーカー、場合によっては心理士などにも、訪問や電話でのやりとりで支持的に情報提供してもらったり、援助者として間に入ってもらうことも有効かもしれません。
 一方、まったく家族の接触にも応じず、部屋に閉じこもり、さらには雨戸やカーテンも閉め切って薄暗い部屋でじっとしている、あるいは何かひとり言をいっている、ちょっとした音にも敏感に反応して、何かにおびえているといった場合には、統合失調症の症状である可能性があります。また、意欲が出ない、何もやる気が起きない、食欲もないし、だるくて起きられないなどといった症状が強く、表情もつらそうであったり、苦しそうな場合はうつ病の可能性もあります。
 このような場合には心療内科や、精神神経科クリニックへの受診をおすすめします。こういった場合は、統合失調症の初発症状である場合が多く、治療は主に服薬とカウンセリングになります。最近の精神医学は発達してきていますから、治療開始が早ければ早いほど、社会復帰できる方が増えています。
 人格障害については、専門のクリニックや心理学的療法を行っている施設での集団療法などのカウンセリング、内観療法、あるいはそのほかの宗教的な教育などで効果があったとされています。

●相談できる機関など
 精神神経的な病気の可能性がないケースについては、家族の支持とできれば学校の担任や信頼できる先生へ相談することが、まずとるべき方法でしょう。あるいは保健所の保健師やケースワーカー、心理士などに相談し、彼らの支持的な訪問や電話相談を手助けにするという方法も有効な場合があります。
 もし、統合失調症の可能性がある場合、直接心療内科や精神神経科を受診できればいいのですが、なかなか本人が承知しないでしょう。その場合、無理やり連れて行くことは、その後の人間関係、家族の信頼関係を考えると得策とはいえません。そこで、まずは
①ここはと思われる精神科関連のクリニックか病院に問い合わせ、まずは家族だけでも伺いたいので相談に乗ってくれるかどうかを聞きましょう。そのクリニックに、ケースワーカーや心理関係の窓口になってくれる人がいれば都合がいいのですが、もしいなくてもとりあえず話を聞いてもらいましょう。
②近くの保健所に相談に行くのもひとつの手です。保健師さん、あるいは民生委員が訪問してくれるケースもあります。そこから相談内容やケースによっては、適宜病院を紹介してくれるところもあります。
③いずれの場合でも、最終的には本人をしかるべき医師に受診させなければなりませんし、必要であれば入院、服薬も受けなければなりません。その際に、ある程度本人が判断できる状態であれば気長に説得することもできますが、症状が進行していて自傷他害(自らやまわりの人を傷つける)の恐れがある場合は、最後の手段として、保護者家族の同意を得て本人を入院させる医療保護入院や、都道府県知事の命令で入院させる措置入院という方法をとることになります。

●相談時の注意・心構え
 いちばん心配されるのは、実際は病気であるのに、ご家族が病気であることを無意識に恐れるあまり、様子をみすぎて治療が遅れてしまうことです。
 特に統合失調症やうつ病などでは、本来なら早期発見できれば早期治療により症状が重くなる前に回復ができ、早めに社会復帰できる可能性が高くなります。これを逃してしまうと症状が重症化し、社会復帰も著しく遅れる可能性があります。したがって、なるべく素人だけの間で相談するのではなく、早めに専門のドクターやケースワーカーに相談することをおすすめします。
 たとえ本人が診察をかたくなに拒否しても、家族からみて明かに危険だ、つまり顔つきも険しく、態度も落ち着かず、場合によってはものを壊したり暴力的になったりして、本人の理性では制御できない状況に陥っている場合は、患者さん自身を守るため、そして家族を含めてまわりの人も守るために、迅速にしかるべき機関に相談するべきでしょう。
 これからも続く患者さんとの家族関係、人間関係も当然大事ですが、精神疾患の可能性がある場合は、人命尊重の立場を勇気をもって選択されることをおすすめいたします。

●まとめ
引きこもり、不登校→
①症状に環境(学校でのいじめ、ストレスなど)との因果関係がある(心の問題)か否か→学校や児童相談所に相談→本人の考えをよく聞きながら環境を整えてあげる努力をする
②多少の精神症状がみられるかを見極める(心の病気)→精神神経科や保健所に相談→精神科的な治療(薬物療法やカウンセリング)

(麻布大学健康管理センター長 環境保健学部教授、精神科医 岩橋和彦編著「精神科医療サービスを上手に受ける方法 心の問題で困ったときに」法研、2006年)
by open-to-love | 2007-07-26 03:04 | ひきこもり | Trackback | Comments(0)