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うつ病(「精神保健福祉白書」2006年版)

うつ病
 最も新しいわが国の疫学調査結果では、うつ病の生涯有病率は6・5%と報告されている。(川上憲人:気分障害の疫学「精神科臨床ニューアプローチ 気分障害(監修:上野国利)」メジカルレビュー社、p.16−21、2005)ヨーロッパで行われた大規模な疫学研究の結果では6・9%(6カ月有病率)であり、大きな違いはないようである。正確な時点の有病率はわからないが、仮に2%とすると単純計算で200万人程度のうつ病患者が存在することになる。厚生労働省が行っている患者調査によると気分障害の通院患者はおよそ70万人なので、医療機関を利用しているうつ病患者はうつ病全体の約3分の1ということになる。
 最近の自殺者の増加は社会問題にもなっている。警察庁の統計では、7年連続で毎年3万人を超える自殺者が生じており、社会的には失業率との相関がみられることから背景に経済不況が存在することは明らかであるが、うつ病が深く関与することも事実である。自殺者の生前の病状や治療歴を的確にとらえることは困難であるが、自殺者の70〜90%が生前に何らかの精神疾患に罹患しており、そのうちの60〜70%がうつ病であるとの報告も存在する。
 このような重症うつ病と自殺が話題になる一方で、近年うつ病が増加している。(疫学調査はないので臨床現場での感触にすぎないが)ようであるが、その主体は軽症うつ病と思われる。軽症うつ病を中心にうつ病の8〜9割はプライマリ・ケアを受診しており、うつ病はプライマリ・ケアの病気といっても過言ではない。ただし、プライマリ・ケアでうつ病が正しく診断されているかというと、少し古い調査であるが、1995年のWHOの調査でわが国のプライマリ・ケア医のうつ病診断率は20%であったことからすると、早期診断、早期治療が実行されているかどうかは疑問である。
 治療に関する最近の進歩について、薬物療法に限って言及する。SSRI、SNRIが導入されて5年が経過した。主に従来薬に比して副作用(特に抗コリン性の)が少なく、安全性にすぐれていることから、しだいに第一選択薬の位置を占めつつあることは間違いない。しかし、消化器系の副作用や性機能に関する副作用の存在はプライマリ・ケアの汎用を妨げる原因になっている。また、投与中止に伴う離脱症状、投与初期の不安、焦燥の一過性の増強の問題や精神科猟奇での重症例への効果の不十分な点など、まだ「理想的」抗うつ薬にはなりえていないのも事実である。
 従来、うつ病は比較的予後のよい病気と考えられてきた。確かにうつ病の7割方は抗うつ薬に反応して寛解に至るといわれる。しかし、残る3割は難治性とされること、また寛解しても再発の多い病気であり、社会的活動が制限される例が少なからず存在することが明らかになるにつれて、うつ病の再発防止、家族の心理教育、ソーシャル・サポート・システムの確立が重要課題になりつつある。(樋口輝彦)
(「精神保健福祉白書」2006年版 第7部 精神科医療)
by open-to-love | 2007-07-11 22:05 | うつ病・躁うつ病(気分障害) | Trackback | Comments(0)