精神障害がある当事者、家族、関係者、市民のネットワークを目指して


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ひきこもりへの対処

ひきこもりがちな本人、家族としてどうしたら?

問:家にばかりいて先の見えない息子の将来が不安です。息子は30歳になります。高校3年生の時に統合失調症を発症し入院もしました。その後は通院で治療を受けています。障害年金は2級をいただいています。本人は几帳面な性格で薬もきちんとのみ、お風呂も2日おきに自分で湯を入れて入ります。たまには家事を手伝ってくれます。近所のお店にはたまに行きますが、夜間や人の多いところに出ることができません。悪口を言われているような妄想があるみたいです。日中はパソコンを見たり音楽を聞いたり、横になっていたりして何をするでもなく過ごしており、デイケアや作業所を勧めてみましたが行きたがりません。こうして家に独りでいる本人を見ているとこれからどうしたらよいのか先が見えず、将来が心配でなりません。皆さんはどうされているのでしょう。

答:多様な「ひきこもり」像
 私も同じような息子(37才)を持っている母親です。専門的な見地というより、相談されている方と同じ母親の立場で考えていること、やっていることをお話します。私の家の場合も高校3年の2学期の不登校からひきこもりが始まりました。昼夜逆転の生活になり、家族との会話もなくなり、部屋に閉じこもるようになってしまいました。
 自殺未遂をして病院とつながり、統合失調症と診断されました。今はグループホームにいますが、デイケア、作業所には行かず、ひきこもり状態です。
 この「ひきこもり」状態をどう理解したらいいか、平成13年に厚生労働省はガイドラインを発表しました。それによりますと、ひきこもりとは、6カ月以上自宅にひきこもって、会社や学校に行かず、家族以外との親密な対人関係がない状態と定義されています。
 「ひきこもり」はさまざまな要因によって社会的な参加の場面がせばまり、自宅以外の生活の場が長期にわたって、失われています。特にはっきりした理由や原因がわからないことも少なくありません。精神疾患が影響している場合や「社会的ひきこもり」とよばれているような取り立てて原因と言えるものがみつからない場合もありますが、相談の方も私の息子も統合失調症ですので、精神疾患が影響している「ひきこもり」と考えられます。
 「ひきこもり」の実態は多様で、自宅から一歩も出ない人、近所のお店などには行ける人、数週間ひきこもっている人から数年間以上もひきこもっている人、十代の思春期からはじまった人、二〇代、三〇代の人などさまざまです。
 「部屋に閉じこもっていて一体何が楽しいのか、外に出れば興味をひくものもあり、世界がひろがるのになあ」と私は思っていました。しかし、息子からは「とても充実していますよ。やることや考えることが一杯あります」という返事が返ってきました。「へえエ、そうなんだ。つまんないのではないのか?」。
 息子がやっていることは、好きな車関係の本を読むこと、CDやラジオをきくこと(テレビはあまり見ません)、日記を書くことなどです。こんなことでよいのだろうかと親は思いますが、本人は社会と関われないことに苦しんでいるのだと、主治医から説明を受けました。一見楽をしているようで「甘えている」「怠けている」ように見えますが、疾患のため、不安や恐怖感などがとても強くなり、人と会うことが困難になり、ひきこもってしまいます。
 ひきこもることによって、外部からのストレスをさけて、自分の部屋に仮の安定を得ているわけで、心理的には安定しているというわけではないことを、私は理解しました。

