精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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統合失調症(さまざまなケースでの対応法と医療サービス)

統合失調症
 22歳の独身男性。現在は両親と同居しており、隣の町には姉が独立して暮らしている。大学在学中からほとんど大学に行かず、下宿に引きこもっていた。たまに姉のところへ行き、「友だちや教員から狙われている、殺されるかもしれない」といっていた。その後大学を中退し、以降自宅の自室で、昼間から雨戸を閉め、部屋を暗くして引きこもっている。ある日急に「やられる!」と大声を出して外に出て、隣の家の窓ガラスを叩き割った。すぐに両親が隣家にわびるとともに、その足で本人を精神科病院に連れて行き受診した。診察中もやや興奮気味で、入院治療が必要だと医師が説得しても、意思の疎通が得られず、このままでは自傷他害の恐れもあるため両親の同意を得て医療保護入院となった。

●考えられる病気など
心因反応による引きこもり
 何らかの心理的に大きな影響を与える環境要因があり、それに引き続いて精神障害が起こることを「心因反応」と呼びます。つまり、心に突き刺さるようなショックを受けるような事件があり、それによって急性のストレス症状を伴ったり、あるいは一過性に多彩な精神症状をみせるものです。この場合の多彩な精神症状とは、興奮、被害妄想、幻覚、そして情緒的混乱を伴う症状を指します。
統合失調症
 統合失調症では、初発症状はひきこもり、不眠、妙な言動や行動が徐々に現れてくることが多く、本人も「自分でもよくわからないが、どうも変な感じがする」という状態です。現状は他人の声が聞こえたり(幻聴)、考えがまとまらず(本人は「テレパシーが入ってきて頭が混乱する」という表現をすることもあります)、不安や恐怖を感じるという状況です。
 このケースでは、大声でわめいたり、いきなり器物を損壊したりする衝動性から、躁うつ病などの可能性は低いと思われます。

●治療の方法
初期治療導入
 前にも述べましたが、統合失調症は脳・神経系の病気で、おおよその本質と実態は、「認知」という機能の障害に基づくものです。「認知」とは見たもの(視覚)、聞いたこと(聴覚)、などが、脳・神経で自覚され、さらにいろいろな経験や思考(考え)がそれに加味されて、ものごとの実態を認識し、さらに推理判断して、発言したり行動にして実行する一連の知的行動です。
 統合失調症の患者さんは、脳内の認知機能をつかさどる大脳辺縁系になんらかの異常が起こっていると考えられます。つまり、認知機能の障害で、外界の刺激の実態がうまくつかめず、さらに幻覚(主に幻聴)も伴って、何か得体の知れない外敵が待ち構えているような不気味な感じがして、自分の外からくる情報、接触を拒否しているといった状態です。特に急性で症状が増悪(悪化)した患者さんは、外界からの刺激を不気味に感じる気持ちが強く、身構えつつ恐怖や不安に押しつぶされるような状況なのです。
 ですから、いきなり家族が治療を受けるように説得しても、その理由はおろか、状況そのものが理解できず、いっそう不安や恐怖が増します。それが、急性期の(初発の)統合失調症患者さんが治療を拒否するいちばんの原因です。

治療を拒否する患者さんへの対応
 まずは多少の無理をしても本人を病院に連れて行き、抗精神病薬の薬物治療を受けさせましょう。そのまま放っておけば、症状はますます悪化し、本人もつらく、また本人だけでなくまわりの人にとっても不利益を生ずる事故が起きる可能性も出てきます。ご家族にとってもつらくし難しいことですが、このときに中途半端に及び腰になったりおびえた態度になってしまうと、余計に事態を悪化させ、患者さん本人も不安感や恐怖感を増幅させてしまい、ますます治療を拒否する傾向が強まってしまいます。
 ですから、できるだけ穏やかに、そして適切かつ迅速に、場合によっては毅然とした態度で治療に誘導するべきです。患者さんとご家族、患者さんと主治医間の信頼関係を築きつつ、脳・神経の病気の症状を取り除くための最善の手段を取り入れ、すすめていくしかありません。病院に連れて行くまではご家族の仕事です。ご家族のしっかりとした判断と協力なしでは、治療を拒否する患者さんへの対応はできません。
 患者さんは向精神薬を医師からもらっても、その薬がどうして「心」に効くのかよくわからないこともあります。また、「心」が薬によってコントロールされるのかと疑ったり、あるいは薬がくせになってしまうのではと心配になり、その薬を飲むのが嫌になったり怖くなったりしてしまいます。単に治療のため薬を飲みましょうとすすめられても、ほかの外部からの情報と同様に、意味がはっきり「認知」できず、かえって混乱し興奮したり、恐怖心があおられる可能性が高いかもしれません。これが拒薬(服薬を拒むこと)や治療導入(通院や入院)の困難な理由です。
 ですから、精神科の薬は「脳・神経系」の病気の症状に効くと割り切り、脳・神経の病気を治すために、薬も使っていこうと患者さんに考えてもらうことです。薬によってコントロールされるのは脳・神経系の病気の症状だけです。病気の症状が改善されればイライラ、幻聴、興奮といった不都合なことも軽減されます。
 患者さんが薬の副作用について心配して薬を飲みたがらない場合もあります。確かに同じ薬でも体質によっては眠気や倦怠感などの副作用が出る場合もあります。主治医ときちんと相談し、できるだけ副作用が出にくいように薬の種類や量を調整して処方してもらうようにして、とにかく服薬は継続するようにしましょう。

法的な入院もある−措置入院、医療保護入院など
 場合によっては、患者さんの保護を目的として、法的処置を講じてでも入院や治療をすすめなければならないこともあります。つまり、自傷他害(自殺、自傷行為や他人に危害を加えること)の恐れがある場合は、本人の不利益や周囲への被害を避けるために、強制的に法的処置をもって患者さんを入院させ、治療に導入します。
 そのためには、措置入院(2人の精神保健指定医の精神鑑定の結果、入院治療が必要と認められた場合、都道府県知事の責任のもと、本人の意思とは関係なく入院させる)、医療保護入院(指定医による診察の結果、後見人か配偶者、あるいは患者が未成年の場合は親権者か扶養義務者が保護者として同意すれば、入院させることができる。これらの保護者がいない場合は家庭裁判所が選任した者が保護者となりうる)などが用いられます。

治療は中断しないこと
 いったん治療に応じて、急性期の症状が改善されてくると、意思の疎通も得られやすくなってくるので、家族としてもまずはひと息つけますが、ここからが重要です。服薬を続けながら、社会復帰のためのリハビリテーションに移行するべき段階に入ったのです。
 しかしながら、患者さんによっては、「もう治った」、「薬を飲んでいる間は治ったことにならないから、ぼちぼち薬はやめる」といって自分の考えで服薬を勝手にやめてしまう方がいます。これは再発防止の観点からも危険なことです。また、症状がよくなったと思って自己判断で薬を減らしたり、一気に飲むのをやめると、かえって症状が悪くなったり具合が悪くなったりします。
 薬を減らす場合は、主治医と相談しながら徐々に減らして、最後は再発防止のために必要最小限の量のみを残してもらいます。そして定期的に通院し、薬の効果が安定しているか、副作用が出ていないかなど、状態をチェック(モニター)してもらうことが必要です。
 これらの流れを前提にしたうえで相談できる機関を探しましょう。
(麻布大学健康管理センター長 環境保健学部教授、精神科医 岩橋和彦編著「精神科医療サービスを上手に受ける方法 心の問題で困ったときに」法研、2006年)
by open-to-love | 2007-07-25 21:45 | 統合失調症 | Trackback | Comments(0)