ひきこもり脱出の十か条
 東京都のひきこもりサポートネットを参考にしました。
1.目標は小さく
 まず小さな目標から始めます。家族はどうしても期待をかけてしまいますが、これは注意が必要です。息子、娘のクラスメートがやれ一流大学に入学したとか、一流企業に就職したとか、結婚したとか聞きますと、そこまでではなくともなんとかならないものかと、親の気持ちは複雑です。でも、ゆっくり本人の足並みにあわせていくことがたいせつです。
2.焦りは禁物
 本人は一刻も早くこの状態から抜け出したいと願っています。しかし、焦りの気持ちは不安な気持ちに通じます。家族も同じです。焦ってはいけません。少し調子がよくなると、すぐに次のステップを考えてしまいますがこれは禁物です。本人に過剰なストレスをあたえることになってしまい、再発の原因にもなります。
3.自分の得意分野
 苦手なことに直接手をつけようとしても克服できません。一番やりやすいところから始めるようにします。
4.相談相手を見つける
 信頼できる人、自分のことを理解してくれる人や相談窓口など、なるべく多くの相談できる人がいるといいですね。
5.他人に頼っていいのです
 ひきこもりは自分だけでは解決できません。人の力を活用できることがたいせつです。
6.過去より未来志向
 過去の出来事が障害になって前に進めないとき、思い切って過去から未来に視点を切り替えて、これから何ができるだろうと、考えてみるのもよいことです。
7.失敗してもよいのです
 もうこれ以上失敗できない。そう考えていませんか? 失敗しないにこしたことはありませんが、失敗をおそれていては、前に進めません。失敗は成功のもと。そんな気持ちでいることが大切です。
8.身近な資源の活用
 保健所、精神保健福祉センター、医師やカウンセラー、たまり場などがありますが、敷居が高いですね。でも、勇気をだしてたずねてみると意外と大きな力となってくれるはずです。
9.元気はだれでも持っています
 どんな人でも元気の素は持っています。それを使える状況にあるか、ないかだけの差です。
10.希望を捨てずに
 ひきこもりから抜け出したいという気持ちがあれば、抜け出すことは可能です。絶望は、心のもちようで希望につながるのです。

家族との適切な距離
 家にひきこもりの人がいると家族はとても神経を使ってしまい、疲れてしまいます。家族が自分自身の生活を持ち、生き生きしていることがひきこもりの人に元気を与えます。
 私は息子が統合失調症と診断されたとき、それまで続けていた仕事を辞めようかと思いました。しかし、「辞めてはだめ! 仕事を続けることが息子さんにとってもよい影響をあたえることになるのだから」と言ってくれた人がいました。そのとおり、息子への干渉も少なくなり、私と息子のほどよい距離が、良い関係づくりに役立ちました。同じ屋根の下で困難と思われるでしょうが、親のほうが外に出て新しい空気を家にいれることは可能なことです。

ひとりぽっちにしない
 ひきこもっていても、友達がほしいといいますが、その機会がありません。しかし、きっかけがあれば外に出られることが、いくつかの現場で分かっています。私と仲間は、自宅を開放してひきこもりの本人と親が集まる場をつくりました。まだ本人の参加は少ないですが、出てみようかなという声が聞かれるようになりました。ほんとに少しづつしか変化は現れません。いまは焦らずに見守っていますが、将来的には彼らでできる仕事探しをしたいと考えています。
 親亡き後のことが一番心配です。そのために、親は何をしたらいいのでしょうか。
 障害をもって生きる本人が一番だいへんなことを理解したいです。時間はかかりますが、状態は良くなります。それも家族の接し方次第です。親の考えではなく、本人の思いをしっかり受け止めるようにします。本人が生きる喜びが分かり、力がだせるように寄り添うように生きることが、親に求められているのではないでしょうか。
 親としてはほんとうにこれからのことが心配です。でも、一番たいせつなことは、本人が生きることをすばらしいと感じてくれることではないでしょうか。そこから自分のやりたいことが開けていくのではないかと思います。病気とつきあいながら生きていくのは本人です。家族が一番の味方であり、一緒に寄り添うようにそばで見守って行く存在であるべきではないでしょうか。
(月刊「ぜんかれん」2006年7月号 「ハイ!相談室です」回答者:川崎洋子 家族、社会福祉法人プシケおおた理事)
by open-to-love | 2007-07-16 22:27 | ひきこもり | Trackback | Comments(0)